【週末観たい映画案内】是枝監督最新作『ベイビー・ブローカー』はソン・ガンホ主演の韓国映画

映画ベイビー・ブローカーの一場面

『万引き家族』でカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを受賞した是枝裕和監督の最新作は、韓国映画。韓国の国民的俳優、ソン・ガンホを主演に迎えて描いた、「赤ちゃんポスト」から始まる旅の結末とは……? 自分の子育てについて、広い意味では社会の中での子どもという存在について、改めて考えることのできるヒューマンドラマです。

『ベイビー・ブローカー』あらすじ紹介

映画ベイビー・ブローカー メインカット

<STORY>

古びたクリーニング店を営みながらも借金に終われるサンヒョン(ソン・ガンホ)と、<赤ちゃんポスト>がある施設で働く児童養護施設出身のドンス(カン・ドンウォン)。ある土砂降りの雨の晩、2人は若い女ソヨン(イ・ジウン)が<赤ちゃんポスト>に預けた赤ん坊をこっそりと連れ去る。彼らの裏稼業は、赤ん坊の養父母を見つけ出しては高い条件で取り引きするベイビー・ブローカーだ。

しかし、翌日思い直して戻ってきたソヨンは赤ん坊がいないことに気づき、なりゆきから2人と共に養父母探しの旅に出ることに。一方、彼らを検挙するため、ずっと尾行していた刑事スジン(ペ・ドゥナ)と後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)は是が非でも現行犯で逮捕しようと静かに後を追っていく。(プレス資料参照)

【ここに注目①】韓国の国民的俳優ソン・ガンホ×カン・ドンウォンの強力タッグ

ソン・ガンホ

サンヒョン役のソン・ガンホ

主演を務めたのは、『パラサイト 半地下の家族』(2019)で世界からの注目を集めたソン・ガンホ。今作でも、第75回カンヌ国際映画祭で韓国人俳優初となる最優秀男優賞を受賞するという快挙で、名実ともに韓国を代表する俳優となりました。

『ベイビー・ブローカー』の中では、1人で古いクリーニング店を営みながら借金取りに追われる男、サンヒョン役。裏では「善意から」と言いながら、借金返済のためベイビー・ブローカーをしているダメ男です。が、赤ちゃんを一生懸命あやしながらオムツを替えたり温度を気にしながらミルクをあげたり、見た目を良くして高く売ろうと眉毛を書いちゃったり……ちょっと抜けていて何だか憎めないオジサマを飄々と演じているのがさすがです。

カン・ドンウォン

ドンス役のカン・ドンウォン

カン・ドンウォンは、赤ちゃんポストでバイトしながら、ベイビー・ブローカーの片棒をかつぐ青年ドンス役。186cmと長身でモデル出身のイケメン俳優ですが、今作ではアクションもラブ要素もなし。児童養護施設出身という出自から、赤ちゃんポストに赤ちゃんを置いて行く母親たちに対して複雑な思いを抱いていて、お金というよりは、より良い条件で赤ちゃんが育ってほしいという気持ちから養父母探しも真剣に取り組んでいます。

一緒に旅をすることになった、一度は赤ちゃんをポストに預けたソヨンに自分を捨てた母親を重ねてしまう部分もあり、その心の動きを繊細に表現しています。

【ここに注目②】2人の女刑事とワケあり母を演じた女優たち

ペ・ドゥナ

刑事スジン役のペ・ドゥナ

ブローカー達を車で張り込みながら追い続ける刑事スジン役のぺ・ドゥナは、『空気人形』(2009)続き二度目の是枝監督作品への出演です。冷静沈着で執念深く犯人を追うスジンには、張り込み場所に着替えを届けてくれる優しい夫がいますが、何やら子どもを捨てる母親に対しては特別な思いがある様子。犯人を追跡しながら、ある意味赤ちゃんを見守る立場にもなっているのが象徴的です。

イ・ジュヨン

イ刑事役のイ・ジュヨン

スジンの後輩刑事役のイ・ジュヨンは、日本でも大ヒットしたドラマ「梨泰院クラス」(20)でのトランスジェンダー役が話題となった個性派俳優。今作では先輩刑事のスジンを尊敬し、良き相棒となっています。

余談になりますが、スジンとイ刑事が張り込みながら色んなものを食べるシーンも印象的。辛ラーメン、韓国おでん、パックごとのプチトマトに時にはグミも。車の中で食べているのでASMRの租借音並に音を拾い、どれも無性に食べたくなってしまいます(笑)。

イ・ジウン

赤ちゃんの母ソヨン役のイ・ジウン

赤ちゃんの母親・ソヨンを演じたイ・ジウンは、韓国では“IU”名義で国民的な人気を誇る歌手としても活動していて知名度は抜群。テレビドラマでの高評価を経て、近年は映画作品にも意欲的に出演しています。

なぜソヨンが赤ちゃんをポストに預けようとしたのかは、物語の中で徐々に明らかに。一度はポストに預けた赤ちゃんですが、その子をどうしたいのか、どうすれば良いのかなかなか答えが出せず、探りながら旅をしている繊細さが伝わる演技です。

【ここに注目③】是枝監督が描き続けるテーマ”血のつながり”と“子育て”

映画ベイビー・ブローカーの一場面

これまでも是枝監督は、育児放棄を題材にした『誰も知らない』(2004)、産院での赤ちゃん取り違えをテーマにした『そして父になる』(2013)、犯罪で成り立つ疑似家族を描いた『万引き家族』(2018)など、子育てや血のつながりについての作品を撮り続け、家族とは?という疑問を観る側に投げかけてきました。

『ベイビー・ブローカー』では養父母探しの旅を続ける中で、サンヒョン、ドンス、ソヨンそれぞれ赤ちゃんへの愛着がわいてきて、家族のような絆が生まれてきます。観客も、このままみんなで旅を続けたり暮らすことは無理だとわかっていながら、赤ちゃんが誰に育てられることになっても、愛情を受けながら幸せに育ってほしいと願わずにはいられなくなります。

ラスト近く、旅をしてきた仲間全員が、ある言葉のギフトを受け取ります。その言葉を、帰ったらすぐに自分の子どもにも伝えよう!というのが、筆者が見終わった後にまず思ったことでした。赤ちゃんポストを発端にした社会問題を描きながら、個人的な家族について考えるきっかけにもなる素敵な作品。ぜひ劇場でご覧ください。

作品情報

映画ベイビー・ブローカー ポスター画像

<Information>

『ベイビー・ブローカー』6月24日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

  • 監督・脚本・編集:是枝裕和
  • 撮影:ホン・ギョンポ(『パラサイト 半地下の家族』2019)
  • 美術:イ・モグォン(『神と共に』2017、2018)
  • 衣装:チェ・セヨン(『パラサイト 半地下の家族』2019)
  • 音楽:チョン・ジョンイル(「イカゲーム」2021)
  • 出演:ソン・ガンホ  カン・ドンウォン  ペ・ドゥナ イ・ジウン イ・ジュヨン
  • 配給:ギャガ

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取材・文/富田夏子