【中学受験】低学年からやっておいた方がいい「2つのこと」とは
「これからの時代、ひとりっ子が一番伸びる」と語るのは、進学塾VAMOS代表・富永雄輔さん。ひとりっ子を伸ばすために親のマインドセットとともに重要なのは、学校など環境の選び方。中学受験における学校選びのポイントと、ひとりっ子男子・女子への効果的なアプローチ法をお聞きします。また、低学年から始めておきたい中学受験準備についてもお話しいただきました。
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——先生は子どもを指導する上で性差にも着目されていますよね。「男の子だからこう、女の子だからこう」と分けられないと思いますし、あくまで個人差であることは前提として、ひとりっ子男子、ひとりっ子女子の傾向があれば教えていただきたいです。
富永さん(以下、敬称略):そうですね。まず大前提として、僕自身は自分のことを割と多様性に富んだ人間だと思っていて、サッカー選手の代理人と塾の経営者という二足の草鞋で仕事をしている関係上さまざまな国籍やジェンダーの人、学歴も中卒から院卒まで幅広い人たちと関わっています。そういう環境に身を置く中で実際に性差がなくなってきていると感じますし、ステレオタイプな性差による子育ては古いということは明言しておきます。その上であえてひとりっ子男子はどんな傾向があるかと聞かれれば、やっぱり甘えん坊で、親が半歩前に出ているケースが多い分、マイペースな子が多いでしょうか。
——ひとりっ子女子はどうですか?
富永:ひとりっ子の女の子は、親がとにかく自立した女性にしたいと考えているのがすごく伝わってきます。手に職をつけて結婚しなくても生きていけるようにと。ただ、小2の子に「一人で生きていかなきゃ」なんて言ってもわからないだろうと個人的には思います(笑)。そう考えると、男の子の方が良くも悪くも昔とあまり変わってないですね。ちょっと甘えん坊で親が半歩先にいきがちで、それがプラスになることもあればマイナス面もあるということですね。
——ひとりっ子男子の甘えん坊な部分をポジティブに伸ばすとしたら、どういうアプローチが必要ですか?
富永:いずれ必ず大人になる時がきて成長の確度がぐっと上がるので、そのタイミングを見誤らないこと。その時にちゃんと手を離して第三者に委ねることですね。そういう意味で、中堅の中高一貫男子校はひとりっ子男子の扱いがものすごく上手です。男の子の自尊心を傷つけずに楽しい6年間の青春を過ごさせて、かつちゃんと成長もさせる。全員が東大や難関大には行かないかもしれないけれど、人間としての成長を上手にサポートしてくれます。ひとりっ子男子は、焦らずにいい環境を見つけてあげることが重要だと思います。
——ひとりっ子女子へのアプローチはどうですか?
富永:女の子の方が精神的に大人で自立のタイミングが早かったりするので、小学生段階からしっかりコミュニケーションをとりながら決めてほしいです。中学受験なら学校選びが一番大変ですね。男の子は親が上手に乗せれば誘導できますが、女の子は意思が強いから誘導するのが難しい。その意思が間違っている可能性があるので親が導かなければいけない場合もあるけど、説得じゃなくて納得させなきゃいけないですね。
——ひとりっ子男子に男子校がおすすめだとしたら、ひとりっ子女子は女子校がいいということですか?
富永:いい悪いというよりも、ひとりっ子女子は本人も親も共学校を選ぶ傾向にあります。男性を見る目を養ってほしいという気持ちもあるのかもしれませんね。ここ数年、共学校がどんどん増えていて人気もありますが、9割以上の共学は女子の方が偏差値が高いんです。中には男女で5〜10偏差値が違う学校もあります。そうなると同じ学校でも女子の方が優秀な子が理論上多くなるわけで、女性の社会進出を考える親ほど共学を選ぶ人が多い気がします。一人娘だから大事に箱に入れて誰にも何にも触れさせないではなく、一人娘だからこそ親が関われるうちにいろんな経験をさせていろんな人に触れさせるということです。ただ、最終的には本人が楽しめればどちらでもいいと思います。
——女の子の子育ては、精神的にも経済的にも自立した女性というのが一つのロールモデルになっていると思うのですが、一方で男の子のロールモデルが見当たらないと感じます。
富永:そこはすごく難しいだろうなと思います。昭和の働き方に象徴される旧来のロールモデルは崩壊したけど、代わりとなる新たな見本がないですよね。ただ、多様性という意味では女の子よりも男の子の方が広いと感じていて、昭和的な働き方を好む人もいれば真逆の人もいて、そもそも働くことや学力についての考え方も様々になっていて、専業主夫も今後さらに増えていくと思います。横縦にレンジが広がって正解がないから、難しいと感じるのではないでしょうか。だからこそ中学受験や小学校受験をすることで、自分たちの価値観に合った私学を選びたい家庭が増えているんじゃないかなと思います。
——確かに中学受験の受験者数は年々増えていて、VERY読者でも検討している人が多いですが、中学受験を見据えた時に幼少期や低学年からやっておいた方がいいことは何でしょうか?
富永:大きく分けて2つです。一つは、とてつもなくちゃんとした基礎学力。“とてつもなくちゃんとした”というのがポイントで、量・質ともにみなさんが想像する5倍はやらないとダメです。今の子どもたちを取り巻く環境の中には歯ごたえが柔らかいものがすごく増えていて、重厚な努力をする習慣がつきにくい。漢字ドリルも昔は30回書くところを今は5回だったりしますし、学校がコロナ対応に追われて宿題を出せなかったりして、ちゃんと努力をするというプロセスを教えられなかったんですね。みなさんが思っている以上に簡単な勉強は差がつくし、後で取り返しがつきません。可能なら先取りもして、精神的優位性を作るといいですね。もう一つは、子どもとの対話。たくさんのお話、たくさんの経験です。特に世間で言われる上位校を目指したいなら、たくさんの本を読ませてあげてたくさんの経験をさせて、いろんなことに興味関心を持たせるのが重要です。今の中学入試はそんな問題ばかりが出ますから。
——いわゆる体験学習と基礎学力の両輪ということですね。
富永:そうですね。あとは一生懸命コツコツやる習慣も身につけてほしいです。学校や塾で一生懸命やらせようとするのは一歩間違えると押しつけになってしまうので、加減が難しいんです。一昔前ならめちゃくちゃ怒る塾の先生が今は怒らなくなっている。となると、幼い頃から家庭でコツコツやっておかないと後で追い上げが効かなくなります。
——最後に、ひとりっ子ママが自信を持って子育てできるようにメッセージをいただきたいです。
数千人の保護者を見てきた僕の主観ですが、ひとりっ子の親御さんは、親でありながら一人の人間としての自分も大切にしていると感じます。それは子どもにとって嬉しいことなんですよね。一番大事なのはお母さんがひとりっ子に罪悪感を持たないこと。実際、ひとりっ子にネガティブな要素はないですし、親が幸せだと思うことが子どもにとっても幸せですから。ひとりっ子育児に起こりがちな物理的なデメリットは解決さえすれば、ひとりっ子はとてもいい子育てができると思うので、自信を持って楽しんでほしいです。
お話を伺ったのはこの人
富永雄輔さん
進学塾VAMOS代表。幼少期の10年間をスペインのマドリッドで過ごす。京都大学経済学部を卒業後、東京・吉祥寺に幼稚園生から高校生まで通塾する少人数制の塾、「進学塾VAMOS(バモス)」を設立。入塾テストがないにもかかわらず、中学受験の第一志望合格率は7割を超える。現在吉祥寺、四谷、浜田山、お茶の水に校舎を構える。学習指導のみならず様々な教育相談にも対応し、年間400人を超える保護者の受験コンサルティングを行っている。また、各学校にも精通しており、中学校の紹介等をYouTubeで行っている。自身の海外経験を活かして、トップアスリートの語学指導、日本サッカー協会登録仲介人として若手選手の育成も手掛けている。近著『ひとりっ子の学力の伸ばし方』(ダイヤモンド社)
取材・文/宇野安紀子
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