第36回 中学受験に参入する前に、やっておいて欲しいこと
今年度の中学受験も終了。ということはです!これは、早くも新年度が始まっているということを指します。中学受験界のカレンダーは2月始まりなんです。
ここ最近では受験準備のスタートが早まっておりまして、中学受験熱が高い地域ですと、小学校入学前からの入塾が検討されることも珍しい話ではありません。これは、新4年生、つまり小学3年生の2月の時点では定員オーバーで入りたくとも入れないという事態発生の可能性があるからなのですね。
親御さんの中には、周りに煽られるような形で、塾の切符を“とりあえず確保”とばかりに躍起になってしまう方もいらっしゃいます。
しかし、中学受験は「幸せな未来の約束手形」ではありません。もちろん、そうではないことは皆さん、ご存知なんですが、友人知人から「近所のS塾は1年生では募集停止なんですって!だから、ウチは幼稚園から入れるつもり。お宅はどうするの?」なんてことを聞かされると、心穏やかではいられなくなるというもの。
まあ、これは、例えるならば、2年前に各所で起こった「トイレットペーパーを見かけたら、とりあえず買い!」という心理に近いかもしれません。
もし、今現在、何かよく分からないけれども、入塾について、焦りにも似た感情になっている方がおられましたら、まずは、ちょっと冷静になりましょう。
お子さんの誕生から学齢期前あたりまでは「明るく元気」ということが基本となった子育てだったと思いますが、入塾を決める前に、我が家の教育方針を夫婦でより具体的に話し合っておくことが必要です。
何故なら、中学受験は一度、参入したら最後、途中で抜けることが非常に難しいものだからです。中学受験業界では、このことを「負けがこんだ博打」と評することもあります。
つまり、多額のお金が絡み、偏差値という名の数字上の序列があり、膨大な時間と労力が必要となる世界。しかも、そこは雲上人と言われる天才・秀才の児童たちを除き、迷路になりやすい場所です。
気付くと、親子で「降りたくとも、降り方すらわからない」という状態に陥ることも全くないとは言えない話なんですね。
入塾が早ければ早いほど、受験を意識する期間は長くなりますので、当然ながら、山あり谷あり。人によっては獣道を這っているような気持ちになることもあるでしょう。
その中で夫婦の意見が割れていると、子ども自身がどちらの言うことを信じればいいのかで混乱してしまいます。
沢山の人たちの「中学受験物語」を聞かせてもらっておりますが、両親の教育方針が対立しているご家庭のお子さんはとても辛い立場に置かれることだけは確かです。
例えば、毎年、似たような話はあるのですが、今年あったご相談でお伝えしますと「母親は公立中学の内申制度に疑問を持ち、私立中高一貫校推し。父親は中学受験に猛反対で、終始、非協力的。結局、父親の望む偏差値以上の学校しか受験させてもらえず、いわゆる“特攻受験”となったため、結果、2校とも不合格。息子は意気消沈し、公立中学にも行かないと言っているが、どうしたらいいだろうか?」というものでした。
こちらも、よくよく話を聞きますと、入塾前に、両親の話し合いがなされていたとは言い難く、ドンドンとボタンが掛け違っていったケースです。
中学受験はどうしてもしなければならない受験ではありません。お国が公の教育を用意してくれている中、それを超えて親子の自由意思でわざわざ行うものなので、逆に言えば、生半可な気持ちで参入してはいけないものなのです。
まずは、我が家の経済事情、最終学歴への考え、教育への価値観、そして幸せな人生とは?などといった深いテーマを夫婦が本音で話し合わなければなりません。
その上でお子さんの長所がより輝くためにできる「親のサポート」は何かということについて、夫婦の意見のすり合わせをすることをお勧めします。
小学生の親御さんにとっては、我が子の未来予想図を立てるのは難しいミッションだとは思われます。世の中のスピードが速すぎて、親の経験値を上回ってしまうことが主な理由になりますが、お子さんが18歳成人を迎えて、社会に巣立って行くまでの間、どうしても付けておかなければならない力は何だろう?ということを柱に、子育てがより楽しくなるような話を沢山していただきたいなと願っております。
中学受験を経験することは子どもだけではなく、親自身の成長に繋がる面も沢山あるのですが、物事は常に表裏一体です。中学受験も、決して良い面だけではありません。それもこれも全て踏まえた上で「我が家はこれでやっていこう」という、しっかりとした方針が立てられるならば、お子さんは安心安全の環境の中で、これまで通り、スクスクと育っていかれることでしょう。
鳥居りんこ・・・作家、教育・介護ジャーナリスト
2003年、長男との中学受験体験を赤裸々に綴った初の著書「偏差値30からの中学受験合格記」(学研)がベストセラーとなり注目を集める。
その後シリーズ化され、悩める保護者から“中学受験のバイブル”と評され、中学受験を辛かった思い出ではなく、子どもとの絆を感じられ、子育てが楽しくなる内容に、心救われ涙する保護者が続出しました。
ブログ:湘南オバちゃんクラブ https://note.com/torinko
Facebook: 鳥居りんこ: https://www.facebook.com/rinko.torii
構成/加藤景子 イラスト/村澤綾香