神奈川県茅ケ崎市内の雄三通りにある、鮮やかなターコイズブルーのドアが目をひく「Pukana La[=]MARKET(プカナライコールマーケット)」。店主の内山ゆかりさんは、多数の生徒がいるアロマストーンの人気講師です。自閉症の次男の将来を考えるうちに、障がいがあってもなくても様々な個性を理解し過ごせたらもっと良い社会になると感じ、福祉を広めるお店を立ち上げました。
コロナの影響でアロマストーン教室の物件探し
内山さんは、「Pukana La」(ハワイ語で日の出を意味する言葉)という屋号でアロマストーン作家・認定講師として活躍。天然の貝などを型取りした独自のモールド(型)を使った作品が特徴のアロマストーンは、テレビ番組に取り上げられたこともあるほど。Pukana La考案のビーチテイストアロマストーン講座では、全国にインストラクターがいます
そんな内山さんが自分のお店を始めたのは、2021年の3月。最初のきっかけは、コロナの影響で仕事のスタイルが変わったことでした。
「2年前から、コロナによって自宅で開いていた対面レッスンができなくなり、アロマストーンの教室兼販売もできるスペースを探し始めたのが最初です。茅ケ崎市内で人の通りもそれなりの場所に……と思って物件探しを始めましたが、迷っているうちに何度か先に契約されてしまったりと悔しい思いもしました」
今のスペースは、シャッターに『空き店舗』という貼り紙があるのを見て、その場で書いてある番号に電話したとか。「築73年と古かったので夫には心配されましたが、一緒に見に行ったら中はきれいで広さもちょうど良くて。夫も『ここならいいんじゃない?』と背中を押してくれて契約したのが2021年の1月です」
「事業所」の作品との出会い
オープン当初は、教室レッスンとアロマストーン販売がメイン。お店の広さに対して空きスペースが多く、もう少し内容を充実させたいな……と考えていた内山さんが訪れたのが、自閉症の息子さん(10歳)が将来働く場所になるかもしれない「事業所」でした。
「障がいを持っている子が成長して18歳になったら、事業所と呼ばれる就労支援の場に通うことが多いんです。そういった事業所では手づくりの作品をつくっていることも多く、私が訪れたところでは、廃棄される布を裂いて”裂き布”にし、そこからマットなどの作品をつくっていました」
そうしてつくった作品はバザーなどで販売していたそうなのですが、やはりコロナのためにイベントがなくなり、作品がたまっていく一方。「販路がなく、もし福祉ではない場所も含めて販売できれば、事業所を利用する方の工賃の足しにできると聞いたんです。それなら事業所の作品を集めて自分のお店に置けばいい!と思いつきました」
「私だからできること」の強みを発見
お店の内装や外装を整える作業と並行して、内山さんは市内の事業所を周り作品集めを始めました。いったん布から染めて、それをほどいて糸にしたシルク糸、陶芸作品、ベネチアングラス、アート作品……どれ一つとして同じものがない個性やセンスが詰まった素敵な作品をつくっても、売る場所がない、という事業所がたくさんありました。
「調べると、そういった事業所の作品を集めて販売するような場所って、茅ケ崎市内にはなかったんです。事業所の存在自体はもちろん、ハンディキャップがある人が昼間何をしているかを知らない人の方が多いですよね。店に来てくれた人が作品を手に取れば、さりげなくその背景を説明できる。そういう場をつくることが、『私だからできること』だと思ったんです」
また、パッケージや売り方、並べ方に工夫を加えればもっとおしゃれな作品になるはず、というのも、多数のハンドメイドイベントに出店してきた内山さんならではの視点でした。
障がい者も健常者も関係なく凸凹を組み合わせたい
「あかしあ」の裂き布でつくったマットはサイズにより¥550~¥3,300
「糸工房もくもく」の手染めシルク糸は布から染め上げ糸に加工。長さにより¥330~
「みらまーる」のベネチアングラスは、帯締めやネックレスにしたいと言って買う人も ¥220~770
「STUDIO UZU(スタジオ・ウズ)」の陶芸作品 ¥440~¥1,100
こうしてお店は無事にオープン。1周年を迎えた今年3月から、土曜日(開催は月1回不定期)に「凸凹(でこぼこ)マーケット」をスタートしました。そこではハンドメイド作品も、事業所の作品も区別なく並べて販売します。また、作品づくりをした事業所の利用者さんにも来てもらって、目の前で作品が売れる喜びを知ってほしいという狙いもありました。
「障がい者、健常者なんていう言葉がありますが、どっちが凸でも凹でもない、組み合わさるとピッタリはまってきれいな四角になるから、凸凹を組み合わせたらいい、そんな思いを込めてネーミングしました。実際に陶芸をしている事業所の利用者さんは、自分の作品を直接販売できたことで、その後制作意欲がわいてますます陶芸に打ち込むようになったと聞いて、すごくうれしかったです」
内山さんは自身でも、欠けてしまったアロマストーンを砕いて点字用紙に包んで芳香剤にするなど、オリジナルのアイデアで商品づくりをしています。廃棄されるはずのストーンや布やガラス、点字ペーパーなどの素材をアップサイクルした作品は、SDGsの理念が普及してきた時代にもマッチしています。
ハンディキャップのある人たちの活動や作品を周知するために発信し続けたい
今後は、ハンディキャップを持った人が一般の人と触れ合う機会を増やしたいという内山さん。土曜日だと事業所が休みのため参加できる人が少なく、平日にもマーケットを開催する予定です。また茅ケ崎市内だけでなく、藤沢や平塚などエリアを広げ、湘南の事業所の作品が集まる店にしたいと言います。
「開店から1年と少し過ぎましたが、正直、お客さんが全然来ない日は続けててもいいのかな、と弱気になるときもあります。そんな時は家族や、活動を理解してくれている人たちの顔を思い浮かべ、自分を奮い立たせています。これからも『私だから』できることを探して発信し続けていきたいです。少しずつ、ハンディキャップのある人たちの活動や作品を周知していきたい。そのためには積極的に遠方のイベントでも顔を出し、そこで利益が出なくても何かアイデアを得たりつながりができたり……何一つ無駄になることはない、という気持ちで多方面にアンテナを張っています」
SHOP INFORMATION
Pukana La[=]MARKET(プカナライコールマーケット)
- 神奈川県茅ケ崎市東海岸北1-7-27
- 12:00〜16:00
- 火曜、木曜、日曜休み
- その他営業日の変更はInstagramでお知らせ @alani_pukana_la
※記事の中で表示している価格はすべて税込みです。
撮影/山下忠之 取材・文/富田夏子