【男の子の育て方 対談連載vol.12】過熱する中学受験のママの意識 vs. ジェンダーレスを地で行く高校教諭の授業 編
男の子は自分と性別が違うからわからない……と感じているSTORYママに向けて、「男の子の教育で気をつけるべきことは何か」について、ともに2人の男児を育てている専門家が語り合います。
【男の子の育て方 対談連載vol.11】「息子に、避妊の仕方をどのように説明したらいいのでしょうか?」 編
エリート男子に育てたい? 男子ママの中学受験熱は以前よりヒートアップ!?
ライター東 実は私の息子が小6になったのですが、周りで受験する子どもたちは圧倒的に男子が多いのです。やはり男子ママたちは<いい学校に入れたい>と思っているのかなと……。
太田さん(以下敬称略)うちの息子は受験しませんでしたが、受験に熱心な男子ママたちの一部には気になる風潮があると中学受験経験者のママから聞きました。
ある名門の男子中学校に行かせた方から、「うちの子に変な虫がついてほしくない」「遊ぶ女性と結婚する女性は分けてほしい」という趣旨のことを言う、同級生のママの言葉にびっくりしたことがある、と聞いたことがあります。「将来、息子の相手はちゃんと息子を支えてくれる女の子じゃないと……」といった空気を醸し出しているママもいるそうです。一部かもしれなくても気になることで、やっぱりそういう方もまだいるのかな、と感じましたね。
“社会全体のジェンダー平等より、うちの息子の人生のほうが大事!”
みたいに思ってしまうこともあるのかもしれないですね。
ちなみに、受験校選びについても、大きな傾向ですが性別で差があるのではないかとも中学受験を経験した友人から聞きました。例えばですが、難関校を狙えるくらいの学力があっても、女子の場合は、通いやすさとか安全性を考慮して、受験校のランクを落とすこともあるとか。そういうことは男子と比べたら女子のほうが多そうですよね。
田中 僕自身は、特に勉強しろなどは言われませんでしたね。大学院に行く時も、両親は「大学院ってどんなところ?」と、全然把握していないぐらいでした。
今の話を聞き、これから親も考え方を変えていったほうがいいという気がします。
「良き学校、良き会社、良き家庭、良き人生」というものを未だに強固に信じている人がいるんですね……。
太田 そうなんです、まだいますよね。
田中 バブル崩壊後、<会社にしがみつく人生はもうダメだ>と言われてから30年ぐらいは経っていますが、高度成長期に植え付けられたそんな価値観を今もなお親が信じ込み、押し付けているという問題……。大きい会社は潰れないという神話は既に崩れているのに。
僕は最近、職場が大妻女子大多摩キャンパスに移り、それに伴って小田急線沿線に引っ越したのですが、近所にいい感じの小・中・高・大学があって。やっぱり家から歩いて行ける距離の学校っていいな、と思いました。
小学生が毎朝、満員電車に乗って通学するのは大変です。通学に時間をかけて、わざわざ遠い学校の難関校に行かなければならない理由が僕にはわからないです……。
人生は、大学を卒業した後の経歴のほうが長いですよね。それなのにどうして大学までの経歴にこだわるのだろうか、と思います。
先程の太田さんのお話に出てきたママたちは、息子さんがこれからの社会をどう生きるか、という視点が足りないんじゃないかと、そんな気がしてしまいました。
太田 私は、「いい大学まで行けたら、慣性の法則のようにその先は順調に進んで行ける」と刷り込まれて育ってきたと思います。
ですが、途中である時「慣性の法則みたいに進んできたけど、その先は全然違う」と気付いたわけです……。今では、考えが甘かったと(笑)。でもその考えは、社会には根強く残っていますね。
親は不安だからこそ、そう考えると安心できるのでしょう。今の時代は、いい大学や難関校だけではない選択肢があると知ってはいても、<でも、うちの子の場合は、難関校に進んでうまく行くかもしれない>という。
より安心な可能性があるかもと思うとそれにこだわってしまうということなのかも知れません。
田中 将来的には男性でも稼げなくなる時代が来る、という視点は持つべきではないでしょうか。既に周りを見渡してみても、稼いでいる男の人ばかりではないと思います。
太田 <うちの子は少数の勝ち組にならないと!>と、「親心」で必死になってしまったりもするのでしょうね。
しかし男が稼ぐ、男だから稼げる、という発想やこだわりは、どうにかしないといけないですよね。
田中 これからは2人で支え合っていく、というのが現実的なモデルです。
太田 年収300万円同士の夫婦で、年収600万円というように。
男子トップ校が実践で教える「男性育休」授業や「赤ちゃん先生」が素晴らしい!
太田 以前、対談させていただいた灘高校の片田孫朝日(かただそんあさひ)先生は、育休を取得されていたり、ご自分の赤ちゃんを抱いている姿を生徒に見せる授業もしているそうです。ジェンダーの話を男子中高生に意識的にするという取り組みは本当に素晴らしいですよね。
赤ちゃんとお母さんを呼んで子どもたちに講義をしてもらう「赤ちゃん先生」というプログラムもあったそうです。
1年や2年では芽が出ないかもしれませんが、5年、10年と先を見て、授業を受けた子どもたちが大人になって社会を変えていってほしい。
田中 朝日くんは、京都大学で「男性学」を学んでいるのですが、僕と1歳違いぐらいで昔からの知り合いなんです。
90年代に大学でジェンダー教育を受け、世に出てからそれを受け継いで、しっかりとジェンダーレス教育を繋いでいると思いました。やはり、あの時代に、そういう教育を受けていたことは非常に意味があったと、朝日くんの記事を読んだ時に実感しました。
灘高校は男子校なので、彼も男性のワークライフバランスを大変意識して授業をされていると思うのですが、その内容を知ったら、必死にお受験をさせたママたちは嫌になっちゃうかもしれませんね(笑)。
太田 どうなんでしょうね、いまどきは、ジェンダーの理解を深めるのも、社会に出て行く前の重要な勉強なんだと学校が示すことは、親御さんたちに対するメッセージ、ある意味「教育」にもなるのではないでしょうか。
他の学校もぜひ、今後もこのような授業をどんどん展開していってほしいと思います。
私は、男子校の何人かの先生から、「男子校はホモソーシャルの巣窟で危ない」という話を聞いたことがあります。ですので、片田先生のような授業の取り組みは、とても大切ですよね。
男性育休はなかなか少ないですよね、私が生徒の頃、育休を取得する男性の先生なんていませんでした。ましてや、赤ちゃんを抱きながら授業するなんて……。素敵です。
インパクトもあるし、とてもいいことだと思います。
田中 働く大人の男性にだって、実はさまざまなワークライフバランスがあって、人によってはケア労働もしている。その様子を生で見られるようになったということは、少しずつ時代がいい方向に進んでいるのかもしれません。
取材/東 理恵
太田啓子
弁護士。中2と小5男児の母。離婚問題や相続問題、セクハラ・パワハラ事件などに多く関わる。数々の経験を基にした、ジェンダーにまつわるSNS投稿が反響を呼ぶ。昨年出版した『これからの男の子たちへ』が話題に。
田中俊之
社会学者。大妻女子大学人間関係学部准教授。専門は男性学。『男子が10代のうちに考えておきたいこと』など著書多数。男性学の視点から男女とも生きやすい世の中を研究。私生活では6歳と2歳男児の父。
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