前頭葉の発達ピークは10代!脳科学的に子どもの「ならいごと」を検証

発達のピークは部分で違う! 「幼児期の脳」基礎知識〔細田千尋先生インタビュー 第1回〕

医学博士・認知科学者・脳科学者:細田 千尋

ピアノや水泳、体操に幼児教室など。多くのならいごとがあるなかで「うちの子に合っているならいごとは一体どれ?」「いつからなにを始めたらいいの?」と悩んでしまいますよね。

そこで、脳科学の分野で教育や学習法についての研究を行う細田千尋先生に、科学的な視点からならいごとについて解説していただきました。

第1回は、乳幼児期の脳の発達とならいごとの関係についてのお話です。

医学博士・認知科学者・脳科学者の細田千尋先生。  撮影:森﨑一寿美

子どもの脳は後頭葉から前頭葉へと徐々に発達してくる

私自身、3人の小さな子を持つ母親です。毎日、仕事と育児に大忙しの日々を送っています。

昨今の教育事情も知ってはいますが、“科学的に見るとおかしな話”が世の中にはたくさん流布していると感じています。

例えば、“育脳”。幼い頃から右脳を鍛えてクリエイティブにしなければならない、という話を聞いたことがある方もいらっしゃると思いますが、右脳を育てるというのは科学的に言えばあり得ません。

そしてクリエイティビティを高めるならいごとの確立したエビデンスベースがあるかと言えば、恐らくありません。というのも、脳は発達の黄金期のような時期が場所によって違うんです。

まず、生まれてすぐから発達するのが、物を見ることを司っている『後頭葉』です。そして音を聞く能力に関わる『側頭葉』が発達し、周りからかけられる様々な言葉を理解し始めます。

最後に、脳の前の方にある『前頭葉』が発達していきます。ここは人とのコミュニケーション能力や、社会性、理性などを司るところ。このように、脳は基本的に後ろから前へと発達していくため、『前頭葉』の発達ピークが一番ゆっくり、というわけなのです。

ちなみに年齢で言うと、『後頭葉』が0歳~4歳くらいに発達のピークを迎え、体の感覚を認識したり、いろいろな複雑な動作などをする『頭頂葉』のあたりは3歳~5歳くらいにかけてピークがくると言われています。

多くのお父さん、お母さんは、知的な能力の高い子どもを育てたい、という希望があると思いますが、それに関連する場所である『前頭葉』は、10代から思春期まで発達し続けるのです。

脳の発達のピークは、0~4歳ごろ後頭葉から始まり、3~5歳ごろに頭頂葉、10代ごろに前頭葉へ及ぶ。脳は後ろから前へと発達していくのが特徴。  資料提供:細田千尋

一般的に「体操やピアノなどの運動学習は早期にやらせた方がいい」と言ったりしますが、これは、運動を担う運動野を含む『頭頂葉』が3歳~5歳くらいに発達のピークとなることが根拠と考えられます。

確かに、この時期にピアノや体操などを正しく教わると技術的な習得のしやすさはもちろんあると思います。ただ、知能の発達に結びつくという科学的エビデンスは今のところありません。


前頭葉の発達ピークまで学習を継続させることが重要

早期にならいごとを始めるべきか、については次回(第2回)で解説いたしますが、子どもの脳の発達という観点からすると、“ゴールをどこへ設定するか”も同じくらい大切です。

先ほども言ったように、『前頭葉』の発達ピークは10代になってから。ならいごとをさせる目的が、“能力の高い子になって欲しい”、“将来何かの分野で成功して欲しい”というものだとすれば、幼児期にやり始めたならいごとを『前頭葉』の発達ピークである、13歳~14歳、場合によっては10代後半まできちんと継続させるということが重要になってきます。

例えば、幼稚園受験や小学校受験をゴールに設定しているお子さんは、この時期にペーパーテストなどを多量に解くことや、多種類のお稽古などをしますが、合格後もそれらを同じくらい継続しているというご家庭は多くはないはずです。

知能に関わる『前頭葉』の発達は10代がピークなのに、受験が終わった6~7歳で辞めてしまうと早期に学習を始めた意味が減ってしまうのです。

アートでも運動でも、どんな内容のお稽古やならいごとでもいいので、本人がきちんとやり切れることを、自律的に長く継続する、ということが、脳科学的に見るならいごとの正しい姿と言えます。

幼児期は「認知機能」と「非認知機能」両方が伸びる時期!

また最近は、幼児教育のテーマとして「小さなころから非認知能力を伸ばしましょう」というのもよく耳にします。

しかし、非認知能力と一般的に部類されているやり抜く力は、10代、早くても6~7歳から、長い時間をかけて伸びていきます。

逆に幼児期は認知機能も大きく伸びる時期。生涯のIQは7歳くらいまでに決まるという話もあるくらいです。

一方で、非認知能力は年月で変化することがわかっています。

なぜなら、非認知能力を伸ばそうとすれば、認知能力が必要になってくるのですが、非認知能力は、思春期や成人を過ぎても伸ばせる能力なので、幼児期から長い期間お稽古を継続しなければならない。

そして脳はやらなくなったことはすぐに忘れてしまいがちなので、脳が忘れないように続けなくてはいけません。

先ほども出ましたが、ならいごとは継続することが一番大切。それが認知能力と非認知能力の両方を一番伸ばすことにつながるからです。
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第2回では、早期にならいごとを始めるべき? ならいごとのはじめる時期について解説していただきます。

取材・文/山田祥子

監修/細田 千尋(ほそだ ちひろ)
東北大学大学院 情報科学研究科准教授。内閣府 moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業T創発的研究支援)によって、日本全国の大学や研究機関などから選ばれた252名の研究代表者のうちの1人。
細田千尋研究室HP https://researchmap.jp/chihiro

本記事は【Mart×コクリコ パパママ応援プロジェクト】の一環としてコクリコの記事を転載したものです。

コクリコ2021年6月10日公開より