西川貴教さん「もともとは人に合わせることが苦手で、音楽の道を選びました」
ミュージカル『スクールオブロック』に出演する西川貴教さん(52歳)
抜群の歌唱力で知られる西川貴教さんが、8月に開幕するミュージカル『スクールオブロック』で主演を務めます(柿澤勇人さんとWキャスト)。友人になりすまし、厳格な規律がある名門進学校の臨時教師になったアマチュアギタリストのデューイが、無気力だった生徒たちとロックバンドを組んで大会に出場するまでを、アンドリュー・ロイド=ウェバーのキャッチーでノリのいい楽曲にのせて描く大ヒット作です。コロナ禍での全公演中止を経て、3年越しで日本初演される本作品への意気込みや今後の展望などを、7月のプレライブイベントに出演した西川さんにお聞きしました。(全2回の1回目)
《前編》
――『スクールオブロック』プレライブイベント、盛り上がりましたね。生徒役の子どもたちの演奏も良かったし、西川さんはすでに担任の先生のようでした。
みんな小学生ではありますけど、オーディションで選ばれて、劇中で一緒に演奏もする共演者ですからね。“子どもたち”というよりも、それぞれキャストの一人として接してあげたほうがいいだろうなと思って、大人のキャストと同じように接しています。振り返れば、自分が小学校3、4年生の時は、もう普通に「テレビに出ているこの人、可愛いな」とか「きれいな人だな」とか思っていたし、ましてや、こんな都会で、自分をしっかり持って音楽や芸能の活動をしている今の子。自分たちが勝手に“子どもたち”と思っているだけで、中身はよっぽど大人だと思うので、ナメられないようにしなきゃと思ってます(笑)。
――エネルギーの塊のような子どもたちとの稽古はいかがですか?
楽しいですけど、必死ですよ。コロナ禍で止まっていたイベントや舞台が、今年になっていっぺんに動き出した関係で、僕はついこの間まで別の舞台(『バーン・ザ・フロア』)に出ていたんです。24人の子どもたちが、ビートとコードという2つのチームに分かれてWキャストになっているんですけど、彼らは6月半ばくらいから稽古していたから、もうすっかり“チーム感”ができていて。早いところ追いつきたいですね。
――映画が原作になっている本作品と、西川さんはどんなふうに出合われたのですか?
何年か前にブロードウェイで観ました。仕事でニューヨークに行った時に、少しだけ空いた時間にたまたま観ることができたのが、この作品で。最後は客席も一緒に盛り上がる作りになっていて、これは幅広い人が楽しめるいい作品だなと思っていたら、その後しばらくして、ホリプロさんから出演のオファーをいただいたんです。それで「ぜひやらせてください」とお受けしました。
――そんなご縁があったのですね。とはいえ、社会人としては相当ダメな熱いアマチュアロッカーのデューイを西川さんが演じるなんて、客観的に考えるとちょっと無理があるような……。
いえいえ。今でこそ僕も一応、世の中の規範に合わせて気を使って生きてますけど(笑)、もとはそういったものに合わせられない人間、どっちかというと、人と合わせることが苦手な人間だったからこそ、音楽を選んだわけで、そういう意味ではデューイと一緒ですよ。それに、世界を広く見渡せば、自分の存在なんてまだまだ小さいもの。自分の存在や自分が為すことで、皆さんに喜んでいただけることを何か一つでも増やしていけたらという気持ちで、やらせてもらっています。
――本作品にはデューイの成長も描かれています。西川さんはデューイのどこに魅力を感じますか?
やっぱり、夢に向かって真っすぐなデューイの無垢な部分ですね。でも、僕がこの作品を観た時にすごく印象に残ったのは、どっちかというと、そんなふうに生きられなかったデューイの友人ネッドの存在なんです。
――それはちょっと意外です。
世の中って残酷で、音楽とかスポーツに限らず、表立って見えてくるのは、光が当たったごく一部の成功者の歴史ばかりじゃないですか。でもその陰には、成し遂げられなかった人たちの葛藤や苦労みたいなものが数多ある。自分は良くも悪くも、夢半ばで諦めざるを得なかった数多のミュージシャンや、音楽仲間の思いの上に立たせていただいているんじゃないかなと感じているんです。時にしんどくなってしまって、弱音を吐きそうになることもあるんですけど、いや、でも、やりたくてもできなかった人たちのことを思えば、贅沢な悩みなんじゃないかと思って。
――そういえば、イベントでも「中止になった2020年の公演に出るはずだった子どもたちの思いも背負って舞台に立ちたい」と話されていましたね。昔から“成し遂げられなかった人”への思いや、一歩引いて物事を捉える目を持っていらしたのですか?
いえいえ。むしろ、そういうことができないから、自分の持ち場というか、持ち領域以外のことをやらせてもらっている感じです。映像やこういった舞台のお仕事をさせていただくことで、そういう視点を学ばせてもらえた実感があるので。それで、何年かに1本は舞台や映像にチャレンジして、音楽以外の仕事もやらせていただくようにしているんです。
――そうだったのですね。ちなみに、西川さんが通われていた中学や高校には、本作品に出てくる学校のように厳しい規律はありましたか?
中学は普通の公立校でしたけど、校則は結構厳しかったですね。男子生徒はみんな丸坊主。女の子はみんな、おかっぱでした。だから僕も坊主頭でしたよ。小学校を卒業して中学校に入るタイミングで、みんな刈られていくんです。
――それはキビしい。
まあ、田舎ですし、昔の話ですからね。嫌でしたけど、当時の自分にはどうしようもなくて。ただ、“何でもかんでも好きにしていいよ”と言われていたら、何ができていたんだろう? とも思います。もちろん、今だから言えることで、当事者だった頃はそんなふうには思えなかったけど、どこまでも好きなことをやっていいし、どこへ行っても構わないよと言われていたら、果たして、どこへ行けたんだろう? 髪型にしても服装にしても、“ここからここまで”と決められた範囲の中で、何ができるかを探すことが自由だったような気がします。限られた条件の中で、いかに創意工夫をするかということも、大事な経験だったなと。
――確かに、そういうものかもしれません。
要は、捉え方次第なんでしょうね。何かを規制された時に、それを額面通りそのまま受け取るのか、逆に、その中でできることを考えるのか。僕は後者だったから、高校で髪の長さを注意されると、「自然に生えているものに対して、パーマをかけたり、染めたりすることは、人為的に手を加えることで、よくないと思うけど、髪が伸びていくこと自体は自然なこと。それをとやかく言うのは、おかしいんじゃないか」とか言ってました(笑)。すごく面倒くさい生徒でしたね(笑)。
<後編へ続く>
西川貴教(にしかわたかのり)
1970年、滋賀県出身。1996年に、ソロプロジェクト「T.M.Revolution」としてデビューし、ヒット曲を連発。2018年からは西川貴教名義で活動する。NHK連続テレビ小説「スカーレット」(2019年)やBSジャパネクスト「バーチャル知事」(2022年~)など、俳優やMCとしても活躍し、テレビアニメやゲームで声優も務める。2008年に滋賀県から初代「滋賀ふるさと観光大使」に任命され、同県初の大型野外音楽フェス「イナズマロック フェス」を主催。今年は10月7日~9日に琵琶湖畔で開催予定。令和2年度滋賀県文化功労賞受賞。
ミュージカル『スクールオブロック』
アマチュアバンドをクビになったデューイは、居候先の友人の名を騙り、厳格な名門校の臨時教師に。生徒たちの音楽の才能に気づき、バンドバトルへの出場を思いつくが……。
音楽/アンドリュー・ロイド=ウェバー 脚本/ジュリアン・フェロウズ 歌詞/グレン・スレイター 翻訳・演出/鴻上尚史 訳詞/高橋亜子
出演/西川貴教・柿澤勇人(Wキャスト)、濱田めぐみ、梶 裕貴・太田基裕(Wキャスト)、はいだしょうこ・宮澤佐江(Wキャスト)ほか
8月17日~9月18日/東京建物Brillia HALL 9月23日~10月1日/大阪・新歌舞伎座
https://horipro-stage.jp/stage/sor2023/
次回は、西川さんが自身の40代を振り返って、そして50代をどう過ごしていきたいか、などなど。西川さんのさらなる魅力に迫ります!
撮影/古水 良 ヘア・メーク/浅沼 薫 取材/岡崎 香