【男の子の育て方 対談連載vol.10】競争社会が生み出したセックスの相手の数を誇りたがる男子たち 編
男の子は自分と性別が違うからわからない……と感じているSTORYママに向けて、「男の子の教育で気をつけるべきことは何か」について、ともに2人の男児を育てている専門家が語り合います。
【男の子の育て方 対談連載vol.1】「うちの子が競争社会で勝ち抜けなかったらどうするの?」が問題です
‘80~’90年代、マニュアルから始まった恋愛の問題点
田中さん(以下敬称略)セックスは、かつては結婚してからするものでした。結婚するまで、してはいけなかった。それが、今は全く変わってしまいました。
太田 恋愛の自由ですね。
田中 そうです。恋愛していればセックスをしてもいい、ということになったのですが、そもそも日本人は恋愛を知らない。根本的な方向性の間違いがありました。
信頼関係をパートナーと築いていくことで、安心感を得るのが恋愛においては大変です。
性的同意についてもそう。男性が「セックスしたい」と言い、女性に「嫌だよ」と言われても、信頼関係があれば「そうか、そんな気分か」と納得することができます。
しかし、恋愛において信頼関係が築かれていないと、断られた男性が傷ついたり、女性も断ったら相手を傷つけてしまうと思ったり、そういう低いレベルの問題が生じてしまいます。
‘80年代頃から若者が自由に恋愛するようになったと言うけれども、信頼関係を積み上げていくようなものではありませんでした。僕ら’90年代の時はデートマニュアルなどの雑誌が売れていた時代でしたが、スノボ行って、ナンパして……、デートして、クリスマスになったらディナー食べて、ホテルに泊まって……、といったマニュアルばかりでした。
太田 ティファニーのペンダントを用意したりしてね(笑)。時代を感じますね。
田中 そうです。ちゃんとした恋愛をしたことがないものだから、マニュアルが提供するパターンにのっとっていただけです。
そんな時代を経て、ようやく今、われわれ日本人が恋愛するときの長年の課題だった「性的同意」や「男女の関係性をいかに作るか」などの話が出てきました。
僕自身も、若い頃にはそういう概念がなかったので、恋愛しても上手くいかなかったですね。ケンカしたらすぐに別れてしまうし、信頼関係を積み上げるような感覚で恋愛をしていなかった。
太田 そうですよね。対等な関係を構築するということも含めて、大切なのはおそらく性教育です。私もそれは意識的に教わってきたかったと切実に思います。
〈どういうことが対等な関係性なのか〉ということ、いろんなジェンダーバイアスが自分の中にある中で、〈彼氏と対等でありたい〉とずっと意識してきましたが、なぜか全然対等じゃない関係ばかりで……。
「対等でありたい」と思っているのに、どうしてこんなに対等にいかないんだろう。
私自身、それが今までの個人的な総括です。
世の中全体で〈対等な関係とはなにか?〉ということが、まだカオスな状態であると思うんですよね。
競争社会の弊害⁉ 努力したことへの見返りがセックスだった……
太田 世の中には〈男の子はベッドの中でもリードしなきゃ〉とか〈女の子は、そんな男の子のプライドを傷つけないように上手く振る舞う〉といった刷り込みがまだまだあります。それらはひとつずつ解体していきたいですよね。
仕事で見聞きするものやSNS上で見かけるものから感じることですが、男性の一部には、絶対に断られないような状況に追い込まないと安心して女性を口説けないという発想の人がいます。これは、断られて傷つくことを過剰に怖れているのかなと。
断られることは辛いかも知れませんが、過剰にネガティブに捉えているように感じ、違和感を覚えることがあります。
田中 “差し出したものに対して、見返りが得られない”のが許せないのでしょうね。〈ここまでしてあげたのに〉という。
たとえば、就職がうまくいかない時「オレは高校時代から頑張って勉強して、いい大学に入ったのに、どうして企業は報いてくれないんだ」のような……。
努力に対してリターンがないと納得できないというのは、子どもの頃から競争させすぎたことの弊害じゃないでしょうか?
「競争して勝つことで、いろんなものが手に入るんだよ」という刷り込み。
恋愛も“自分が努力して成し遂げて、そのリターンが得られる”もの。
リターンの象徴的なものが“セックスさせてもらえる”ということなのでしょうね。
太田 モテ自慢の男の人は、ゲットした女の人の数をポケモンのゲット数のようにとらえているところがあると思います。〈関係性をいかに構築するか〉ではなく、〈女の人をいかに攻略してセックスに持ち込むか〉となっています。
田中 小島慶子さんが前に言っていたのですが、「若い頃に『オレは100人の女とヤるんだ』と意気込んでいた男が、性的に枯れて老人になると登山にハマり、日本100名山を制覇すると言い出す」と。
それだと女性はモノと同じですよね。
太田 100人と1回ずつするより、1人と100回セックスするほうが関係性は深まるのに。1人だけに絞らなくては、という意味ではないですが、そういう「攻略」みたいな価値観は若い世代には薄れていると信じたいです。
田中 1人と100回すると、その中で見えてくるもの、積みあがっていくものがあるはずです。シンプルでわかりやすいたとえだと思います。
太田 人数に価値を置くのではなく、お互いを深め合う。以前、田中さんがおっしゃっていた学生のお話。ゲットした女性の数ではなく、ひとりの女性との質の高い恋愛に価値を見出していました。そんな若者がいるのは心強いですね。
田中 はい。きっと彼らは自分たちの関係性に自信があるのです。〈いい関係を築いている〉という自信。
1人と長くつき合っていく中で、信頼できるものが積み重なっていく。“顔が好き”とか“ファッションが好き”ということでなく、“この人が好き”。そういうレベルに達しているんですね。
太田 素晴らしいわ! 理想ですね、自分も高められ、相手も高められます。
田中 ですが、それを理想だと思う人はどれほどいるのか……。
僕が大学生に聞き取りをした中では、「1人と100回やって、別れたら損じゃん」という意見もあります。
「どうせ別れちゃうんだったら、100人と1回ずつやったほうが得じゃん!」といった謎の発想も。
仮に、長く付き合った彼女と別れたとしても、そこには“いい関係を築いたことがある”、あるいは“いい関係を築いても別れてしまうことがある”といった具合に、いろいろな学びがあるはずです。大切なのは、その経験を通して信頼関係の「質」について考えることだと思います。
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取材/東 理恵
太田啓子
弁護士。中2と小5男児の母。離婚問題や相続問題、セクハラ・パワハラ事件などに多く関わる。数々の経験を基にした、ジェンダーにまつわるSNS投稿が反響を呼ぶ。昨年出版した『これからの男の子たちへ』が話題に。
田中俊之
社会学者。大正大学心理社会学部人間科学科准教授。専門は男性学。『男子が10代のうちに考えておきたいこと』など著書多数。男性学の視点から男女とも生きやすい世の中を研究。私生活では6歳と2歳男児の父。