お笑い芸人・小籔千豊さんが「自分らしさなんてなくていい」と言い切る理由
11月11日に『ゲーム反対派の僕が2年で4000時間もゲームをするようになった理由』(辰巳出版)を刊行した小籔千豊さん。ゲームを通して自身の価値観が大きく変化したという小藪さんを迎え、“自分らしさ”をキーワードにインタビュー。CLASSY.世代の先輩として、小藪さんが示してくれたヒントとは?
◆前回のインタビューはこちら
価値観が大きく変わったきっかけは…笑い飯・哲夫の“般若心経の解説本”
-年齢を重ねて選択肢が広がり、キャリアや生き方に悩むCLASSY.世代が多くいます。小籔さんご自身、年齢を経て変わった価値観はありますか?
母親父親に言われてきたことは価値観の礎になってますけど、30歳の頃に仏教とか禅の教えの本を読んで、変わった部分がありますね。おじいちゃんおばあちゃんっ子だったこともあって、割と神社とかよく行く家やったんです。当時はそこまで深く考えてなかったんですけど、大人になってからたまたま買った天台宗の僧侶、酒井雄哉さんの本で、“一日一生”っていう教えに触れて。酒井さんが成し遂げた、千日回峰行(7年がかりで約4万キロを歩く比叡山延暦寺の荒行)について書かれてるんですが、その内容にハッとしたんですよね。
そこから仏教にまつわる本を読みだし、そうこうしているときに笑い飯の哲夫が般若心経の解説本を出したんです。哲夫から「読んでください」と渡されて何の気なしに読んでみたら、めっちゃ面白くて般若心経の意味が分かったんですよ。そこから禅の本も読むようになったら、悩みのほとんどがなくなるというか。哲夫の本、禅の教え、仏教の書籍には、悩みを解決する方法とか考え方がそこらに書いてあって、物事の捉え方は改めて変わったかなと思いますね。
「美容やファッションの指南書は読むのに、 人生の指南書は読まへんから悩むんや」
-悩み多き今の若い世代に何かアドバイスをするなら、なんと伝えたいですか?
僕、“小籔大説教”という、来場したお客さんの悩みを解決するイベントをやってきてるんですけど、そのときによく話すことがあって。例えば「私ファッション、ダサいねん」って悩んでいる人がおるとして、「CLASSY.読んでんの?」って聞いたら「読んでない」と。それはアホちゃう?って思うじゃないですか。「悩んでるんやったらCLASSY.読みなさいよ」ってなりますよね。それと同じで、30代の女の人って「人生に悩んでる」って言うわりに仏教の本を一切読んだことがない。美容やコスメ、ファッションの指南書は読むくせに、人生の指南書は読まへんから悩んどんねん、と伝えたいです。
結局僕らは、有識者や先人の知恵をいただいて生きてるんですよ。僕らが自分だけで見つけたことなんてひとつものない。ひらがな、掛け算、料理の仕方……教えてもらったことから応用することはあっても、0から1を見出すっていうことはほとんどない。親や先生に色々と教えてもらって生きているのであれば、人生のことも先人に聞くべきやと思います。
「自分らしさ」はいらない。 SMAPの歌から感じ取ってほしいこと
-CLASSY.世代は、働き方や生き方に「自分らしさ」を求めていますが、小籔さんの思う「自分らしさ」とは?
コロナもあって、今のCLASSY.世代も含めた若者は、夢とかやりがいとか自分らしさという言葉に縛られすぎてるなと思いますね。マスコミ関係者が言うてるだけで、自分らしさなんて全くいらないですよ。「世界に一つだけの花」ってあんなに歌われてるのに、誰も意味が分かってない。花が自分らしくなるために何もしてないじゃないですか。あの歌は、「あんたが生まれたことがひとつの花ですよ」「その花を咲かせるために一生懸命になればいいんですよ」って言っていて、それをあんだけ耳にしてるのに、まだみんな「自分らしさってなんやろう?」「個性ってなんだろう?」って言うてるんです。
突き詰めていけば自分らしさや個性なんてないし、完全オリジナルの人間なんていないんです。それでも「もともと特別なOnly One」言われてるわけですから、オンリーワンをそない意識して目指さんでもいい。ほんまに自分らしさに悩むんやったら、「世界に一つだけの花」の歌詞を写経のように書いて、声に出して読んでみてください。「自分らしさが見つからへん」って悩む必要なんかないわ、って思えますから。
置かれた場所でやりたいこと、 やるべきことに向き合う方が大事
そもそも、自分らしさに悩む人は、「誰かと一緒であることが嫌や」って言うんですよね。てことは、誰かと一緒の人のことを「何者でもないやん」って侮蔑してるんですよ。
うちの子どもは何も特別なことはないです。もちろん個人的に特別な感情はありますけど、賢くもなければスポーツが特にできるわけでもない、どこにでもいる普通のコ。でも可愛いし代わりはいないわけですよね。みんな誰かにとってそういう存在であると思うから、自分らしさに固執せず、怠惰にならず、自分の置かれた場所でやりたいこと、やらなければならないことに一生懸命向き合うことが大事なんじゃないかな、と思います。
だから僕は自分らしさはなくていいと思うんですけど、「小籔に何言われても自分らしく生きたいねん!」と押し返してくるなら、自分に投資して勉強してがんばったらいい。自分で努力もせん、学ぼうともせんくせに、「自分らしさって何やろう?」って悩むんじゃなくて、スキルを2、3個身につけたら? と。おっさんはそう思ってます。
PROFILE
小籔千豊(こやぶかずとよ)●1973年9月11日生まれ、大阪府出身。2006年『上方お笑い大賞』話題賞受賞。15年以上にわたり座長を務めた吉本新喜劇の座員として活動する傍ら、俳優や吉本新喜劇ィズ、ジェニーハイのバンドメンバーとしても活躍。オンラインゲーム「フォートナイト」にハマり、“フォートナイト下手くそおじさん”としてゲームYouTuber活動も開始。「姫」は配信中の小籔さんの愛称。
初著書『ゲーム反対派の僕が2年で4000時間もゲームをするようになった理由』(辰巳出版)好評発売中!
小籔さんがフォートナイトを始めるきっかけやゲームを通じて変化した親子関係などが自身の言葉で綴られた1冊。まるで小籔さんが話しているような軽快でクスッと笑えるストーリーで、フォートナイトをやっていなくても自然と引き込まれる1冊。
撮影/永峰拓也 取材・文/坂本結香 構成/宮島彰子(CLASSY.ONLINE編集室)