【性教育ワーク連載vol11】:性加害・性被害を防ぐために意識する「境界線」ってなに?(前半)
親子の15分性教育ワーク。今回と次回は、安心して暮らすことや、性加害・性被害についてがテーマです。今回は、人との「境界線(バウンダリー)」について。
「境界線(バウンダリー)」と言われてもピンとこない方が多いと思いますが、実は日常生活に深くかかわっています。
「境界線」は簡単に言えば、自分にとって「OK」なことと、「NG」なことを分ける時の線引きです。英語の「バウンダリー」という言葉が使われることもあります。
たとえば、こんな風に、自分の「境界線」は自分で決めることができます。
・親だったら手をつないで「OK」だけど、見知らぬ人なら「NG」。
・友達に自分の手はさわられても「OK」だけど、頭は「NG」。
・自分の秘密はパートナーには話すのは「OK」だけど、他の人には「NG」。
そして、他の人の「境界線」を越える時には「○○してもいい?」と質問して、同意を取る必要があります。
・親が子どもに「ハグしていい?」と聞く
・恋人に「キスしていい?」と聞く
・友達に「手をつないでいい?」と聞く
仲が良いと「境界線」はあいまいになりがちですが、親子でも、恋人でも、友達でも、人と人との間には「境界線」があって、同意なく勝手にそれを乗り越えることはできません。もし自分の「境界線」を越えられたくないな、NGだなと感じたら、どんな時でも「イヤ!」と断ることができます。
・友達から「そのマンガかしてよ」と聞かれて、「今読んでいるから、後でね」と答える。
・パートナーから「手をつなごうよ」と誘われて、「今日は暑いから、手をつなぐのはいやだな」と断る。
こんな風にイヤな時には「イヤ」と安心して言える関係性のことを「対等な関係」といいます。「イヤ」と言った後に、相手が不機嫌になったり、怒鳴ったりしてきて、「イヤ」と言えなくなるとしたら、あるいは、そうなることが予想できて「イヤ」と言えないのであれば、それは「対等な関係」ではありません。大人とこども、先生と生徒、コーチと選手、上司と部下、健常者と障害者など、力の差が出る関係性はたくさんあります。「対等な関係」ではない時、「境界線」を無理矢理乗り越え、DVや性暴力が起こりやすいと言われています。
・恋人から「自分以外の人間と会わないでくれる?」「スマホから自分以外の連絡先を消してもらえる?」と言われた。恋人は思い通りにいかないとすぐに怒鳴るため、それが怖いので仕方なく「いいよ」と受け入れた。その結果、交友関係がゼロになり孤立してしまった。
・コーチから密室に呼び出され、「指導」という名目で必要以上にカラダをさわられた。本当はイヤだったが、「コーチの要求を拒否すると試合に出られなくなるかも」と思い拒否できなかった。
このように「対等な関係」ではない時、相手からの要求を断るのが難しくなります。しかも加害した人が100%悪いのに、「イヤと言えなかった自分が悪い」と被害を受けた人が自分自身を責めてしまうこともあります。
「境界線」はひとりひとりがもっているもので、自分で決められる。「境界線」を越える時には同意が必要で、イヤな時には「イヤ」と言える。もし誰かが無理矢理「境界線」を越えてきて、その時に「イヤ」と言えなくても自分は悪く無い。困ったら誰かに相談できる。
今回のワークが、親子で「境界線」について意識するきっかけづくりになると嬉しいです。
それではワークを始めましょう!
今回の15分ワークのお題
①「イヤ!」と言って大丈夫
②恋人だってダメなものはダメ!
③家庭の中でも境界線を意識しよう!
①「イヤ!」と言って大丈夫
次のシナリオを子どもと一緒に読んで、考えてみてください。
小学生のA君はおばあちゃん、おじいちゃんと仲良しです。先日、家に遊びに行きました。おばあちゃんもおじいちゃんもA君のことを「かわいい」と言いながら頭をなでたり、ほっぺたをさわってきたりしますが、A君はそうされるのが好きではありません。
シナリオを読み終わったらまずは、「おばあちゃん、おじいちゃんは勝手にA君の頭とかほっぺたをさわっていたけれど、これってどう思う?」と聞いてみましょう。
「ちゃんと『してもいい?』って聞かないとダメだよね」と同意を取ってないことを指摘する子もいれば、「頭ぐらいは聞かないでもいいかも」と答える子もいると思います。子どもから意見が出てきたら、イラストを一緒に見ながら「境界線」について説明します。
「人と人の間にはイラストみたいな『境界線』っていう目に見えない線があって、そこを越える時には『○○してもいい?』って聞かないといけないんだって。仲良しな相手でも、誰かのからだに触る時には『○○してもいい?』『さわってもいい?』って聞かないといけないよね」と伝えてみてください。
次は、A君はどうしたらいいかな?」と子どもに聞いてください。
子どもから「やめて!って言えばいいかな」「がまんしちゃうかなー」など意見が出るかもしれません。
「自分のカラダのことは自分で決められるよ。だからイヤな時にはイヤと言って大丈夫。でも、もし言えなかったとしても『自分は言えなくてダメだ』とは思わなくていいよ。困ったら○○(ここは、親、年上のきょうだい、親戚、近所の大人、学校の先生、習い事の先生など、子どもにとって身近で信頼できる大人が入ります)に相談するといいよ」と話してみてください。
②恋人だってダメなものはダメ!
今度は、別のシナリオを子どもと一緒に読んで、考えてみてください。
BさんとCさんは恋人です。ある日、Bさんが「キスしてもいい?」とさそってきました。でもCさんはそんな気分ではありません。
シナリオを読み終わったら、「Cさんはどうしたらいいかな?」と子どもに聞いてみましょう。
実は、このシナリオは私たちが小学校の授業の際に実際に使っているもの。授業の際、子ども達からは「そんなことより遊ぼうよ」「まだ早いよ」「今日はハグだけ」など色々な意見が出てきました。ばっさりと「イヤ!」と拒否したり、相手の気持ちに寄り添った言葉をかけつつ断ったり、親子でアイディアを出し合うと楽しいと思います。お互いにアイディアが出せたら次へ進みます。
「付き合ったら手をつなぐとか、キスとかして当然ということはなくって、恋人であっても、やりたくないことは『イヤ!』って断って大丈夫だよ」と話してみてください。
「イヤな時に『イヤ』と言える関係を、『対等な関係』と言うよ。もし、『イヤ』と言って、相手が不機嫌になったり、怒ってきたりしたら、それは『対等な関係』ではないから、その相手からは離れた方がいいかもしれないね」と、伝えてみましょう。
その次は「ところで、Bは勝手にキスをせず、きちんと『キスしてもいい?』と聞いているね。これはどう思う?」と聞いてみてください。
「ちゃんと質問してる」など、Bが同意を取っていることを一緒に確認出来たらおしまいです。
マンガやテレビなどでは、「付き合っていたらキスして当然」のように描かれがちだし、いわゆる「壁ドン」は同意を取っていません。それは現実世界ではしてはならないこと。どんな関係性でもイヤなことは断れることを伝えられるといいですね。
③家庭の中でも境界線を意識しよう!
どんな人にも「境界線」があるように、親子間にも当然「境界線」はあります。
しかし、一緒に暮らしていると「境界線」はあいまいになりがち。これから大人へ向かっていく思春期には「境界線」を再確認する良い時期です。せひ、親子の間の「境界線」を見直してみてください!
・カラダに触る前にはひとこえかける
カラダを触る前には「○○してもいい?」と同意を取りましょう。この時、「イヤ!」と言われたらやらないし、「本当は○○もいいでしょ?」と聞きなおすのもナシです。同意を取らずに頭をなでる、肩に手を回すなど、クセになっているものもあるから気を付けて下さい。子どもが同意なくさわってきた場合にも「していいか聞いてね」「同意を取ってね」と伝えてみてください。
・すべてを知ろうとしない
学校の様子を必要以上に根掘り葉掘り聞いたり、「恋人ができない」と心配して色々と詮索をしたりする行為も、「境界線」を越えるもの。困り事があったら相談に乗ることを伝え、子どもが話したがっている時は、いつでも徹底的に聞く、というふうに、「境界線」を意識しつつ、見守るスタンスがいいと思います。
・価値観をおしつけない
「○○を勉強しておかないと将来立派な大人になれない」「こんなものやっても意味が無い」「孫の顔をみるのが楽しみだなー」など、親の価値観を押し付けるのも「境界線」を越えた行為です。
・デジタル機器にも境界線
子どものスマホやタブレットを勝手に見るのも境界線を越えた行為です。心配のあまりのぞき見したくなる気持ちも分かりますが、親が子どもの全てを知る権利はなく、「境界線」を越える行為は関係性を悪くします。スマホを盗み見るのではなくて、前に連載で紹介したような(※春休み前に知っておきたいスマホ&ネットの落とし穴とは?のリンクを挿入)、親子で一緒にネットやSNSの使い方のルールを考えるのがいいと思います。
お疲れさまでした!
次回は、性暴力についてです。知っておくことで加害することを防ぎ、被害にあった時に早く相談したり、支援につながったりすることができます。
〈次回へつづく〉
イラスト/ばばめぐみ ※イラストは12月28日発売の書籍「10歳からのカラダ・性・ココロのいろいろブック 変わるカラダのいろいろ編」(ほるぷ出版)から抜粋
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アクロストン
妻・夫であり、12歳、10歳の子を育てる親でもある、医師2人による性教育コンテンツ制作ユニット。
公立小の保健の授業や楽しく性について学べるワークショップを日本各地で開催。
家庭ではじめられる性教育のヒントや性に関する社会問題についてなどを発信している。
著書:「10歳からのカラダ・性・ココロのいろいろブック 変わるカラダのいろいろ編」 (ほるぷ出版)、「3~9歳ではじめるアクロストン式 『赤ちゃんってどうやってできるの?』」、「いま、子どもに伝えたい性のQ&A 、思春期の性と恋愛 子どもたちの頭の中がこんなことになってるなんて!」(ともに主婦の友社)
監修:シールでぺたぺた「おうちせいきょういくえほん」(主婦の友社)