【性教育ワーク連載vol23】科学的な事実をもとに判断しよう!HPVワクチンについて【とことん詳しく編】
親子の15分性教育ワーク。前回の【親子で学ぼう編】に引き続き、今回もHPVワクチン(子宮頚がんワクチン)についてです。
今年、2023年4月より、HPVワクチンの中の9価ワクチンが定期接種となりました。接種を勧めるポスターや広告などを目にすることも増えてきましたね。
9価ワクチンってなに? 今までのとは何が違うの? 体への害は?などの疑問について、今回の記事でお答えします。
まずは疑問にお答えする前に、HPVとは何なのか、からはじめます。少しややこしい話になるのですが、9価ワクチンについてより深く理解できるようになるために、お付き合いください。
Q1:HPVってなに?
HPVはヒトパピローマウイルスというウイルスです。ヒトパピローマウイルスというウイルスは遺伝子の違う型が100種類以上もあり、発見順に「HPV-1」、「HPV-2」…「HPV100」…というように数字が割り振られています。
この100種類以上のウイルスのすべてが、がんや腫瘍の原因となるわけではありません。がんや腫瘍にはならないけど、手のイボ(尋常性疣贅、ウイルス性疣贅)の原因となるウイルスもあります。性器やその周辺にイボができる尖圭コンジローマという病気の原因にもなるウイルスもあります。
HPVの中で子宮頚がんと関係が大きい型(高リスクと呼ばれています)は15種類あります。HPV-16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、68、73、82が高リスクの型です。これらのHPVのうち、いくつかは、子宮頚がんだけではなく、中咽頭がん、陰茎がんなどの原因にもなります。(他にもHPVによっておこる「がん」があります。前回の記事をご参照ください)
Q2:HPVってどうやって感染するの?
HPVは直接あるいは間接的な接触により感染します。子宮頸がんなどのがんや、性器のイボ(尖圭コンジローマ)の原因となる場合は主に性的接触により感染します。
数年前から保護者向けのHPVワクチン講座を行っていますが、話す内容の中で一番驚かれるのは「HPV(ヒトパピローマウイルス)に感染する確率」です。
性交渉をしたことのある女性のうち、50から80%の人はHPVに感染したことがある、という報告があります。ごく一部の人が感染すると思われがちなHPVですが、実は「ありふれた感染症」です。
ただし感染したすべての人にがんが発生するわけではありません。ほとんどの場合、HPVはからだの免疫機構により排除されます。排除されずに感染が継続した場合のみ、感染した細胞ががんの細胞と変化します。
Q3:HPVワクチンは何にきくの?
HPVワクチンは、HPVの感染を防いでくれるワクチンです。感染をふせぐことで、その先におこるかもしれない、前がん病変(がんになる前の状態)や子宮頚がんなどのがんを高い確率で防いでくれます。
様々な報告がありますが、スウェーデンで行われた研究によると10から30歳、約167万人を対象にした大規模調査にて、子宮頚がんになるリスクが63%減りました。年齢別でみると、17~30歳は53%、17歳未満だと88%も減っています。
ここでおさえときたいのは、HPVワクチンが防ぐのは「感染」ということです。なので、すでに感染してしまっている場合は効果がありません。したがって、HPVワクチンは感染する前に接種するということが重要です。
HPVの感染はQ2で説明したように、主に性的接触です。なので、HPVワクチンを打つ最適なタイミングは、性的接触をする前、つまり初めてのセックスをする前です。子どもがいつはじめてのセックスをするかなんて、保護者にはわかりませんよね。なので、対象年齢(後述)のうち、なるべく早めに接種することがおすすめされています。
それでは、セックスの経験がある人にはHPVワクチンは無効なのでしょうか?そんなことはありません。セックスのパートナーが変わるたびに、相手が感染しているかもしれないHPVの型は違う可能性があります。新たにセックスパートナーができる可能性がある場合、HPVワクチンは有効です。
Q4:9価ワクチンってなに?いままでのHPVワクチンと何が違うの?
いままで定期接種ワクチンでつかわれていたものは、2価ワクチン、4価ワクチンというものです。この「価」というのは、HPVの型がいくつ入っているかをあらわしています。
それぞれの特徴をみてみましょう。
【2価ワクチン(サーバリックス)】
HPV-16、18に対応。子宮頚がんと関係の大きい(高リスク)HPVは15種類ありますが、その中でもHPV16と18が最も検出されることが多く、合わせて50.1から69.1%と報告されています。3回接種。
【4価ワクチン(ガーダシル)】
HPV-16、18に加え、HPV-6、11にも対応。HPV-6、11は子宮頚がんを起こす可能性は低い(低リスク)ものの、尖圭コンジローマの原因となるため、4価ワクチンは尖圭コンジローマを防いでくれます。3回接種。
【9価ワクチン(シルガード9)】
HPV-16、18、6、11に加え、HPV-31、33、45、52、58に対応。15歳未満は原則2回、15歳以上は3回接種。
このように並べると9価が一番いろいろな型が入っていていいように思いますよね。実際に、9価が接種できたら一番いいとは思います。ただ、9価ワクチンは世界的に大人気で、品薄となっています。日本では、この4月に9価が定期接種となりましたが、今後、日本の供給量を上回る接種希望者が出た場合、9価を接種するために、かなり待つことになるかもしれません。その場合は、あまり長く待つよりも、2価、4価ワクチンを接種することをおすすめします。なぜなら、子宮頸がんの原因となるウイルスは2価、4価にも入っているHPV-16、18のことが多く、Q3で記載したように、セックスの前に接種することで、とにかく、HPV-16、18の感染を防ぐというのが重要だからです。
Q5:HPVワクチンの対象は?
小学6年生から高校1年生の女子です。繰り返しとなりますが、初めてセックスをする前に接種すると一番効果が高いので、早めの接種をおすすめします。このワクチン接種をきっかけに、婦人科デビューをしてみるのもいいですね。また、性についてセックスについて、子どもと話すきっかけにもなるかと思います。
また、1997年4月2日から2006年4月1日生まれの人は、国が積極的推奨をしていなかった時期のため、キャッチアップ接種という無料で受けられる制度があります。はじめてのセックス前に間に合わなかった人も、これから感染することは防げますので、対象の方は接種をしておくといいと思います。各自治体のホームページなどをご参照ください。
実はHPVワクチンは男子にも効果があります。HPVでおこる中咽頭がんがアメリカなどでは増えており、それを防ぐためにも、男子も定期接種となっている国が増えてきています。
日本でも、4価ワクチンの費用補助をする自治体が、数は少ないですがあります。早く男子も定期接種になればいいなと私たちは考えています。同じ考えの方はぜひ、ご在住の自治体に、男子への費用補助があるかどうかのお問い合わせや、費用補助の要望を伝えてみてください。
また、自費になってしまいますが、男子もワクチン接種をすること自体は可能です。男子に適応となっている4価ワクチンを3回接種すると5〜6万かかるという大変高価なものではありますが、接種する価値はあります。我が家の息子には、定期接種になったり自治体から補助が出るようになるのを待とうかとも悩みましたが、早目に接種しておきたいという思いもあり、本人と相談した上で、自費で接種しました。
Q6:HPVワクチンの体への害は?
HPVワクチンの安全性についての報告は多数あり、世界中で使用されています。
以前、日本で子宮頚がんワクチンの定期接種が開始された直後、「ワクチンのせいで朝から起きられなくなった」「視力が急に悪くなった」という報道がありました。覚えている方も多いと思います。また、厚労省はこの事態を重く見て、2013年6月にHPVワクチンの積極的干渉をストップしました。
その後、日本でも海外でも、副反応に関する調査が行われ、これらのワクチンのせいとされた症状は、ワクチンのせいとはいえない、ということがわかりました。世界のほとんどの国では積極的な接種をストップすることはなかったのですが、日本の厚労省は安全性がわかってからもなかなか積極的接種を再開せず、初期の報道や厚労省の対応の遅さから、HPVワクチンは怖いものではないか、というイメージがついてしまったと言えます。
日本でおこなわれた調査研究(名古屋スタディ)にでは、HPVワクチンによってひきおこされる、と主張された「疲れやすい」「全身の痛み」「集中するのが困難」「歩行困難」「記憶力低下」など、24種類の症状について小学6年生から高校3年生、約3万人にアンケートをとりました。アンケートを統計解析した結果、ワクチンを接種した人と、接種していない人の間で、ほぼ同じ確率でこれら症状が出ているということが分かりました。つまり、これら重篤な症状はHPVワクチンが原因とはいえない、ということです。
思春期は「疲れやすい」「常にだるい」「目が見えにくい」など不調が出やすい時期です。こういった症状は仮病や気のせいなどではなく、実際に本人にはその症状があり、本人も家族も辛いことが多いです。こういった症状を「ワクチンのせい」と言われると、そう信じたくなってしまうと思いますが、ワクチンを打っていなくても同じような症状は同じ確率で出ます。このような症状がある場合は、児童精神科に相談をしてみてください。
HPVワクチンは、HPV感染を防ぐ以外の体の影響は全くないのか、というと、他のワクチン同様、副反応などはあります。新型コロナウイルスのワクチンと同様に、HPVワクチンは筋肉注射です。一番多い副反応は注射したところの痛み、腫れ、赤みで、約10%以上の人に出ます。1~10%未満の人に発熱、頭痛、悪心、かゆみ、1%未満の人には注射部位のしこり、手足の痛みなどが出現することがわかっています。重篤なものとしてはアナフィラキシーショックが100万回に1回、ギランバレー症候群(脱力、しびれなどの神経症状が出る病気)が170万回に1回出現しています。
この重篤な副反応を知ると怖くなることもあると思いますが、コロナやインフルエンザなど他のワクチン同様、ワクチンはメリットとデメリットを天秤にかけたときにメリットのほうが大きいと私たちは考えています。女性が生涯で子宮頸がんになる人は約83人に1人とされています。これは、ワクチンによる重篤な副反応の出現率よりもはるかに高いです。
また、がんになっても早期発見すれば予後がいいから検診さえしっかりうければ大丈夫ではないか、と言われることもありますが、全てのケースで予後がいいわけではありません。たとえ、予後がいいケースであったとしても、子宮頸がんは他のがんに比べて若いうちになるがんなので、仕事や家庭のことなどで忙しいときに、受診したり、がんの悪化への恐怖を感じたりすることがワクチンで避けられるというのは、大きなメリットだと思います。
お疲れさまでした!
次回は連載最終回、「大人も、子ども、楽しく性の話にふれるにはどうしたらいい?」です。
〈次回へ続く〉
【参考文献】
・がん情報サービス
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/17_cervix_uteri.html
・HPV vaccination and the Risk of Invasive Cervical Cancer:
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1917338
・名古屋スタディ:
http://www.med.nagoya-cu.ac.jp/kouei.dir/ns_Nagoya%20Stduy_Papillomavirus%20Research2018.pdf
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アクロストン
妻(みさと)・夫(たかお)であり、12歳、10歳の子を育てる親でもある、医師2人による性教育コンテンツ制作ユニット。
公立小の保健の授業や楽しく性について学べるワークショップを日本各地で開催。
家庭ではじめられる性教育のヒントや性に関する社会問題についてなどを発信している。
著書:「10歳からのカラダ・性・ココロのいろいろブック 変わるカラダのいろいろ編」 (ほるぷ出版)、「3~9歳ではじめるアクロストン式 『赤ちゃんってどうやってできるの?』」、「いま、子どもに伝えたい性のQ&A 、思春期の性と恋愛 子どもたちの頭の中がこんなことになってるなんて!」(ともに主婦の友社)
監修:シールでぺたぺた「おうちせいきょういくえほん」(主婦の友社)
インスタグラム
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