50代モデルの悩み【老化に逆らうか、受け入れるか?】精神科医に相談してみた

老けを見つめる「老いの先生」にきく、私たちはどう老けるか。今回は精神科医の奥田弘美先生に、美STモデル前田ゆかさんが伺いました。

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精神科医・奥田先生に聞く「不安と折り合いをつけてうまいこと老いていく生き方って…」

教えてくれたのは…(左)奥田弘美先生

精神科医。産業医として首都圏約20カ所の企業でストレスケアや精神科で従事。90歳まで精神科医として活躍し2023年8月に94歳で逝去した中村恒子先生(写真右)との共著はベストセラーに。戦中戦後に生きた世代の強さや逞しさを伝えたいと自ら出版社へ企画を持ち込んだそう。続編も人生100年時代の必読の書として反響。

人間ですから、いつまでも美しくありたい、若くありたいという気持ちは当たり前のこと。私自身も、もちろん美容とおしゃれを楽しんでいます。ですが医師としても大人の女性としても体感したのは、まだまだ綺麗で老化がゆるやかな40代を経て、50歳を過ぎると老化が加速し、隠しにくくなるという事実です。私自身、50歳を過ぎた頃から、たるみやシワ、シミが目立つようになってきて、さあ、ここでどうするか、老化に抗うのか、うまく受け入れるのか。今が分かれ道だなと感じました。

そもそも、生きていると老いることは自然なことで、当たり前のことです。90歳まで現役の精神科医でいらした中村恒子先生や60代、70代の年上の友人を見ていても感じるのですが、男女問わず良い老け方をしている人は自分の執着をうまく手放している人。生き方がおしゃれなんです。

原始仏教の根幹となる教えの一つに「自分を苦しめている欲を見つけて、それを手放せば苦しみが手放せる」という考え方があります。いつまでも若くありたい、美しくありたいという気持ち=執着が強すぎると、老けることが苦しみや悲しみになります。戦中戦後を生き抜いた中村恒子先生の時代は、生きるか死ぬか、食糧難の時代でもありますから、日本全体が、食べることができ、温かい布団で眠れれば満足な時代でした。まさに「足るを知る」、禅のような生き方が主流だった時代ともいえます。ですが、今の時代は美味しいもの、美容、ファッション、SNSなど情報と誘惑が溢れていて、見方によっては執着を増やすものだらけですよね。戦中戦後と違い、豊かで恵まれた時代に生きる幸せや楽しみはもちろん大事ですが、行きすぎないように折り合いをつけることが大事なのではと感じています。

そもそも美の価値基準は多様ですし、毎日新しい美人が生まれているわけです。そのため、あまりに若く美しくあることだけを追求すると、心の平安を脅かすことになります。きっと皆さん、幸せに生きるために美を求めていることでしょう。それなのに心の平安が得られない、行きすぎた執着は精神科医としてお勧めしません。何度も言いますが、人間だからこそ、生きているからこそ、老いるのは当たり前。キレイになりたい気持ちが執着に変わってしまうと、とても危険です。どうか自分自身の心の平安を大切に、いいあんばいに折り合いをつけてみてください。

美STモデル・前田ゆかさんが奥田弘美先生に聞いてみました

美STモデル・前田ゆかさん

奥田先生との出会いは以前雑誌で対談させていただいたことがきっかけ。先生の著書を通じ恒子先生のことも知り、長生きでご活躍された恒子先生は私の憧れの人でした。奥田先生は穏やかで優しく、恒子先生は歯に衣着せぬ発言が痛快で「ええねん、ええねん」が気持ちよくてわかりやすい。私の心の処方箋となった2冊です。私自身が50代になり今改めて老いに対してどう向き合うのか葛藤もあり、奥田先生に是非アドバイスを頂きたいです!

Q.50代からの美容と健康。先生はどうしていますか?

A.一番大切にすべきは睡眠です。過不足なく寝て、タンパク質やビタミン、炭水化物などバランスの良い食事を1日2 食は心がけて、心の安定にも。私もシミなどの老化を見つけると少々がっかりします。でも良い意味で諦め、特別頑張りすぎない精神で、国産の美白系エイジングケア化粧品でケアしていますよ。私にはこれくらいで丁度いい感じです。(奥田先生)

Q.仕事、家庭、自分の時間などの両立って…

A.バランスの良い幸せな人生のためには、家族といった身近な人の幸せを優先することが大切だと思います。育児に介護に美ST世代は忙しいですが、長い人生、良くも悪くも後々返ってきますから。常にトップランナーでいるのは無理ですし、ひずみが出やすくなります。自分の心がしんどくならないよう、足し引きを見極めながら続けていきましょう。(奥田先生)

Q.人生後半。もっと老いてから終盤の生き方って?

A.平均寿命が伸びて「ピンピンコロリ」が理想だとよく耳にしますが、その「コロリ」も病死です。かつてホスピスで仕事をしていた時、穏やかに最期を迎えられた方々は、やりたいことをできるだけ後回しにせず実行してきたという共通点がありました。「今ここ」を大切に自分の気持ちに正直に過ごしていくことが人生後半の生き方には不可欠と思います。(奥田先生)

【編集後記】

頑張らなくていいんだよ、というお話に心がスッと楽になった取材担当。「心身の老化を痛感し頑張らなきゃと思っていたこの頃…心の平安が脅かされていたかも。幸せな老け方を模索します!」

2024年『美ST』2月号掲載
撮影/天日恵美子〈前田ゆかさん分〉 取材/岩崎香織

美ST