第37回 よ~く考えよう、お金が大事だよ~
ご承知のように、今年もコロナ禍の影響を大きく受けた入試でしたが、大方の予想通り、首都圏の受験者数は過去2番目の高水準。小学校卒業生に占める受験率も20%を超えたと言われています。
これは「すそ野の拡大」と呼ばれておりまして、コロナ禍でなければ参入しなかったであろう層が受験したからというのが定説です。
その理由として、オンライン授業や1人1台端末の有名無実化といった公立学校の立ち遅れが盛んに報道されたことによるリスク管理が働いたということが挙げられています。
こうなると「我が家も中学受験をした方がいいのでは?」というソワソワする空気に包まれやすくなるようで、筆者に寄せられるご相談には「中学受験をするべきか否かで迷っている」という低学年(含む未就学児)ママからの声も少なくありません。
そうなんですよね。中学受験はどうしてもやらなければならない受験ではないので、やった方がいいのか、どうすれば後悔しない選択になるのかと揺れるのも無理ないと思います。
筆者は、中学受験プレママには、まずは「お金」のことを検証するようにお勧めしています。国家予算にしろ、会社経営にしろ、家計にしろ、ご予算が一番の要。ここを把握しないことには前に進めないんですよ。ということで、まずは「イロハ」の「イ」から検証しましょう。
イ 子どもの最終学歴に何を望むか
大前提に「子どもが望めば」が付きますが、親として子どもの最終学歴をどうするのかということを想定しておくことは大切です。
我が家は「大学院まで」「大学まで」「短大を含む専門学校まで」「高校まで」、あるいは「海外の学校」という教育方針を何となくでもよいので、夫婦で話し合っておくことが意外と大切になります。これによって、親がやるべきサポートが変わってくることがあるからです。
やはり子育ては家庭の教育方針が影響するものなので「我が家はこの子の幸せのためにこうしよう」という夢と希望と覚悟を持つための夫婦の話し合いは必須です。
中学受験に突き進もうとする親御さんの中には「大学の学費は“奨学金”」という前提で動かれる方もおられるのですが、貸与型の奨学金は“借金”になりますので、予算は逆から心積もりをしておいたほうが良さそうです。つまり、大学費用の方を先に想定して動いていくということになります。
もちろん、未来は誰にも分かりませんが、大まかでも良いので長期計画を立てて、その都度、現実に合ったプランを見直していくということは“我が子の教育”という面でも必要なことなのです。
「大学の費用は何とかなりそう」という目途がついたとしましょう。中学受験に踏み出す前に、更に次のステップに進みましょう。
ロ「お金じゃないけど、お金よね」
中学受験は実際、金食い虫なんですよ。かけようと思えば、いくらでもかかけられる天井知らずです。多くの人が費やす3年間の塾費用は総額250万円前後。それだけでは当然、済まずに受験料(1校あたり2万5千円前後)、入学金、施設費、制服代やら何やらがきて、中1初年度は100万円超(もっと高い学校、低い学校いろいろあります)。その後も海外研修だの何だのがありまして、平たくならすと、やっぱり年間100万円。なんやかんやで、6年一貫校、600万円程度は必要になるでしょう(大学附属校はもう少し高いことが多いです)。
恐ろしいことに、中高一貫校、塾に行く子も多いです。恐らく、高校になると塾・予備校に行く比率は跳ね上がると思われます。
現在、文系私立大学の受験料は1学部3万5千円。総額35万円平均と言われておりまして、受けるだけでも親は青色吐息。浪人でもされたら、目も当てられません。
更に私立大学費用は文系で年間100~120万円、理系で130万~150万円ほどはかかると思われます(医・歯系学部はこの比ではないので、ここではスルー)。
ザッと計算いたしますと、中学受験→私立中高一貫校→私立大学コースならば軽く1千万越え(1300万円~1500万円平均)です。
もちろん、一貫校も色々で、公立中高一貫校に進学し、更に国公立大学に行く、或いは特待生として通うなどという「親孝行ルート」もありますが、中学受験の比率としては「私立」が多いので、予算見積もりには幅を持たせておかねばなりません。
簡単に言い切ってしまうならば、小学4年生から中学受験をスタートし、私立中高一貫校から私立大学に入るとしたら、毎年100万円超。これが絶妙な数字で、ママ(パパ)が頑張って週3回~4回のパートに出たとしたら、稼げる金額。
「あら?私の稼ぎで行かせられるわ!」というお値段設定なのですね。
この金額が毎年、コンスタントに出せるという見積もりができ、更に子どもにきょうだいがいる場合は、その子の分もプールできるという心積もりがあって、ようやくスタートできるという話なんです。
中学受験に駒を進めても、お金の工面には問題なさそうという判断が出たら、次は「どうして中学受験か?」を考え抜いてください。その方法はこちらになります。
ハ 地元か、地元外か、それが問題だ
中学受験にも高校受験にも、良い悪いは必ずあります。
お商売をやっておられるご家庭では、お子さんが事業を継ぐなどの可能性も考えて、地元の人脈を強固にする選択をされる場合もあるでしょう。その選択はご家庭ごとに違って当然です。
まずは学区中学の様子をリサーチしてみること。今現在、そこでは、どのような教育がなされているのかということを具体的に見ていかねば判断できません。
例えば、内申とはどういうものなのか、高校受験への塾の活用法、進学実績、高校受験のしくみ、安心安全な学習環境かなどを総合的に見ていく必要があります。
公立中学はオープンスクールや各種行事で地元の人に学校を公開していることが多いので、チャンスがあれば積極的に見学に行ってみてください。もちろん、学区内ということで、日常的にそこの生徒さんの登下校風景に触れる機会は多いでしょう。
公立、私立問わず、生の生徒さんの様子は未来の我が子を想像できる貴重な情報になります。
メディアでは「私学優位」を語られることが多いですが、私立もいろいろ、公立もいろいろ。とても良い環境で、頑張っている公立中学も沢山あります。
「噂」や「風潮」を鵜呑みにすることなく、ご自分の目で確認してみてくださいね。
その上で、中学受験というお金と時間と手間がかかるものを比較し、親は我が子の未来が拓けていく方向で考えていくことが大切です。
お子さんが低年齢の場合、ご夫婦で膝を突き合わせての「我が家の教育方針会議」などはしにくいものではありますが、テレビや雑誌などで「中学受験」という情報を目にした時に雑談程度に「どう思う?」と互いの価値観を話してみるということが、そのきっかけになったりするものです。それは、大切な人生観にもなりますので、思いがけず、深い話になり、新鮮な驚きを感じるかもしれません。
いずれにせよ、中学受験は一度踏み出すと「沼」化して、抜け出すことは容易ではありません。それゆえ、踏み出す前に、最低でもイロハのことをご夫婦でよく話し合ってから参入してくださいね。
鳥居りんこ・・・作家、教育・介護ジャーナリスト
2003年、長男との中学受験体験を赤裸々に綴った初の著書「偏差値30からの中学受験合格記」(学研)がベストセラーとなり注目を集める。
その後シリーズ化され、悩める保護者から“中学受験のバイブル”と評され、中学受験を辛かった思い出ではなく、子どもとの絆を感じられ、子育てが楽しくなる内容に、心救われ涙する保護者が続出しました。
ブログ:湘南オバちゃんクラブ https://note.com/torinko
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構成/加藤景子 イラスト/村澤綾香