女性の働きやすさを追求することが、社長としての使命｜アルページュ代表取締役 野口麻衣子さん
女性としてこれからのキャリアに悩むSTORY世代。’22年に女性活躍推進法が改定されてからはますます女性の活躍が期待され始め、徐々に女性管理職比率も高くなってきています。第一線で活躍している女性リーダーの方々にお話を伺うと、そこには、キャリアの狭間で自身の生き方を見つめ、可能性を信じてチャレンジする姿がありました。今回ご登場いただくのは、Apuweiser-richeなど6ブランドを展開するアパレル会社（株）Arpegeの代表取締役社長を務める野口麻衣子さんです。（全3回の3回目）
野口麻衣子さん（49歳）
株式会社アルページュ 代表取締役社長
新卒で入社したアパレル企業で1年働いたのち、両親が創業したアルページュに入社。『アプワイザー・リッシェ』の前身ブランド立ち上げに携わり、現在は6ブランドを展開、250名近いスタッフを擁する企業に導く。2008年に第1子、2016年に第2子を出産。2017年より代表取締役に就任。2020年には心地よさをキーワードにした新ブランド「カデュネ（CADUNE）」をローンチ。Instagram：@noguchimaiko125
女性が働きやすい会社づくりは、全ての人の働きやすさに繋がっていく
STORY編集部（以下同）――ご夫婦で経営に携わっていらっしゃると伺いました。公私共に一緒にいるご主人と、お仕事や育児についてどのように役割分担されていますか？
アパレルとは全く違う業界で働いていた主人は、結婚のタイミングでアルページュに入社しました。会社は同じですが、お互いに得意分野が違っているので、彼は営業やECサイトの戦略などを担当しています。他人だったとはいえ、夫婦で経営に携わるのは家族経営と同じなのでやっぱり大変。ずっと一緒にいるから家でも喧嘩するし、社内で喧嘩してしまうこともありました。もちろん社内での喧嘩は避けるように気をつけていますけどね（笑）。
23歳の時に結婚したのですが、挙式で神父さんに言われたことがすごく印象に残っていて。「”2人ぼっち”にならなければ、大丈夫ですよ」と言われたんです。夫婦ってずっと一緒にいるからこそ、何もかも、顔まで似てきたよねなんて言われることがあるじゃないですか。だからこそ、価値観まで2人だけの世界観で作り上げてしまうと、どうしても2人ぼっちになって孤立してしまう。公私共に一緒にいる分、私なりの社会との繋がり方、彼は彼としての繋がり方で、別々の世界があることが大事なんだと気づきました。今になって、神父さんの言葉が腑に落ちています。
16歳の長男と8歳の次男がいますが、家事も主人と分担して、子育てと仕事を両立しています。あとはアウトソーシングをフル活用。作り置きのお惣菜がパックで送られてくる「つくりおき.jp」や、掃除をしてくれる「タスカジ」など、色々なアプリに頼っていますね。とりあえず頼れるものは何でも試してみようという精神です（笑）。
――仕事モードをONにするアイテムや、リラックスモードに切り替えるためにしていることがあれば教えてください。
仕事モードをONにするアイテムはジュエリーですね。おまじないのように、ほとんど毎日同じものをつけるようにしています。今日は良いことがあったとか嫌なことがあったとか、日によって色々あるじゃないですか。なるべくラッキーな状態でいたいから、いいことがあった日と同じ改札を通るようにしたり、逆に嫌なことがあった日は違う改札に変えたり（笑）。だから、そんな風にいいことがあった時の気持ちを保てるように行動しています。いい状態が続く時はあえてジュエリーも変えないんです。このマリアブラックのピアスとネックレスはもうずっとセットで身につけています。仕事にいく時は、ジュエリーをつけた瞬間にスイッチが入りますね。
逆にOFFの日にリラックスモードに切り替えることも私にとってはすごく重要で。もともと頭痛持ちなんですが、忙しい日が続くと、限界に達して手が震えてくるという症状が（笑）。それを放置しているとよく躓くようになり、なんと階段から落ちたことが人生で2回もあるんですよ！ 幸い大怪我には至らなかったけど、救急車で運ばれて大騒動に。だから限界がくる手前の段階でなんとかしなければと思うようになりました。
それからは、頭痛が始まったら必ず家でリラックスするためのルーティンを行っています。まずリビングを隅々まで掃除して、家具をきっちり揃える。その後お風呂で身体を清めて上がったら、電気機器を全てOFFに。お香を炊いて、クラッシックやマイケルジャクソン、スティーヴィーワンダー、90年代のポップスをかけるんです。自分だけのために栄養を与える気持ちで、音楽にひたすら集中します。歌詞を見て、その時代のバックグラウンドや風景を眺めながら音楽の世界に没入（笑）。それが身も心も自分をリセットする儀式になっていますね。家族には朝からドライブなどに出かけてもらい、1人時間をつくって一連のルーティンをやっています。
――ご自身のファッションのこだわりなどはありますか？ 40代ならではのファッションの楽しみ方があれば教えてください。
職業柄もありますが、私自身もファッションは大好きで、素敵な雰囲気の人がいるとすぐ真似して取り入れています。それはファッションだけでなく、話し方とか仕草もそう。先日も家族でレストランにピザを食べに行った時に、たまたま60代くらいの素敵なマダムが隣の席で、一緒にお話したんです。ミニサイズのプラダのポシェットを提げてたんですが、その中からリップを取り出して塗っている姿がとっても可愛くて！ そういうリアルに街中にいる素敵な女性をウォッチして、参考にしていますね。
去年の秋はパリに出張したんですが、パリジェンヌをはじめとするファッショニスタたちが、みんな揃ってミニスカートにローファーとソックスを合わせたコーデで。ミニスカートなんてしばらく穿いてなかったけれど、おしゃれなパリの人たちに感化され、アルページュでも沢山作りました。私自身も穿きたくなったので、ミニスカートに合わせる色々なデザインのソックスを大人買い。
パリを訪れて素敵だなと感じたのは、女性たちが年齢に関係なく自由に洋服を選んでいること。自分が好きだと感じたら、20代でも40代でも、世代を超えて同じブランドやデザインの服を着ているんですよね。日本だと、年齢を気にして着られないという声もあると思いますが、パリでは好きなファッションを純粋に楽しむマインドがカッコよくて。ただ、年齢的に「みっともない」という印象になるのは避けるよう気をつけています。ミニスカートもTシャツ1枚に合わせると心許ないけれど、ジャケットを羽織ればバランスがとれる。かっちりしたものとトレンドを組み合わせるのが、大人のファッションの楽しみ方かなと思います。
――会社をここまで導いてこられた野口さんですが、これからのビジョンはありますか？
10名ほどの少人数でスタートした会社でしたが、今ではスタッフも250名弱に増えました。会社のスローガンは、「凛とした美学」。人に褒められることを目標にせず、自分で自分を律することができるかどうか。それが”凛とする”という意味だと解釈しています。そんな姿勢で1人ひとりに取り組んでほしいと思っていますね。特にアルページュは96%が女性の会社なので、ライフステージの変化も激しい分、社員の産休・育休も多くて調整が大変な面もあります。だけど同じような環境の人が周りにいるだけで安心感もあるし、悩みもシェアできる。働くスタッフがお互いの状況を理解し合えるメリットは大きいと思います。
社長になった時にまず描いていたのは「女性が働きやすい会社にしたい」というビジョンでした。数多ある会社の中で、女性であり、代表取締役であるという立場を活かして私にできることは何か？ を考えた時に、女性が安心して働ける会社を存続させたいと。売上至上主義で経済を回していくということも重要ですが、それ以上に、女性の働きやすさを追求することが企業の存在価値になっていくと考えています。そこを突き詰めると、究極的には男性も働きやすい会社になるはずなんです。だから考えがぶれそうになった時には、いつもそこに立ち返っています。
そしてアパレルの会社なので、非日常を感じたいとか、明日からまた一生懸命働こうとか、子育てを頑張ろうとか…洋服がそう思えるきっかけになって、日常を彩る手助けができたらいいなと思います。
――リーダーポジションで頑張っているSTORY世代に、メッセージをお願いします！
リーダーポジションにいると、追い込まれる局面も多々ありますよね。でもそういう時こそ短絡的にならず、まず深呼吸をして長い目で見ることがとにかく大事。私自身も切羽詰まると、「もう仕事なんて辞めちゃえ！」とか、全方位的に自暴自棄になりたくなる時があるんですよ（笑）。
でもそこでポキっと折れてしまったらおしまいだから、そんな時は深く考えず、無になる瞬間も大切。イメージとしては、太くてしっかりしているけど良くしなる竹のように生きていきたいなと。そんな風に柔らかく強いマインドを持って、前に進んでいけたらいいですよね。
撮影／沼尾翔平 取材／渡部夕子
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