【更年期のリスク】50を過ぎたらほとんど使命を終えてしまう。そんな臓器は卵巣だけです 〈対談〉産婦人科医・高尾美穂先生×STORYライター柏崎恵理 vol.1
本誌STORYの8月号・11月号にご登場いただき、その親しみやすく明快な語り口で大きな反響があった産婦人科医の高尾美穂先生と、STORYの連載ページ【更年期のクスリ】を長年担当してきたライター柏崎との対談連載がスタート!
ぼんやり知っているつもりだけれど「実はよくわからない」更年期のあれこれについて、柏崎が初心に帰って高尾先生に直球質問。何となくモヤモヤしているココロとカラダが、読めばスッと軽くなるはず!
イーク表参道副院長 高尾美穂先生
医学博士。産婦人科医。またヨガ指導者としても活躍。stand.fmで毎日更新される番組『高尾美穂からのリアルボイス』の気さくな語り口も大人気。
STORYライター 柏崎恵理
本誌STORYの連載ページ【更年期のクスリ】担当歴8年。この対談で高尾先生から睡眠不足を指摘され、生活改善を断行し6キロのダイエットに成功。
「更年期」と「更年期症状」と「更年期障害」は違います
柏崎 高尾先生、STORYで連載中の【更年期のクスリ】はご覧になったことはありますか?
高尾 ありますよ。私は普段はヨガの雑誌くらいしか読まないんだけど(笑)、STORYの連載は読んだことありますよ。患者さんからも聞いたことありますしね。
柏崎 ありがとうございます! なんか嬉しい(笑)。
高尾 あの連載は20年前の創刊時から続いてるんでしょう? 更年期という言葉を、そんなに昔から出してくれているメディアは他にないと思います。更年期ってワードはネガティブな印象が強くて、長年、女性の不調の中でもある意味秘めた状態でした。今までは、黙って耐える、やり過ごすのが日本女性らしい、みたいなイメージだったんじゃないかな、、、ひとつ上の世代までは。
柏崎 確かにそうです。母が昔読んでた婦人雑誌の後ろのほうの白黒ページに小さな字で載ってたような気がします。
高尾 でもSTORYは20年前から更年期のことを話題に取り上げてくださっていたことが素晴らしいですね。なかなかないですよ。
柏崎 ありがとうございます。でも先生、私も連載担当して8年経つんですが、まだまだ勉強不足で、今日はまずは基本の「キ」からうかがいたいのですが。更年期がどのくらいの人に起こるのか教えてください。
高尾 最初に「更年期」という言葉の扱い方をハッキリさせておかなければなりませんね。まず「更年期」はある一定期間をさす言葉なので、誰にでも来ます。いわゆる日本人の平均閉経年齢だいたい50歳の前後5年ずつ、45歳から55歳くらいが「更年期」という時期です。そのうち6割の人に「更年期症状」が出て、残り4割の方たちには症状が出ないんです。
柏崎 えっ、4割の人には症状が出ないんですか。
高尾 そう。生理周期がバラついて終わるだけ、という人が4割いるの。症状が出る6割のうち、約半分弱の人がやや重めの「更年期障害」という状況になります。つまり全体の3割弱ね。だから「更年期」「更年期症状」「更年期障害」、この3つは違うものを指しているんです。
柏崎 「更年期症状」と「更年期障害」も異なるのですね。そのふたつは何が違うんですか?
高尾 ホットフラッシュや頭痛、めまい、動悸や不眠、イライラや憂うつ感など、症状は同じだけれどその重さが違いますね。あまりに具合が重くて仕事や家事に集中できない、寝込んでしまうとか、日常生活に差し障りがあるほどになると更年期障害とみなされます。
※更年期症状とは?
ほてり・のぼせ・多汗・疲れ・イライラ・うつ・落ち込み・不眠・不安感・動悸・肩こり・頭痛・腰痛・手指のこわばり・関節痛・めまい・冷え・耳鳴り・粘膜の乾燥・歯周病など
柏崎 多彩な症状がありますね。私も倦怠感、不眠と中途覚醒、動悸、そして何よりもひどい“やる気レス”(笑)に悩まされました。朝起きられなくて、用事がないと2度寝する毎日で。婦人科で塗るホルモン剤・経皮ジェルを処方してもらって、あるときからは低用量ピルのマーベロンで劇的に良くなりましたが、ホルモン補充療法のお話はまた触れさせていただくとして。やはり40代半ばあたりからは何か症状が出たらまずは婦人科へ! ですね。
高尾 そうそう。手間と時間をかけていろんな病院を巡る人もいますから。
柏崎 まさに私です! 動悸がすごくて、心臓疾患を疑って何度も内科を受診しました。でも今思えば更年期症状だったんです。
高尾 でもね、絶対にホルモンの血液検査を受けなくてはいけないわけでもないんです。みなさん、なぜか受けたがるから(笑)。もちろん「検査してください」って言われれば、私たちは検査するんだけれど、しなくてもわかりますからね。
柏崎 えっ? どういうことですか?
閉経までがボーナス期。50歳以降が人生のデフォルトなんです
高尾 ほどほどの生理がちゃんと来ていれば、まだ更年期ではないと考えて、血液検査をしなくていいんです。だから生理の状況や年齢でわかりますね。
柏崎 わあ、シビアな年齢切り……。でも生理がある程度順調ならば自ずとエストロゲンは分泌されていると言えるんですもんね。
高尾 そう。それに血液検査でわかるホルモンの値と不調とは相関関係がないんです。ですから血液検査でわかるのは今どういう時期にいるか、ということだけですね。さっき言ったように閉経の平均年齢は約50歳ですが、それはつまり卵巣の働きが終わる年齢ということ。そもそも女性にとっての卵巣という臓器は、男性にとっての精巣にあたりますが、精巣は年齢によって働きは落ちてはいくものの、全くゼロになることはない。でも女性の卵巣は10歳くらいから働き始めて50歳くらいまでに働きを終える。40年間しか働かない期間限定の臓器。こういう臓器は他にないわけです。
柏崎 ええっ、そ、そうなんですか。50歳以降、卵巣は体の中で働いていない臓器だったなんて。無知でした……。
高尾 卵巣は妊娠・出産のための臓器ですから、その機能は性成熟期といえる20代をピークに、35歳ごろを境にしてガクッと低下していきます。
柏崎 35歳? それも案外早い……。
高尾 閉経までは、女性の体には毎月排卵と生理が起こりますよね。この仕組みを担っているのが女性ホルモンの代表格である「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と妊娠をサポートする「プロゲステロン(黄体ホルモン)」という2つのホルモン。これらは35歳ごろを境に徐々に減少していって、40代になるとさらに急激に減少するんです。
柏崎 それが更年期なんですね。
高尾 そう。更年期というのはエストロゲンの分泌量がアップダウンをくり返しながら減少していく時期。性成熟期には安定して作ることのできたエストロゲンが、安定して作れなくなっていくのですが、卵巣が勝手にエストロゲンを作ることができるわけではなく、脳の視床下部からの命令があって初めてそれに応えて作られるんです。
柏崎 脳の指令が!
高尾 そこでどうして不調が起こるのかをおさらいしますね。卵巣へホルモン分泌の指示を出すのは視床下部ですが、そこが卵巣機能の低下に気づいておらず、働けなくなっている卵巣に指示を出し続けてしまうんですよ。
柏崎 視床下部って、案外ポンコツ(笑)。
高尾 それで卵巣が応えられないと、視床下部がパニクって、機能が低下する。そうすると視床下部が担当している自律神経のコントロールまでうまくいかなくなり、自律神経が司る発汗や体温の調整などに不調をきたす、という仕組みです。
柏崎 わかりやすい!
高尾 イメージで言えば水鉄砲みたいな感じなんですよ。引き金を引く力は脳からのホルモン=FSH、出る水がエストロゲンで、ちょっと引き金を引いてみるとしっかり出る、これが性成熟期。一生懸命引き金を引けばどうにか出る、これが移行期、まさに更年期です。最終的には、引き金を引き切っても一滴も出ません、これが閉経なんです。
柏崎 さらにわかりやすい!
高尾 エストロゲンには血管をしなやかに保ったり、骨を丈夫に保ったり、肌や髪のツヤを保ったりしてくれる作用がありますから、女性にとっては守り神のようなもの。それがガクンと減ってく。しかも安定して下がり続けるのではなく、ときにはアップダウンしたりする。それまでは常にエストロゲンが必要な時には分泌できたわけですから、大変なことです。
柏崎 ブイブイ言わせてきた体が、変化に慣れずにエンストを起こしちゃう状況。それが更年期に起こりがち、ということですね。
高尾 そうそう。でもその不調はホルモンのせいであって、自分のせいじゃないのよ。
柏崎 あ、よく言われる「思春期の反抗期はホルモンのせいだから放っておくのがいちばん」みたいなことですね。誰のせいでもなく、ホルモンの影響なんだよと。
高尾 さらに言うと、時代がどんなに進んでも、閉経の平均年齢はこの200年で2年も伸びてないんです。だから更年期期間も大昔と同じなの。
柏崎 そうなんですか? 生活や食べ物が変わって、サプリメントもいろいろできてきたのに?
高尾 そうなんです。
柏崎 それは初めて知りました。でも閉経という言葉はすごくネガティブに捉えられているような気がします。私が取材した中でも「女が終わるみたいで、憂うつ」と話す方が何人もいらっしゃいました。
高尾 エストロゲンは出なくなるけれど、考えようによっては、これまで散々ホルモンの変動に振り回されてきた生活から解放されるってことですよ。逆に言えば、エストロゲンが出ていた時期がボーナス期であって、50歳過ぎてからが人生のデフォルトなんです。
柏崎 えっ! 先生、その考え方、目からウロコ過ぎます!!
高尾 今さら?(笑)。女性ホルモンを知ることは自分の人生を知ることと同じなんですよ。
柏崎 はあ、納得です……。
高尾先生の解説に目からウロコが落ちまくるライター柏崎。
次回は
「ボーナス期が終了したカラダに最も有効な生活改善って?」
「手を出す? 出さない?みんなが気になるホルモン補充療法について」
です。
撮影/西あかり 取材/柏崎恵理
おすすめ記事はこちら
・【更年期どうする?】高尾美穂先生に聞いた、ゆらぐカラダの愛し方・「早すぎた更年期が、新たな学びと起業の道へと導いてくれました」
・草刈民代さん、更年期は軽やかな探究心で乗り越えて