すぐに「キレる夫」に効くひと言とは? 漫画家・水谷さるころさんに聞く対処法
「怒らない」「叩かない」育児が当たり前のはずの今でも、「分かってはいるけれどイライラが抑えられない」「厳しくしないと示しがつかない」という人も多いよう。どうしたら? 子どもの些細な行動に「キレる」夫に悩み、試行錯誤した体験をコミックエッセイに描いた水谷さるころさんに聞きました。
※取材内容は2023年3月当時の内容です。
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子どもの前でキレるのは仕方ないこと?
──「今の育児は怒らないことが基本なのは分かっているけれど、感情的になってしまう、時には手が出てしまうこともある」読者からもそんな声を聞きます。
私の場合は「夫が子どもにキレてしまうこと」が悩みでしたが、男性に限ったことではなく、ママ友から「しつけのために厳しくするのは仕方ない」「つい怒鳴ってしまう。手が出ることもある」といった話を聞くことはあります。そういう人に「叩いちゃダメ」と言って分かってもらうのは大変です。遠回りに思えても、考え方を周囲から変えていく必要があると思います。
特に男性は生きてきた「男性社会」が「力があるものが正義」というところがあって、ケアをし合う関係があまりありません。そういったものを「当たり前」だと思っている人に「そんな言い方をしたら傷つく」「体罰なんてひどい」と感情に訴えたり、相手の人間性を否定したりしてもなかなか理解されないはず。
それよりは「キレたり、叩いたりすることは社会的にもう許されない」ということを分かってもらうほうがいいです。「感情のコントロールができない人」は、今後ますます社会的に信用されないはずです。アメリカでは職場でキレやすい人は、カウンセリングに行けといわれるか、クビになると聞いたことがあります。フィリピンでは、公衆の面前で相手を罵倒することは名誉を傷つけることで、自分の名誉のためにやり返すことがあるそうです。最悪、殺人事件につながるケースもあるとか。日本では駅やお店で些細なことにクレームをつけてキレる人を見かけることも多いですし、パワハラの横行する職場の話もよく聞きます。日本ではそういう状況になっても「やり返す」人が少ないからだと思います。でも、今後社会がグローバル化していくと「仕事を失う。状況によっては殺される」と思ったら、キレる前に踏みとどまると思うんですよ。キレることで物事を解決しようとする思考は、自分にとっても、子どもの将来にとってもマイナスであるはずです。日本の景気回復が遅れ、少子化は改善せず、国内需要が先細りになる今の状況で、世界に目を向けずに内需だけでやっていこうというのは現実的ではありません。怒鳴ったり殴ったりすることが半ば許容されている旧態依然のコミュニケーションは、世界では通じないと思います。自分の感情をコントロールできずに大きな声を出して怒るような人間は、国際的にはものすごく価値が低く見積もられてしまう。
今まで日本の男性社会で生きてきた人は「強くなければならないのだ」という被害者意識と同時に成功体験や経験があります。そこを否定するのでなく、この先社会が変わっていくときに、その方法で本当に大丈夫なのか? という別の方向からのアプローチはどうでしょう。これなら「怒るのも叩くのも仕方ない」という人にも耳を傾けてもらいやすいのではないでしょうか。それが最適解とはいえなくても、この先の社会では「評価が高くなって、リスクが減る」という分かりやすいメリットがあることを明示したほうが、「怒らないで」「体罰はよくない」とアプローチするよりも理解してもらいやすくなる気がしています。
「考えているだけ」では状況は変わらないけれど
──さるころさんの本の中では、カウンセリングを受けて夫婦関係、親子関係が良いほうに変化していく様子が描かれています。でも、実際に行動を起こすのは難しい人も多いです。
「キレる事」に関する本を読むだけで違うと思います。私も、漫画家の田房永子さんの『キレる私をやめたい』をはじめ、「人はなぜキレるのか。解決法はあるのか」を探る本をたくさん読みました。知識があると実際の行動にフィードバックしやすいし、「夫の場合は、このケースに近いかも」「こっちは当てはまらないな」と自分の状況を冷静に見つめられるので、カウンセリングの代わりになる部分はあると思います。もちろん、できるなら実際にカウンセリングを受けた方が話が早いとは思いますが。一人で悶々と考えているよりは、本を読むとか、人に話してみるとか何かしらの発展性のある行動をしたほうがいいと思うんです。「大した事ない」とか「どうせ変わらない」と思わずに「何でこうなるんだろう?」という「何で」を追求してみることもカウンセリングに近い作業です。私の本を「夫に読ませたらあまりキレなくなった」と読者の方に聞きました。「なるほど」と思った瞬間に視点が変わります。「なぜ、キレてしまうんだろう。理由があるはず」と認知ができるようになると、人は変われるのだと思いました。遠方だったりしたら、オンラインでカウンセリングできるところを探すとか、なるべく人と話す事、知識を得る事が解決の近道だと思っています。精神科医の斎藤環さんの本を読んでいたら、「観念は、堂々巡りになるが、行為は、堂々巡りにならない、必ず発展性がある」という話が書かれていて、確かに!と思いました。自分で考えているだけだと状況はなかなか変わらないけど、何かしら行動を起こすと変化が生まれるのです。
『子どもにキレちゃう
夫をなんとかしたい!』
1,100円(幻冬舎)
コロナ禍の密室育児を経て、夫が家庭内で不機嫌&子どもにキレちゃうように……。カウンセリングに行き、夫が本当に変わっていくまでを描いたコミックエッセイ。
PROFILE
水谷さるころさん
(みずたにさるころ)
1976年生まれ。千葉県出身。女子美術大学短期大学部卒業。イラストレーター、マンガ家、グラフィックデザイナー。99年マンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末を『30日間世界一周!』として漫画化。自身の経験をもとにしたコミックエッセイ『結婚さえできればいいと思っていたけど』『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』など著書多数。お互い再婚(事実婚)同士の夫ノダDさんと小学生の息子マイルくんの3人+猫と暮らしている。
取材・文/髙田翔子
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