【男の子の育て方 対談連載vol.15】すね毛の処理は男子でも当たり前になっていく?

男の子は自分と性別が違うからわからない……と感じているSTORYママに向けて、「男の子の教育で気をつけるべきことは何か」について、ともに2人の男児を育てている専門家が語り合います。

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思春期男子は「毛」が気になるもの

ライター東 先日、久しぶりに大阪にいる高校生の甥に会ったのですが、小6の息子に「今だけだよ、そんな短いパンツ履けるの」と言っていました。中高生くらいになると脚を出すのが恥ずかしいと。

太田さん(以下敬称略)  男の子が、脚を出すのは恥ずかしいといってるということですね? どういう理由なんでしょうか。

 そうです。「どうして?」と聞いたら、「すね毛が恥ずかしいんだよ! だから、どんどんパンツが長くなるんだよ」と教えてくれました。やはり太田さんのお子さんも、中学生ぐらいになってパンツが長くなりましたか?

太田 今はまだ脚を出していますが、でも確かに、すね毛は気になっているようですね。最近の話ですが、次男が長男のすね毛を引っ張って、喧嘩してましたよ(笑)。

東  どんな喧嘩ですか。

太田 次男にとっては、すね毛が新鮮だったんでしょうね。喧嘩しながら毛を引っ張って……。
長男は「引っ張るなよ、抜くなら脱毛クリーム持って来いよ!」と叫んでいました。

私は喧嘩のことより〈脱毛クリームの存在を知っているんだ?〉と驚きましたね。長男は中2ですが、友達同士でそういう話題になるのかと。

東  やはり既に脱毛を考えているのでしょうか……。

太田 どうなんでしょうね、「すね毛があって、恥ずかしい」と言うのを聞いたことはないのですが……。今は、男性エステや脱毛サロンなど、電車内にもたくさん広告があって、「髭も脚もツルツル男子が素敵だ」というようなイメージがコマーシャル的に流されています。そうなると、やはり影響されるだろうとは思いますね。

東 田中さんは大学生の方たちから、すね毛を気にしているといった話を聞いたことはありますか?

田中さん(以下敬称略) 以前所属していた共学の大学では、【卓球部の男の子が、すね毛を剃っている】という話を聞きました。

東 そうですよね、卓球はユニフォームの試合規定があって、ショートパンツなんですよね。脚を出さないとダメなんです。

田中 そうです。あと、近所の中学生を観察していても、脚がツルツルの子はハーフパンツを履いていますね。もともと薄いのか、処理しているのかはわかりませんが……。
思春期のお子さんがいるご家庭でしたら、「毛」のことは気になるんじゃないでしょうか。
男の子が体毛を気にして、“毛の処理をしたい”となった時に助けてあげるべきなのか。それとも「そんなこと気にしなくていいんだよ」と言うべきなのか。
迷うところだと思いますね。

東 高校生の甥は「脱毛したい」と言っていました。

太田 どんな方法で脱毛したいのだろう?

東 脱毛フォームと言ってましたよ。

太田 やっぱりそうなんですね。よく知っていますよね。

東 はい。脱毛は、カミソリで剃るだけじゃないというのを知っています。

太田 私は、男の人が〈身だしなみを良くしよう〉とか、〈美しくあろう〉というのは、すごくいいことだと思っています、セルフケア的な意味合いで。
ただ、そもそも〈女は美しくあれ!〉という抑圧が強いのと同じように、男性にも「美しくなくてはいけない」という抑圧を外部から与えるのはやはりおかしいですよね。
でも、男性にカッコよさや美しさのイメージがあって、それに自ら近づきたいと思っているのであれば、何も止めるつもりはありません。
大学生の息子がいる友達から聞きましたが、若い世代の男性は洗顔の後、わりと普通に化粧水を使っていると聞きます。実際に肌にとっては、しないよりも、したほうがいいと思うのだけど。

東 ヒゲを剃った後は乾燥するんですよね? だったら肌のために、男性も保湿化粧品は使うべきですよね。
あと甥に聞いたところ、別に腕の毛はいいんですって。脚が嫌なんですって。

昔は「毛があるほうが男らしい」だった

太田 腕毛よりもすね毛の方がみっともないという価値観があるのでしょうか。30年ぐらい前のことですけど、むしろ“毛がなくて恥ずかしい”と言ってた同級生男子の話を覚えてます。友達のことを指して、「いいよな。あいつはモジャモジャしてて」みたいな。
それに比べて自分の体は子どもっぽい、といったニュアンスで言っていました。

東 “毛がないほうが恥ずかしい。毛があるほうがカッコいい”。昔はそんな「男っぽさ」のイメージがみんなの中でありましたよね。
それはそうと、甥は顔のヒゲのことは何も言ってませんでした。それはもうヒゲを剃っているからなんでしょうか?

田中 そうじゃないでしょうか。
ヒゲというのは、剃るのが当たり前だけど、腕やすねの毛は、処理するかどうかの判断が分かれる部分だからこそ、余計に悩みがあるのではないでしょうか?
剃っているなら剃っているで、何か言われるかもしれないし、放置していたら「お前、毛が濃いな」と言われるようなこともある。だからこそ、どっちがいいかで悩むのではないでしょうか。
腕やすねの毛は処理するべきかどうかという問題が、体毛が濃くなる時期の男子に生じるということでしょうね。
だから、それについて親がどう声がけするかについて考えてみる必要はあるでしょう。

東 田中さん自身も、それぐらいの年頃の時は体毛やヒゲが気になりしましたか?

田中 気になりました、すね毛がイヤでしたね。
でも、僕らの頃は、剃るか剃らないかについて、それほど強い圧力があったわけではないですよね。今の子はおそらく、太田さんのお子さんのように、友達同士の会話の中で脱毛クリームの話が出てくるレベルになっているのかもしれない。
僕らの時代は、そこまで良い商品もありませんでしたから。

太田 あまり意識して見ていないのですが、ドラッグストアに行けば脱毛用品がたくさんありますよね。脱毛のメンズエステがあるぐらいですから、もしかしたら、【男性用】とうたっている商品もありそうです。
そういうのを使って息子が脱毛したいと言ってきたら、ダメと言う理由はない気がします。止める親はいるのでしょうか……。

東 今は、おそらくダメとは言わないんでしょうね。昔は〈毛が濃いほうが男らしくていいじゃないか!〉みたいな風潮がありましたけど、今は〈自分の体のことを気にするようになったんだね〉みたいな感じですかね。

太田 今まで「女性的」とされてきた振る舞いを息子が望んだ時に、親がどこまで違和感なく受け止めるか。
その点で、脱毛は、わりとハードルが低い気がします。いちばんハードルが高いのはメイクじゃないかな?
でもマットさんのような方もいらっしゃるから、そうでもなくなってきたのかもしれません。

東 男の子も女の子と同じように、美しいもの、綺麗なものを目指すという方向で脱毛に向いているのであればいいのですが、一方で、脱毛も、同調圧力のようなものがあるような気もします……。
以前、田中さんが男性用化粧水のCMの話をされていましたが、CMが大量に流されることによって、〈男もやはり脱毛したほうがいいんじゃない?〉とか〈脱毛したほうがモテる?〉と思わされてきているというか。

田中 こういう美容やファッションに関する話は、いつも難しいですよね。
「ねばならない」という周りからの同調圧力なのか、自分が自己表現としてそういうことをしたいのか……。もちろん自己表現として取り組んでいる人もいれば、周りがやっているからせざるを得ない人もいます。
そして、すね毛ひとつ取ってみても、一度、手入れし出すと、半永久的に手入れし続けなければならないから大変です。女の人は、もうそこから抜けられないことになっていますよね。

太田 脱毛産業は儲かりそうですね。

田中 そうだと思います。女性の市場は、もうこれ以上開拓の余地がない、でもまだ男性には市場が広がっている……。

太田 みんなが綺麗にしているから自分もキレイにしなくちゃいけない、という見た目だけの問題じゃないですよね。そこに加えて、〈自分らしく生きていく〉ということを、これからの男の子が、より抑圧なくできるよう、大人が支えていけるといいですよね。

取材/東 理恵

太田啓子
弁護士。中2と小5男児の母。離婚問題や相続問題、セクハラ・パワハラ事件などに多く関わる。数々の経験を基にした、ジェンダーにまつわるSNS投稿が反響を呼ぶ。昨年出版した『これからの男の子たちへ』が話題に。

田中俊之
社会学者。大妻女子大学人間関係学部准教授。専門は男性学。『男子が10代のうちに考えておきたいこと』など著書多数。男性学の視点から男女とも生きやすい世の中を研究。私生活では6歳と2歳男児の父。

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