社長として、妻として、周りを幸せにしながらブランドも育てていきたい|Ameri VINTAGE 代表取締役/ディレクター 黒石奈央子さん 

女性としてこれからのキャリアに悩むSTORY世代。’22年に女性活躍推進法が改定されてからはますます女性の活躍が期待され始め、徐々に女性管理職比率も高くなってきています。第一線で活躍している女性リーダーの方々にお話を伺うと、そこには、キャリアの狭間で自身の生き方を見つめ、可能性を信じてチャレンジする姿がありました。今回ご登場いただくのは、アパレルブランドAmeri VINTAGEの代表取締役兼ディレクターを務める黒石奈央子さんです。(全3回の3回目)

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黒石奈央子さん(37歳)
Ameri VINTAGE CEO/ディレクター

立命館大学経営学部卒業後、大手アパレルブランドのVMDを経て、独立。2014年10月、オリジナルブランド「AMERI」やヴィンテージアイテム等を取り扱うセレクトショップ「Ameri VINTAGE」を立ち上げ、代表取締役兼ディレクターを務める。愛犬はチワワのCOJICOJI。


 

今も昔も失敗は怖いけれど、迷ったら「やる」方を選んで突き進むだけ

STORY編集部(以下同)――仕事モードに切り替える時のアイテムはありますか?

赤のリップをつけると、仕事モードがONに切り替わります。ブランドのこだわりはないのですが、赤の色味にはこだわりがあって。明るすぎない、ブラウン味のある赤が好き。昔から無意識に赤いリップを選んでいて、友人からも似合うと言われることが多かったので、常にバッグにしのばせています。赤リップをつけるだけで、不思議と自信が湧いてくる。スーパーヒーローに変身したかのような力が漲ってくるんです(笑)。黒髪の時期が長く、その印象も強いと思うので、”黒髪に赤リップ”というのも私らしいかなと思っています。

逆に、プライベートへの切り替えも上手なタイプです。仕事の時は超効率重視なんですが、プライベートでは無駄な時間をダラダラと過ごすのが定番(笑)。ずっと韓流ドラマや映画を観たりして、家では何もしないですね(笑)。仕事漬けだったのは立ち上げの時の数ヶ月だけで、土日は必ず休んでいます。よく「忙しいでしょ」と言われますが、ちゃんと切り替えて休んでいるので忙しいという感覚はないですね。平日はもちろんガッツリ仕事しているし、繁忙期もありますけどね。

――社長兼ディレクターとして大変なことも多い中で、ストレス発散方法はありますか?

一番のストレス発散方法は、海外旅行に行くこと。仕事がどんなに忙しかったとしても、何も考えずに海外に行っちゃうんですよ(笑)。早めに「この期間は不在です」と言い切ってスケジュールをブロックしちゃいます(笑)。でも結局海外に行っても、コーディネートを撮ったり、なんだかんだ仕事してますけどね。

ちゃんとお休みを取れているのは、ある程度スタッフたちに任せているからかも。こう見えて、私は全然しっかりしていないんですよ。スケジュールを忘れたり、抜けてるところが結構あって(笑)。その分、スタッフの子たちがしっかりしています。社長がパーフェクトだとスタッフたちも伸びていかない。あえて丸投げにした方が、自分で考えて調べて動くようになるので、教え過ぎないのは大事だと思います。社長として、部下に頼るという力も必要だなと。やってもらっているうちに、その子が成長したなと感じることも多いですね。

――プライベートでは昨年ご結婚されていますが、ご主人との馴れ初めと、結婚生活について教えてください。

出会いは友人の紹介でした。私の友人の仲間の1人で、皆で遊んでいるうちに仲良くなりました。でも全然タイプじゃなかったんです。服装も(笑)。だから最初の出会いからはなかなか再会する機会もなく、私はその間に別の人ともお付き合いをしていました。たまたま1年後くらいに、みんなで集まった場に彼も同席していて、よく仲間同士で遊ぶようになって。「中身が素敵な人だな」と思うようになりました。

彼は昔の自分だったら絶対に選ばないようなタイプ(笑)。私は20代の頃は刺激的な恋愛が好きで、男らしい人に振り回されたり、不安になるような恋愛ばかりしてきたんです。でも、そういう人は合わないということが、30代になってやっとわかってきました。20代は色々な人と付き合って、その度にのめり込んでいたのですが、33歳で長く付き合っていた人と別れた時に、ビジネスだけでなく恋愛パターンも分析してみたんです。そうしたら、”自分が好きなタイプ”と”自分に合うタイプ”は違うということに気がついた。そこが食い違っていたからうまくいかなかったんだなと

夫はタイプではありませんでしたが、トータル的には私と合う気がしたんです。ときめきは無いけれど、穏やかで優しいし、不安になる要素が無い。結婚したらうまくいきそうだなと思いました。そんな冷静な分析に基づいて、全然好きじゃないのにご飯に誘ってみたんですよ(笑)。彼も積極的な人ではないので自分から誘うしかなくて、何回かデートはしたものの、「いい人だけど、やっぱり好きとは違うな〜」という状況が続きました。半年くらい様子をみていましたが、皆で旅行に行った時に、上手だった彼にスノボを教えてもらって。それが「好きかも」と初めて思った瞬間でした。本当にちょっとずつ、じわじわと心が近づいていきましたね。告白も、「絶対この人からはしない」とわかっていたので私からしました(笑)。

20代で彼に出会っていたら、近づくこともなければ、絶対に好きになってはいなかった。30代で彼に出会ったからこそ、彼のことを知ろうとしたし、本当にタイミングがよかったと思います。そこから2年くらいお付き合いをして入籍しました。結婚してからは、ぶっちゃけ何も変わりません(笑)。夫は家事も得意で、掃除や洗濯なども全てやってくれますし、いつも通り穏やかな毎日を送っています。恋愛体質だった頃は、恋愛の浮き沈みが仕事にも影響していたけれど、今は穏やかだから助かっています。”好きな人”と、”結婚する人”は違うってよく言いますけど、本当にそうだなと実感しています(笑)。

――リーダーポジションで頑張っている方も多いSTORY世代に、メッセージはありますか?

私自身も、大きな決断や挑戦をする時に悩んだり、仕事に関しても今後どうしようと思うことはありますよ。会社を大きくしていきたいと思う反面、その分やはりリスクも伴うので、失敗も怖い。でも私は、やるかやらないかで悩んだ時はやるんです。迷ったら、行動する方を選択します。やってからの後悔もあるけれど、やらない後悔の方が大きいとわかっているから。ただ、タイミングはすごく大事だと思っています。今だ! と思ったタイミングは逃さないし、ピンときたら即行動。ちょっと不安要素があったり、今じゃないと思えば動きません。自分の感覚を信じているところはありますね。

20代でも30〜40代でも、失敗に対する恐れは同じだと思っていて。20代で独立して会社を立ち上げた時も、「失敗すれば宿無しだ!」と覚悟はしていましたし(笑)。今もその怖さはあるけれど、たとえ失敗しても、別のチョイスがあると思えるようになりました。感覚に従って失敗したら、もうそれは諦めるしかない。いい意味で諦めがつくかなと。

もちろん若い時の方がフットワークが軽いとは思いますが、STORY世代だからこそ、迷っている時間がもったいない。ここからは年齢を重ねていくだけなので、ますます動きづらくなっていく。今が一番若いんだとしたら、早いに越したことはないですよね。その時に必要なのは、自分の直感を信じられるかどうかです。たとえ失敗したとしても、自分を許せるか。「まあいっか!」と思える自分をつくることが、1人の人間としても、リーダーとしても重要だと思っています。

――今後のビジョンがありましたら、教えてください。

もちろん、売り上げを上げていくということはビジョンとしてありますが、それ以上に、スタッフたちがちゃんと上を目指せる会社にしたいと思っていて。例えばデザイナーとして入社しても、1ブランドしかないとポジションがなかなか空かなくて、将来的に上に上がっていくのは難しいですよね。でも他にも色々なブランドや部署があれば、やりたいこともビジョンも描けるようになる。そのためにもブランドの横展開をしていきたいと思っています。

あとは、最初に立ち上げた時から、”NYにお店を出すこと”を1つの目標として掲げています。日本のブランドって、繊細なデザインで可愛いものが多いけれど、海外で成功しているブランドが少ないのが課題だと思っていて。日本のブランドが世界で見られるようになったらいいなと思いますね。

私は、身近な人が幸せだったらそれでいいと思うタイプなので、大きな野望というのはもともと無いんです。やりがいのある仕事はやっていきたいし、自分に何ができるかは常に考えていますが、ディレクターとか社長になりたいと思ったことは1度もなくて。目先の目標を1つずつ達成して、それを積み上げたからこそ今があります。

社長は正直、やりたくなかったんです(笑)。経営は大変だし、デザインに集中したいなと。でもいざやってみたら、案外自分には合っていたと思います。企画からディレクション、最終決定まで私がやっていますが、会社が大きくなればなるほど自分の技量だけでは追いつかない部分が出てきます。だから、それを補ってくれるスタッフに頼るようにしていますね。自分1人で抱え込まず、無理はしない。それも経営には必要なことだと思っています。

撮影/沼尾翔平 取材/渡部夕子

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