「気が合わなくなった女友達との付き合い方」作家・山内マリコさんに聞きました
小説を通してシスターフッドの持つパワーを教えてくれる作家・山内マリコさんの「女友達」。
心地よい距離感はその時々で変わる、でいいのかもしれない。
「あの人と、女友達の話」
作家・山内マリコさん
1980年生まれ。『ここは退屈迎えに来て』でデビュー。『アズミ・ハルコは行方不明』『あのこは貴族』『The Young Women’s Handbook~女の子、どう生きる?~』など著書多数。
人と気が合わないのが当たり前。気が合うってすごく尊いこと。奇跡なんです。
思い返すと、わたしはずいぶんイヤな子でした。小学生のころは妬みの感情が強くて、友達と自分を比べてばかり。わたしより勉強ができる、わたしより足が速い、わたしより絵が上手……いちいち羨ましかったし、羨ましさが高じて憎々しく思うこともしょっちゅうありました。小3~4年生は「ギャングエイジ」と呼ばれ、はじめて仲間意識を持って人づきあいする年齢なんだそう。たしかにわたしもちょうどそのくらいの歳から、女友達との関係がはじまりました。3人グループでいることが多く、パワーバランスが難しかった。気の強い子に引き抜かれて、気がついたら居心地の悪いグループに入っていたり、グループの誰かのちょっとした言葉や行動に、毎日ミリ単位で気持ちが揺らいだり、本当に綱渡りみたいな感じ。表面上は楽しそうに遊んでいるだけなんですけどね。
中学生になると、そこに異性が絡むようになります。男子と仲良くしていると女子から白い目で見られる空気があって、「男好き」とか「男たらし」といった陰口を叩かれたこともありました。その反発心もあって、女子より男子としゃべってる方が面白いと思ったり。自分は女子に嫌われるタイプなんだと、自覚しているというか、思い込んでいるというか。とにかく女子全般に苦手意識がありました。
そもそもこのころは、女友達とのつきあい方のベーシックなルールみたいなものが、まだわかってなかった気がします。高校時代、こんなことがありました。毎日一緒に帰る友達がいたのですが、わたしは自分に彼氏ができると、その子に「ごめんね」も言わず、当たり前のように彼氏と二人で帰るようになったのです。悪いことをしてしまったという気持ちも、実はあまりなくて。彼氏を優先するのは当たり前だと思ってたんですね。ほんの数ヵ月で彼氏とは別れて、何事もなかったようにまたその子と一緒に帰るようになったけど、向こうは内心、呆れていたかも。3年間ずっと親友ではあったけれど、彼女の目に映っていたわたしも、きっとかなり、イヤな子だったろうな。
それが大学に進んで1年ほどが経ったころ、本当の親友ができたんです。最初は趣味が合うってところから接近したけれど、話すうちに、なんだかものすごくしっくりくるところがあって。わたしたちは、好きなものも嫌いなものもよく似ていました。生まれてはじめて「人と気が合うってこういうことなんだ」と知ったし、自分の意見や好悪を「そうだそうだ」と肯定してくれる他者の存在は、自分をまるごと認めてもらえたような気がして、自信になりました。不完全なわたしたちは、二人でひとつ。どこへ行くにも一緒だし、それこそ一心同体みたいな、密な関係になっていきました。
わたしは彼女に、心の開き方を教わったんです。自分のいい面もイヤな面も、全部さらけ出すことができた。考えや気持ちを伝えあって、二人で毎晩遅くまで語りあいました。くだらないことや下品な打ち明け話も、なんでもしゃべり倒して。そうやって彼女と一緒に、自己を確立させていった。彼氏よりもはるかに大事な、女友達ができた。それはものすごく大きな、革命的なことでした。
それまでのわたしは、根っこにミソジニーがあったんだと思います。ミソジニーとは〝女嫌い〟のこと。同性の友達を、あんまり信用していなかった。友達からも同じように、信用されていないと思っていた。一人ぼっちになりたくなくて群れているだけで、友達のことを本気で好きじゃなかった。友達を大事にする方法も、わかってなかった。
だからずっと同性に対して、心のどこかでファイティングポーズをとる癖があったんです。けど、親友ができたことでそれがなくなり、女性に対してポジティブな仲間意識を持てるようになりました。男性より女性と楽しくコミュニケーションができた方がうれしいと思える。それはわたしを、根こそぎ変えてくれました。もう、昔みたいに他人を妬んでばかりの、イヤな子じゃなくなりました。
知らない間に恋愛至上主義的な価値観に染まっていた自分が、親友との出会いを経て、友情至上主義に変わりました。それって、なにより自分自身を健全にしてくれる信条なのです。恋愛だけを尺度にしていると、心の軸をどこに置いたらいいかわからない。だけど親友との関係をとおして積み上げた自分は、とても頑丈です。親友と出会う以前と以後で、わたしは別人のようになりました。やっと自分自身になれたという感じ。それまでは無意識のうちに、男性から見て魅力的な女の子になろうとしていたんだと思います。演技してたんですね。
もしあのとき親友と出会えていなかったら、きっと今も同性に対して、警戒心や猜疑心があったと思います。女同士の友情は、恋愛よりもずっと素晴らしいし、あなたを幸せにするんだよ。私は昔の自分みたいな女の子に、それを伝えたくて、小説を書いています。
『一心同体だった』/山内マリコさん
10~40歳の女同士の友情の濃密さ、繊細さ、その生き様を描き出した8編の連作短編集。それぞれの年代の女子の友情がロンド形式でつながっていく〝わたしたちの平成30年史〟。
イラスト/ヤマサキミノリ 取材/野田春香 再構成/Bravoworks.Inc