【JJドラマ部】若者の「貧困」「格差」「復讐」がテーマのドラマ 『SHUT UP』がアツい!

©「SHUT UP」製作委員会

昨年12月から放送中の深夜ドラマ『SHUT UP』(月曜23時06分~/テレビ東京系)が、「ドキドキして次の展開が気になる」「いろいろと考えさせられる」とSNSを中心にじわじわと話題に。現代の若者の間で深刻化する貧困や格差、性暴力など、社会問題を取り上げている本作について、放送直後から気になっていたJJドラマ部のコラムニスト小林久乃と元JJ編集長イマイズミ。

「イマイズミさん、観ました?『SHUT UP』」
「観てる観てる。かなり突っ込んだ内容だなって」
「私、テレ東のドラマPの本間かなみさんから連絡もらったんですよ。初めてトライするオリジナル脚本のドラマだから、ぜひ見てほしいって」
「本間さんといえば、派遣社員にもかかわらずドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(2020年/テレビ東京系)、通称『チェリまほ』を大ヒットさせた、あのサクセスストーリーをお持ちの…」
「それ、ちょっと情報が古いですよ(笑)。これは本間さんも交えて、ドラマの話を深堀りしませんか」
「ぜひぜひ、そうしましょう!」

ということで、早速テレ東に押しかけるJJドラマ部の二人。テレビ東京のドラマプロデューサー・本間かなみさんをゲストに迎えた、新年JJドラマ部鼎談スタート!

『SHUT UP』は今の若者のリアルを生々しく描いたドラマ

左から、渡邉美穂/浅井紗奈役、片山友希/工藤しおり役、莉子/川田恵役、仁村紗和/田島由希役 ©「SHUT UP」製作委員会

 

小林久乃(以下、小林):まずはドラマ『SHUT UP』の感想から参りましょう。私は、「ああ、本間さん、踏み込んだ作品を作ったなあ」というのがひとつ。このドラマで幾度となく出てくるテーマだと思うんですけど、若者の貧困とか格差とか。作品を通して2023年の東京の風景が見えてきました。

元JJ編集長イマイズミ(以下、イマ):今の東京が見えるというのは同意ですね。私は、これでも一応ファッション誌をやってたんで(笑)、主役4人のスタイリングが気になったんですが、とてもリアルだと思いました。少ないアウターを何回も着回していて、お金を持っていないことがよくわかる。それでいて今どきのキャンパスにいそうな雰囲気。そして、田島由希(仁村紗和)、川田恵(莉子)、工藤しおり(片山友希)、浅井紗奈(渡邉美穂)の4人と違って、お嬢様の露木彩(芋生悠)はひと目で質の良さそうなことがわかる服を着ている。衣装による格差のつけ方が見事だなって。

本間かなみ(以下、本間):衣装のことはSNSの感想でよく言われますし、内容についても反響は大きいです。もともと私自身、思春期に貧困を身近に感じていた…ということから、このドラマの着想を得ました。たとえば、上履きが新しく買えないから学校に行かないとか、積立金が払えないから修学旅行に行けないとか。生活苦から中学生でバイトをする子もいたし、女子なら性を売ることも。そして、トー横キッズが話題になっている今、昔の感覚が呼び起こされたんです。社会に一石を投じるのではなくて、誰かの物語になれたらいいなという思いからこのドラマを作りました。

小林:本間さんが30代前半ということは、学生だった20年前には日本経済の下り坂を実感していたんですね。ドラマを観ていて思ったんですけど、パパ活において「買う男性」と「売る女性」、結局どっちが悪いのかなって。学生とはいっても20歳を過ぎていたら、もう分別はつく年齢なわけですし。でも、そこを加味しても私は「男性が悪い」に一票でした。

本間:私も男性が悪い!って思いますよ(笑)。でも、本質的には「女性がそうせざるを得なかった社会が悪い」と思っています。

イマ:個人の問題というよりは社会構造ですね。

本間:女性が貧困から抜け出すために性を売ることには長い歴史があります。そもそも女性から経済力を奪ってきたという社会背景があるんですが。だからドラマでも、恵の手術費用を他の3人がカンパするためにパパ活という手段を選ばざるを得なかった。

小林:ここに登場してくるワードだけだと、センセーショナルなドラマのように聞こえますが…そうじゃない、現実なんですよね。オリジナル作品だからこそできる内容なんだと思いますが、原作ありきのドラマと違ってどういった点に苦労しましたか?

本間:原作ものはそもそも「この作品が大好き!」というところからスタートしているので、その魅力や核になるところは理解しています。だから「原作のこのシーンにフォーカスを当てよう」と客観的に考えられますけど、オリジナル作品にはそれがない。展開に悩んでも立ち返る場所がないから不安ですけど、やっぱりゼロから作っていく作業は面白いし楽しいですね。

自由に生きるためにはやっぱり経済力が大事!

イマ:このドラマのテーマのひとつに「復讐」とありますが、これは大学生たちが社会に向かって復讐していくということですか?

本間:そうですね。私自身あまり裕福とはいえない時期がありました。社会構造的に貧しい人はそこから全く抜け出せず、豊かな人はもっと豊かになっていく。たとえば、紗奈も頑張って稼いでいるのに、ネットワークビジネスから搾取されそうになってしまう。それも貧乏ゆえなのに、自己責任でしょ?と一言で片付けられるのは理不尽で悔しい。その悔しさと戦える物語にしたいと思って、「復讐」というキーワードを入れました。

小林:そしてもうひとつのテーマは、「格差」ですよね。私なんてフリーとして独立してから毎日感じてますけど、それが仕事の原動力でもあります。ちなみに「復讐」も。過去、私にパワハラを仕掛けてきた人たちには、いつかちゃんとお返ししようと(笑)。

イマ:それは会社員とフリーランスという格差によるハラスメント?

小林:それもあるかも。ストレスがMAXになった時は、脳内に別人格でキティちゃんを発動させて「私のほうが稼いでいる、頑張っているから大丈夫!」と言い聞かせおります(笑)。

イマ:精神バランスの取り方が独特ですね(笑)。

小林:本間さんも派遣社員からテレ東の正社員プロデューサーになって、何か変化はありましたか?

本間:やっぱり経済力が変わりましたね…。

小林:「余裕」ってお金で買えるんですよね。

本間:そうなんです。派遣社員の時にはお店に飾ってあった食器を見て「可愛いなあ」と思っても、「まあ、使わないよな…」と買わなかった。でも、初めての正社員としてお給料が入ったときに、食器を買ったんですよ! 使うかどうかわからない食器を買えるって、なんて豊かなんだと。その時に、経済力と自由は結びついているんだなと思いました。

イマ:私が所属する光文社の女性ファッション誌は、スクールカーストでいう、上位の読者層をターゲットにしたものが多いんです。幼稚園から有名私立に通っているような。『CLASSY.』や『JJ』の編集長をしていた時も、この素敵な生活をそのまんまできる人たちって東京にどれくらいいるんだろうと思ってましたよ(笑)。一方、光文社新書では若者や女性の貧困をテーマにした本が2010年代から定期的に出版されています。編集部が変わると、同じ日本でもこんなにも違った側面をフォーカスするんだな、という格差社会のリアルを感じます。

小林:なんか「格差」とか「復讐」って、イマイズミさんの好きな韓国ドラマによく出てきません?

イマ:財閥が幅を利かせる国ですから、貧しい人たちによる復讐をテーマにしたものは多いですね。映画『パラサイト』もそう。でも、その状況って、実は今の日本もそんなに変わらないのかなっていう気もしてきます。

個人の努力だけじゃ変えられない現代の貧困問題

小林:ドラマが深刻な内容なだけに、会話も暗くがちですが…、でも声を上げていきたいことですよね。ちなみにお二人に聞きたいのですが、若者の貧困について私たちができることって、何かあると思います?

本間:一人一人のマインドの話になるかもしれないんですけど、貧困や格差などの問題を個人の責任に帰結させないことだと思います。何でも自己責任っていう風潮が年々強くなっているけれど、それは時に人の口を塞ぐことになる。たとえば、「この人は貧しい境遇だったけど、こんなに成り上がったよ」と、レアケースを例にあげて、個人の努力の話にすり替えてしまう。

小林:『成りあがり』…矢沢永吉の名著のタイトルですね。

本間:えっと、それはよくわかりませんが(笑)。貧しさってバイタリティーを奪っていくし、残ったエネルギーには個体差があるのに、強い人を基準にして「おまえは努力が足りないんだ!」みたいなことを言われる。そうなると、弱った人がSOSを出せない社会になっていくんじゃないかと思います。

イマ:私が考えるのはシステム的なことです。例えば会社において、役職者を絶対に男女半々にするって決めるとか。男性社員は女性の上司と接することや、女性に役職で抜かれることに慣れていないから起こる軋轢も多いはず。あらかじめ数が決まっていれば、納得せざるを得ない。あと、今の部署は省庁と仕事することが多いんですけど、やっぱり管理職となると男性が目立ちますね。

小林:霞が関の女性管理職は全体の15%くらいと聞きます。まあ、官公庁に限らず一般企業でも男女半々は程遠いですね…。(2021年の厚生労働省の発表では企業における管理職〈課長相当職以上〉に占める女性割合は12.3%)

イマ:そんな小林さんは?

小林:若い人たちに対して、どう接するかをいつも考えています。偉そうに説教することは控えるようにして、「私も同じだよ」とちゃんと弱みを見せる。上から目線でずっと話されていたら、言いたいことも言えなくなっちゃいますよね。あとは若い人たちから教わることですね。彼らの考えは私たちにないものだから、しっかりと聞いて、できるところは踏襲したい。

本間:(深くうなずく)

小林:たまたま3人とも何かを発信できる立場にありますよね。たとえば私なら文章や、ラジオで音声として発信もできる。「(若い人には)何にもないわけじゃなくて、何でもあるんだ」ということを伝えていきたいです。ドラマ序盤の由希、恵、しおり、紗奈みたいに、世の中に対して卑屈になる感情を共感しあうだけだと変わらない気がするから。

※後半『新進気鋭のテレ東ドラマPに制作裏話を根掘り葉掘り聞いてみた』へ続く

◆『SHUT UP』あらすじ

ドラマのテーマは「貧困、格差、復讐」。田島由希(仁村紗和)、川田恵(莉子)、工藤しおり(片山友希)、浅井紗奈(渡邉美穂)は同じ寮に住む同世代4人。それぞれがアルバイトを掛け持ちし、自身の収入で生活を支える苦学生でもある。ある日、恵の予期せぬ妊娠が発覚。その父親は名門大学に通うセレブ学生・鈴木悠馬(一ノ瀬颯)だが、自分の過失ではないと妊娠を認めない。そんな恵のために、中絶費用を稼ぐためにパパ活を始めた3人。ここから4人の運命が少しずつ、予期せぬ方向に動いていく。果たして最終的に勝つのは正義か、金か、地位か、それとも。

『SHUT UP』1~4話ダイジェストはこちら

【ドラマプレミア23】『SHUT UP』はテレ東にて放送ほか、TVer、U-NEXT、Leminoにて配信中

小林久乃(こばやし・ひさの)コラムニスト、編集者。正々堂々の独身。中学生から地上波ドラマを愛して30年以上、筋金入りのオタク。好きが高じてついには『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社刊)を上梓した。ラブストーリーが好きで、特に禁断の恋がテーマとなると視聴熱が俄然、盛り上がる。公式HPはhttps://hisano-kobayashi.themedia.jp

元JJ編集長イマイズミ 女性誌『CLASSY.』『JJ』の編集長を歴任。1クールの地上波ドラマを全録画するようになったのは、編集長になった13年ほど前から。「仕事で新しい俳優、タレントさんを覚えるため」というのが理由だったけど、見事に大ハマり。ホームドラマとラブコメ好き。韓国ドラマもやや中毒。

取材・文/小林久乃 イラスト/lala nitta