女子サッカー選手から男性になった3人“男らしさ・女らしさ”に縛られない社会を目指して

LGBTQに対する理解は進みつつありますが、まだ偏見や差別も少なくないのが現状です。ところがサッカー界は、LGBTQにとても進歩的で、「なでしこ」リーグにも、女性だけれど男の子っぽい人をさす「メンズ」という言葉があり、自分がありたい姿でいられ、また、その人をそのまま受け入れる風土があります。本誌5月号にて、元なでしこリーグの選手で、女性から男性になった3人ユニット『ミュータントウェーブ。』をとりあげたところ、大きな反響をいただきました。そこで、今回は3人にじっくりお話を伺いました。今回のweb企画では、どうして3人が一緒に活動を始めたかを伺います。

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【profile】ミュータントウェーブ。

写真左:山本朝陽やまもとあさひさん(通称:あさひ)、真ん中:大嶋悠生おおしまゆうさん(通称:おおちゃん)、右:大川政美おおかわまささん(通称:まさ)。

なでしこリーグ所属の元女子サッカー選手で、現在は男性になった3人組。YouTubeなどのエンタメやメディアを通じて、ポップなジェンダリストとして活動。『知らなきゃ!を知りたい!に変える』を大切に、LGBTQを通して知ることができる一人一人の違いや、トランスジェンダーの視点で気づいた大事なことを発信している。男らしさや女らしさに縛られず、自分を好きになれる世界を目指す。https://www.youtube.com/channel/UC8AuY5zhH76XT2KWoug3xsA

元なでしこで、トランスジェンダーで、3人組っていう3要素が揃った僕らだからできること

—3人はどのように知り合って、活動を始めたのですか?

おおちゃん
僕たちは、みな「なでしこリーグ」の選手で、自分とまさは元同じチームの先輩後輩。朝陽はまさと幼馴染みです。現役時代はお互い、トランスジェンダーであることを告白しあう必要はなかったのですが、引退後、「ホルモン治療はどこでした?」とか、「手術はどうした?」といった話をしました。朝陽とまさは、FTM(女性から男性になって生きる人)の自分たちに何かできることがないかと話すことがよくあり、そこに、すでに仕事として活動をしていた自分が合流しました。それで、とりあえず手近なことから始めようとYouTubeを企画したんです。

あさひ
―でも、チャンネルを作って、最初に動画を撮影してから、実は2か月くらい放置していたんですよね。

まさ
それまでサッカーしかしてこなかったから、パソコンも触ったことなくて。最初は人差し指でキーボードをポツポツ叩いているような状態でしたから、編集するのも一苦労で。

あさひ
ところが、新聞から取材を受けることになって、それが夕刊に大きく載ったんです。そしたら、まだ動画配信を始めてもいないのに、登録者が200人くらいになっていて。それであわてて動画をアップしました(笑)

—なでしこリーグのサッカー選手だったという経歴は目を引きますね。

おおちゃん
そうなんです。元なでしこで、トランスジェンダーで、3人組っていう3要素がそろうグループって、他にはないですよね。それにサッカー選手って今の活動と共通点がある気がしています。選手は、大好きなサッカーをプレイして、その姿を見て、みなさんが感動してくれるという仕事で、自分自身が商品。同様に、これからはトランスジェンダーだということを個性として表現することで、みなさんに何かを感じてもらえる存在になりたいと思っているんです。

まさ
僕は2人と比べて、サッカーへの熱量が低かったんですよね。でも、このチームに誘ってもらって、ホントにサッカーやっててよかったって思いましたよ(笑)  

目指すところは「タレント」!多様性を広めたい

—そこですか(笑)でも、YouTubeだけでは、なかなか食べていけないですよね?

おおちゃん
はい、YouTubeだけでは難しいです。自分は引退後、LGBTQの就職をサポートする会社で働いていて、企業研修などを実務としていました。今、企業でもLGBTQについての研修が盛んで、当時者としての経験談を話すとすごく興味を持って聞いてもらえるということを知ったんです。これを今、ミュータントウェーブ。としてやっていて、現在は、企業での研修は収益のひとつの柱となっています。また、学校で子どもたちに講演をしてきましたが、それが先生方向けや市役所などでの研修といった仕事の形にも広がってきています。

まさ
YouTubeの編集も忙しいのですが、自分はアート作品のコラボやロゴマークを作ったりもしています。

あさひ
自分は、メンタルトレーナーとして、コーチングもやっています。

おおちゃん
目指すところは、「タレント」なんです。今、タレントさんで男性から女性になった方はいますが、女性から男性になった方って見当たらないんです。だから、いずれは、そういう存在になれたらいいなと思っているんです。目標はマツコ・デラックスさん

—お3人とお話していると、本当に優しさがあって、元気があって、勉強もしていらして、タレント性抜群だと思います。情報番組のコメンテーターとかぴったりではないですか?

おおちゃん
はい、本当にそうなりたいんです。多様性の理解を広めるためにも、ぜひ多くの人に自分たちのことを知ってほしいと思って頑張っています。

おひとりずつのインタビューも近日配信予定です。ぜひ、チェックしてくださいね。

撮影/西あかり 取材/秋元恵美

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