「豊かな国と貧しい国。搾取のない社会を」”世界平和”のために私たちができること
人見とも子さん(47歳・京都市在住) 「シサム工房」取締役
搾取される社会に平和はない。
作り手を支えるフェアトレードを生活に取り入れることで世界は変わります
最近話題のSDGs(持続可能な開発目標)に22年前から取り組んでいるシサム工房の人見とも子さん。シサムとはアイヌ語で“よき隣人”という意味だそう。
「シサム工房ではフェアトレードでインドやタイなど6カ国、13の団体と取引をしています。フェアトレードとは途上国に暮らす作り手の支援に繫がる貿易のこと。公正な価格の取引だけでなく、その先のコミュニティの支援をしていくことで、世界が変わっていくと思っています」。
大学院でタイの山岳民族の女性の研究のために訪れた村で、目の当たりにした貧困や人権問題が事業のきっかけに。
「採石場での児童労働。小中学生ぐらいの子が人身売買で売春をさせられ、エイズになっていました。親は麻薬中毒で、生きる希望を失った死んだ魚のような目をしていたのが忘れられません。けれども子を売った親も被害者で、民族差別や貧困で社会的に追い込まれていました。搾取が搾取を呼ぶ現実を知り、自分の非力さに打ちのめされました」。
しかしある晩、別の村で“女性の会議”があると聞き、参加した人見さん。
「フェアトレードで刺繡のポーチを販売していた女性達が、活き活きと未来を語っていたんです。衝撃でした」。同時に「これなら自分の能力を活かせる」と希望を見出し、帰国後はフェアトレードの道へ。「『今着ている服は、誰がどのように生産しているか?』。知らない人が多いですよね。,13年にバングラデシュで縫製工場が崩落し、千人以上が亡くなる最悪の事故がありました。強制労働などの社会問題が浮き彫りになりましたが、瓦礫の中からは皆さんがよく知るファストファッションのラベルがたくさん見つかりました。実は格安な服は劣悪な環境の中で生産されていたのです」。シサム工房では搾取を防ぐため、現地をよく知るNGOと協力。インドではスラムに暮らす女性達にミシンを教え、生産者が力強く生きるための“力”をつけています。「女性の社会進出は生活の向上と、子ども達への教育にも繫がっています。シサム工房のスローガンは“お買物とはどんな社会に一票を投じるかということ”。買物で動くお金には、社会を変える力があります。何かを購入する時には商品の生産される背景まで知って選択してみませんか。他人事ではなく持続可能な社会の実現には、私達一人ひとりの意識が大切です。思いやりに満ちた平和な社会を作るためにフェアトレードを生活に取り入れていただきたい。生産者の笑顔にも繫がり、気持ちも豊かになりますよ」。
撮影/前川政明 取材/孫 理奈 ※情報は2021年9月号掲載時のものです。