田村淳さんのエッセイ。親の死は今まさに「ここにある」話|大久保佳代子のあけすけ書評

死に対する考え方で、逆にその人の生き様がわかるのかも

久々に誰に勧められるわけでもなく購入した一冊。田村淳さんの2020年に亡くなった母親と家族の話が詰まったエッセイ。私も50歳になり、高齢の両親との別れがそう遠くない将来やってくるだろう、今現在やるべきことは何だろうと考えていたのもあり手に取りました。

淳さんとは、かれこれ20年近くバラエティ番組で共演しているものの個人的な交流はほぼ皆無。今回、淳さんのルーツを知ることができ「この親にしてこの子か」と納得しました。あと番組企画で偽メールを作るのがやけに上手いなと常々思っていたので、文章の上手さにも納得。

淳さんのお母様同様、私の母も6年前にガンを患い手術をしています。それをきっかけに日々の会話の中で少しずつ〝終活〞的なことを話してはいるものの、まだまだ本格的には向き合えてはいなくて。やはり当の本人と「死」について話すのは気まずさもあって。同年代の友達と会うと必ず親の介護や看取りが話題となり、「最期は絶対家で看た方がいい。やり遂げれば後悔しない」という看取り経験者の言葉がグッと刺さるものの、果たして私にできるだろうかと考えたり。実家から着信があるたびにドキッとするお年頃なのだから、一刻も早く向き合うべきだと、この本を読み強く実感しました。

タイトルの『母ちゃんのフラフープ』は生前、淳さんのお母様が残された〝動画〞からとられています。淳さんが〈イタコト(ITAKOTO)〉という遺言動画サービスのプロジェクトを進めていく中でお母様に「動画で何か伝えてほしい」と頼んだ際に送られてきたもので。本についているQRコードから観ることができるのですが、後ろ向きの姿勢で見事にフラフープを回し続ける姿やお父様との短い会話のやりとりからお母様の人柄が多少なりとも想像できてグッときます。

元看護師で自分の病いや死に対しても毅然とした態度で臨みつつ、ユーモアや茶目っけも忘れなかった強い方です。そんなお母様と最後まできちんと向き合ったからこそ、淳さんは「母ちゃんは、人生を投げ出したわけではない。延命治療をしたくないと言っているが、死にたいとは言っていない」「死を考えることは、生きることなのかもしれない」と。親の死への考え方を聞くことは、生き方を聞くことなのかもしれない。私の母は「私が死んだら通帳や印鑑はあの簞笥の奥にあるから。あなたの分だから」とか「寝たきりになったら施設でいいから」と言っています。お金の不安が一番嫌で、他人に迷惑をかけたくないところが出ているなと思います。

巻末には淳さんが卒業した慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の修士論文が載っています。母親の死をきっかけに、ここまでやり遂げる粘り強さは凄い。ただ、今の奥様にアプローチする粘り強さは、やや怖さを感じてしまいましたが。このエッセイ、テーマは重いものではあるけれど、一貫して明るく前向きな空気感で描かれているので助かります。少しだけ軽い気持ちで親と死について話ができそうです。

『母ちゃんのフラフープ』 田村 淳著 ¥1,540 ブックマン社 親の老いを受け入れ、親の最期の希望を叶えることを受け入れる。人が本当の意味で自立しなければならない瞬間にどう向き合うのか。2020年、コロナ禍で母を看取り、大学院で「死」を学び、遺書を動画にするサービス「ITAKOTO」のアイデアを思いついた田村淳さんの家族の物語。商品の詳細はこちら(amazon)


おおくぼかよこ/’71年、愛知県生まれ。千葉大学文学部文学科卒。’92年、幼なじみの光浦靖子と大学のお笑いサークルでコンビ「オアシズ」を結成。現在は「ゴゴスマ」(TBS系)をはじめ、数多くのバラエティ番組、情報番組などで活躍中。女性の本音や赤裸々トークで、女性たちから絶大な支持を得ている。

撮影/田頭拓人 取材/柏崎恵理 ※情報は2021年12月号掲載時のものです。

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