【申真衣さん×高崎卓馬さん】あなたの育児『あらすじ病』になっていませんか?

きっかけは話題の絵本『まっくろ』の作者・高崎卓馬さんが発信していた、「あらすじ病」という言葉。忙しい日々、「思っていたのと違う」ことでストレスを感じたりイライラしてしまうことを端的に表しているなと感じました。そしてそれは、子育てにおいても言えることかもしれません。つい子どもに指示を与えすぎたり、ほかの子と比べたり  知らないうちに、親が思う通りに子どもを導こうとしていませんか?「私もあらすじ病かも!」と語る申真衣さんが、高崎さんと一緒に、子どもを待てる親になるためのヒントを探りました。
※掲載中の内容は、VERY2022年12月号誌面掲載時ものです。申さんの衣装は私物です。

 

こちらの記事も読まれています

▶︎気になる「Baby Kumon」を申 真衣さんが体験してみた!

◉今回のゲストは……
高崎卓馬さん

1969年福岡県生まれ。クリエイティブ・ディレクター/CMプランナー。JAAAクリエイター・オブ・ザ・イヤーを2度受賞するなど、国内外の受賞多数。著書に『はるかかけら』『表現の技術』『オートリバース』など。

シンマイちゃんも読んだ『まっくろ』

来る日も来る日も根気よく画用紙をまっくろに塗りつぶし続ける小学生の男の子。彼が手を止めたときに、ついに完成したものとは?20年前のCMに絵本作家・黒井健氏が新たな息を吹き込み完成した作品。子どもの果てしない想像力や可能性に胸を打たれる一冊です。
高崎卓馬(文)、黒井健(絵)¥1,760(講談社)
▶︎Amazonで購入する

あらすじ病という言葉に
\ドキッとしました/

「あらすじが分からない
映画は観ない」という人たち

申 真衣さん(以下、申) 以前、高崎さんが小説を出された際に話していた「あらすじ病」という言葉がずっと気になっていたんです。最近は結末や展開が分かる作品しか見ない人が多いというお話でした。

高崎卓馬さん(以下、高崎) 損をしたくないと考えてしまうんでしょうね。あらすじを読んで安心してからじゃないと、読むかどうか判断しなくなっていて。YouTubeの関連動画というくくりの影響もあると思います。大食いものを観たひとには似たものをリコメンドしつづける。その結果いつのまにか僕たちは思ったものを素直に喜べなくなっていたりする。もったいないなと思います。恋愛映画だと思って観に行ったらサスペンスだった、なんてことがあってもいいのになと思います。

 スマホの影響もあって、狭い世界で完結しやすくなっているかもしれません。検索履歴から最適化された広告を見て、SNSも自分がフォローしている人たちだけで盛り上がっている意見を「みんながそう思っている」と感じてしまう。多様性が認められる世の中なのに分断しているように感じることがあります。これって今、子育てにも言えること。子育てってこうあるべき、というあらすじに縛られたり、自分の周囲と同じような子育てをしないと、というプレッシャーを感じてしまう部分もあると思います。

高崎 たしかに。どこかに自分とは違う世界があるということは常に心に留めておきたいですね。

「人と同じでなくてもいい」
という母の一言に救われた

 一方、絵本に登場するのはひたすら画用紙をまっくろに塗りつぶし続ける男の子と、それを温かく見守る友達と先生。「違い」を認める優しさに心を打たれました。この絵本は20年前に高崎さんが作ったCMがもとになったとか。今の時代に読むとよりはっとさせられるような内容ですよね。

高崎 当時はYouTubeもSNSもなかったですからね。誰もが発信もできる時代になったからこそ、他者を理解しようという気持ちが重要になると思います。

 子育ての真っ最中なので、この男の子の母親の立場になってしまう部分もありました。自分の子どもだったら絶対焦って検索してしまうと思うんです。「画用紙 黒 塗りつぶす」とか。私も「あらすじ病」かもしれないです(笑)。

高崎 わが子のちょっと変わった行動が気になるのは仕方ないですよ。自分には理解できない子どもの世界があるということを、頭の片隅に置いておけばいいだけだと思います。私はこの男の子と似たようなタイプの子どもでした。図工の時間に画用紙を水槽に見立ててザリガニを小さく描いたら、先生に「ほかの子のように、もっと大きく描きなさい」と注意されたのがショックで。でも母に泣きついたら、「人と同じようにする必要なんてない」と、一緒になって腹を立ててくれたんです。それで気持ちがスッキリしました。

 「お母さんが認めてくれた」と感じたんですね。

高崎 母はとにかく待ってくれる人だったんですよ。ああしろ、こうしろとは絶対に言わなかった。

 そういえば、私の母も待ってくれる人でした。私は本ばかり読んでいて授業に一切参加しない子どもで、友だちもいないし、宿題も全くしなかった。小3くらいまでそんな感じでしたが、母は当時三人の子育てでてんてこ舞いだったからなのか、何も言われませんでした。一方で私は真逆の子育て。「世の中はこういう流れになるに違いない。そのためには子どもにこんな能力を身につけてほしい」と先読みして考えてしまうタイプ。自分ができることはできるような気がしたり、自分ができないことはできるようになってほしいと思ったり…。母のように待つことの難しさを実感しています。

高崎 子どもが失敗するのを見るのは、自分が失敗することより傷つきますからね。

 そもそも日本の社会って矛盾があると思うんです。小さい頃は先生や大人の言う通りにしなさいと指導されて、大人になると自分の意見を主張することを求められて。本当は大人も子どもも好きなものや言いたいことがあるはず。だから、子育ての先読みはやめられないけれど、娘が得意なことを誰かに自慢しても止めないし、「みんなと友だちになれなくてもいいんだよ」ということは伝えています。

高崎 その一言に、いつかお子さんが救われることがあると思いますよ。人と違っててもいいよ、自分らしくいなさいと言われても伝わらないかもしれないけれど、無理に友だちを作らなくていいというアドバイスは分かりやすい。私もどんな時も母が絶対にぶれなかったことで、信じた道を突き進めたところがあります。母親の口癖は「人は人、自分は自分」だったんです。子どもにそう諭しながら、実は自分自身にも言い聞かせていたのかもしれません。

 絵本のラストで、まっくろに塗りつぶした画用紙を並べるとクジラの絵が完成します。あの男の子はどこかで本物のクジラを見たことがあって、画用紙に収まるサイズではないと分かっていたのかも。子がどう感じるかは分からないけれど、親がインプットしてあげられることはたくさんあるのだと感じました。

 

NEXT>>>親が“インプットしてあげられること”とは

1回のリアルな経験が
本や映像で得た知識をはっきり
させてくれることも。そんな
機会をたくさん与えたい

どう感じるのかは
子ども次第。でも親は
体験を与えることができる

高崎 1回のリアルな経験が、本や映像で得た知識をはっきりとした形にしてくれるような気がしています。夏にアスファルトの上を裸足で歩くと、足の裏が強烈に痛くなりますよね。それを言葉で教えることもできるけれど、実際に子どもに「夏のアスファルトは熱い」ということを肌で感じてもらいたい。だから子育て中は繰り返しこういう体験をさせていました。

 自分で感じてほしいんですよね。私が子育てで意識しているのは余白の時間。旅先にiPadや絵本などの暇つぶしをたくさん持って行く人も多いと思いますが、我が家は手ぶらです。暇だったら旅館のメモにペンで絵を描けばいいかなと。刺激的なことばかり与えすぎると、「風が気持ちいい」くらいのちょっとした幸せにも気付きにくくなる気がしています。

高崎 制約があったほうが楽しめるんでしょうね。私は自分自身が本の虫だったのでたくさんの本を子どもに与えましたが、全然読まなかったですから(笑)。上の子はもう21なのですが、理系なので私の知らないことをたくさん知っています。たった一問の数学を何時間もかけて解くとか、話を聞いていると面白いんですよ。数年前からは子どもに教わるという感覚で接しています。

 教わるというのは違いを認めることにつながりますよね。日々忙しいなかつい子育てに効率や正解を求めてしまうけど、その子に委ねて待つことの大切さに改めて気づきました。

高崎 子どもと自分とは別の人生ですからね。同じ本を読んでも、全く異なる感想が出てくるかもしれない。「まっくろ」もお子さんと一緒に読んで、感じ方の違いを楽しんでもらえると嬉しいです。

あわせて読みたい

▶︎ヨシタケシンスケさん「“想像力神話”を子供に押し付けるのは無責任なこと」

▶︎VERYモデルの毎夜の「読み聞かせ絵本」と子どもとの「思い出絵本」

▶︎申真衣さん「子どもの教育費」かけるところ、かけないところ【お金連載 第3回】

.

撮影/佐藤航嗣(UM) ヘア・メーク/川村友子 取材・文/樋口可奈子 編集/羽城麻子 
*VERY2021年12月号「シンマイの、今、会いたい人/高崎卓馬さんと考える あなたの子育て『あらすじ病』になっていませんか?」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。