藤ヶ谷太輔主演『ドン・ジュアン』観劇レポート|辛酸なめ子の「おうちで楽しむ」イケメン2020 vol.28
’19年に初上演されハマり役と大評判を博したKis-My-Ft2藤ヶ谷太輔さん主演のミュージカル『ドン・ジュアン』。この秋、待望の再演となったこの作品を辛酸なめ子さんがレポート。希代の色男フェロモンが炸裂していたステージの模様をお届けします。
藤ヶ谷太輔主演で大評判となった舞台が再演
伝説の色男というと古今東西、在原業平、カサノヴァなどが浮かびますが、やはり一番惹き付けられるのは「ドン・ジュアン」の物語かもしれません。日本では「ドン・ファン」とも呼ばれて、残念なことに「紀州の……」が有名になってしまいましたが、もとは17世紀スペインの伝説のプレイボーイです。文学作品や音楽のモチーフになった「ドン・ジュアン」が時空を超えて日本でミュージカルとして公開。2019年に大評判となった舞台の再演で、Kis-My-Ft2の藤ヶ谷太輔がフェロモンを振りまきながらドン・ジュアンを演じているので期待が高まります。ぜひ女性ホルモンを補給したいです。
今回再演されるのは、ヨーロッパを中心に広く知られる「ドン・ジュアン伝説」をフェリックス・グレイ作曲による名曲でミュージカル化した作品。元になったモリエールの戯曲「ドン・ジュアン もしくは石像の宴」を読んで予習すると、17世紀のモテ男子の口説き文句は現代とはだいぶ違うようです。「ああ! なんてきれいな! ちょいと歯を見せてくださいな。なんて惚れ惚れする歯だろう、それにこのふるいつきたくなるようなくちびる! いやもう、わたしはうっとりしました」とかベラベラ喋ってナンパしているドン・ジュアン。藤ヶ谷太輔がこんなセリフだったらさすがに引くかもしれない……と思ったのですが、現代版「ドン・ジュアン」は想像以上にクールなイケメンでした。曲もロック調だったりしてテンションが高まります。藤ヶ谷太輔はロングヘアを束ねているのが似合っていて、小室圭さんのポニーテールのインパクトが上書きされました。
セリフなしでも発散されるモテ感がスゴい
登場してからしばらく言葉を発せず、動作や態度でモテ感を表現。やはり余計なことを喋らない寡黙な男性が素敵です。自分では何も言わず、周りの人々がドン・ジュアンの伝説を語るに任せています。ただ冒頭、「彼は全てを持っていた~」「悪徳の限りを尽くして生きた~」と、友人たちのセリフが過去形だったのが気になりましたが……。
セピリアの騎士団長の娘に手を出し、激昂した父親と決闘になって、騎士団長を殺してしまったドン・ジュアン。ここから物語が始まり、業が深い男性がさらにダークな闇フェロモンをまといます。
酒場では無言のまま、寄ってくる女たちの体を撫でたり、軽くキス。シャツの胸がはだけまくっていて胸筋がチラ見えしています。酒場で女性にまみれ、タバコを吸いながら踊る喫煙ダンスに痺れました。
そこへ、酒場に似つかわしくないひとりの女性が入ってきました。ドン・ジュアンと一晩過ごしたことて自分は妻になる身だと思い込んでいる貴族の娘、エルヴィラです。ドン・ジュアンはエルヴィラが来ても無視して他の女とイチャつき、挙げ句には「おい!! 随分気安く呼ぶんじゃないよ!」と恫喝。そして「女たちはオレを求め続ける~」と時折客席を指差しながら歌い、もし銃口だったら打たれてもいいくらいの感覚に。(その後、兵士の戦闘シーンで実際に銃口が向けられましたが……申し訳ありませんが撃たれたくないと恐怖を覚えてしまいました)
不遜な態度と亡霊に怯える姿のギャップに萌える
エルヴィラはドン・ジュアンに相手にされないのでドン・ジュアンの友達ドン・カルロや、ドン・ジュアンの父親、ドン・ルイ・テノリオを頼って、彼への恨みつらみをぶちまけます。ついエルヴィラに感情移入してしまうのは、藤ヶ谷太輔のような超絶イケメンには最初から相手にされるわけないという諦めからでしょうか……。
父親に呼び出されても「まずはテメエの寿命の心配をしやがれ!」と反抗的な態度のドン・ジュアン。ひどい男性だと思いながらも目が釘付けに。性格が悪いイケメンがモテるのは、子孫を残す競争に勝ち残りそうだから、という説を聞いたことがあります。
無敵感漂うドン・ジュアンでしたが、唯一、決闘で殺してしまった騎士団長の亡霊に悩まされていました。女性に対しては不遜な態度の彼が、亡霊には怯えるギャップに萌えます。好かれているのかとり憑かれているのかわからない感じで亡霊からバックハグされるドン・ジュアン。女性にバックハグして吸い取ったエネルギーを、逆に亡霊に吸い取られてしまいます。
「お前はいずれ愛によって死ぬ」と、騎士団長の亡霊に呪いをかけられたドン・ジュアン。常に騎士団長に見張られていて、女性とイチャついても「お前は満たされなかった。お前の欲望は止まらない」などとさらに呪われ、追い呪い状態です。「愛を知ればわかるだろう~犯した罪のおぞましさ~」と騎士団長が歌うと、「愛なんてものはありはしない~」とドン・ジュアン。ワイルドでエモーショナルな歌声です。時々ワイルドなダミ声っぽくなるのが、ドン・ジュアンの経験値の高さを感じさせます。
希代のプレイボーイが選んだ相手は…
そんな稀代のプレイボーイはどんな女性がタイプなのでしょう。亡霊のマッチングサービスに導かれ、騎士団長の彫刻を彫っているマリアと出会ったドン・ジュアン。マリアには戦地に行ったまま帰ってこない婚約者、ラファエルがいました。女性にモテまくっていたドン・ジュアンですが、今まで出会っていない芸術家タイプの女性には自然と惹かれてしまうのかもしれません。マリアが「石には声があるから、語ってくれるの」などと不思議発言したのがドン・ジュアンの心に刺さったようです。プレイボーイは天然キャラに弱い、とインプット。
ドン・ジュアンは「この感覚は何? これはいったい何なんだ?」と、初めて芽生えた愛の感情に戸惑います。前半、感じ悪いキャラだったのが一転して愛情深い男性に。それを不穏な様子で騎士団長の亡霊が見つめているのでした。「呪いはまだ続いている」とつぶやきながら……。
仕事と恋愛の両立の難しさを考えさせられる
マリアと相思相愛になってからのラブシーンは、この舞台のクライマックス。ベッドの上でドン・ジュアンは半裸、マリアは下着っぽい白い衣装でイチャついています。「星に包まれて~2人羽ばたいて~」とエクスタシーを匂わせる歌詞に胸が高鳴ります。膝枕したりバックハグしたり、かなり見せつけられる演出。つかの間の幸せの後、また不穏な展開になっていくのは、マリアが男にかまけて彫刻の仕事を中断してしまったせいかもしれません。騎士団長の彫刻制作の仕事を請け負いながら、未完成のまま放置してドン・ジュアンとイチャつき倒しています。もし彫刻ができていれば、騎士団長の霊は鎮魂され、祟りも抑えられたかもしれません。仕事と恋愛の両立の難しさについて考えさせられる舞台でもあります。
藤ヶ谷太輔演じるドン・ジュアンのように魅力的な男性は、実際目の前に現れたらハマりすぎて日常生活に支障をきたしてしまいます。やはり客席から舞台を眺めるくらいの距離感や刺激がちょうど良いことがわかりました。
辛酸なめ子
イケメンや海外セレブから政治ネタ、スピリチュアル系まで、幅広いジャンルについてのユニークな批評とイラストが支持を集め、著書も多数。近著は「辛酸なめ子の世界恋愛文学全集」(祥伝社文庫)、「女子校礼賛」(中公新書ラクレ)、「電車のおじさん」(小学館)、「新・人間関係のルール」(光文社新書)など。
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構成/CLASSY.編集室