古田新太×松坂桃李インタビュー|壮絶な内容の作品、現場での2人は…?
劇団☆新感線の看板役者、古田新太さんが7年ぶりに主演を務める話題の映画『空白』。共演は実写映画では初共演となる、若手実力派俳優の松坂桃李さんです。9月23日の公開を前にお二人のインタビューを2回にわたってお届けします。
「最初は台本を読んだだけでも憂鬱でした」(松坂さん)
――娘の死をめぐり、恐るべきモンスターと化した父親・添田(古田新太)と、追い詰められて壊れていくスーパーの店長・青柳(松坂桃李)。現代社会の危険性を浮き彫りにしたリアルなストーリーは、観客の胸を締めつけます。最初に台本を読んだ時の感想と演じる役に対して感じたことを教えてください。
古田 地味な作品だな~と。役的には楽しくないなって思ったのが、一読目の感想です。
松坂 ははは(笑)。僕はテーマがとにかく重いなあと思ったのと、古田さんと(寺島)しのぶさんに挟まれるのかと思うと、はあ~って……(苦笑)。
古田 憂鬱だよね(笑)
松坂 いろいろ考えて想像し始めると、(肩を落として)「あ~、あ~」みたいな(苦笑)。
古田 嫌だよな。オイラとしのぶちゃんがののしり合ってる間に入って(笑)。
松坂 今作がアットホームな感じの温かい作品だったら全然違うんですけど、内容が内容だったのでそんな感想でした。僕が演じた青柳は自分が出せないというか、自分がほとんどない男。でもこういう人って意外といると思うし、その時々において言葉が詰まってしまったり、自分の意思をはっきり言えないことって多いと思うんですよね。だからこそ、青柳は実はロリコンなんじゃないかとか、いろいろ言われたりする。主張をしてこなかったがゆえのものだなっていうのが最初の印象です。
古田 オイラが演じた添田は怪物みたいに言われていて、娘の学校側だったり加害者の母だったり青柳だったりいろんな人を責めるんですけど、(日が経つとともに)それぞれとの関係性は心情的には変わっていってます。オイラはあえて、そういう変化を表現したくない人なんで、見た感じは変わらないですけど。戻ってきた弟子に対する態度も一向に変わらないけど、何かしら心は動いてるんだなって言うのを見ている人が感じてくれたらいいなって思います。
――最初は台本を読んだだけでも憂鬱だったという松坂さん。実際に演じてみて思うことはありましたか?
松坂 やっぱり濃度が濃いですよね。台本読んで、頭の中でセリフを返されるよりも、現場で古田さんから受けるものや、しのぶさんから受けるお芝居はもちろん濃いですし。その二人の争いを止めるところなんて、できれば入りたくない。
古田 はははは(笑)
松坂 個人的には、おさまるところを遠目でずっと見ていたいみたいな(笑)。
「何もしない人、ずっーと見てる人が一番怖い」(古田さん)
――松坂さん演じるスーパーの店長が、万引の疑いで女子中学生を追いかけたら、逃走中に車に轢かれて死んでしまう。その女子中学生の父親役が古田さん。お二人の共演シーンは緊張感と緊迫感で張りつめていました。
松坂 いやあ、怖かったですよ。お店から出たら添田が外に立ってる。夜、店の戸締りして帰ろうと裏口から出たら、缶ビール飲んで座って待ってる。「あ、またいる。もうやめてほしい」って言うような怖さが今回の古田さんにはありました。
古田 オイラはやりやすかったです。
松坂 はははは(笑)
古田 いろいろ自分で工夫する俳優さんが苦手なんで、監督が言ったとおりにやる。そしたら撮影も早く終わる。桃李がそういう人で良かったです。
松坂 ははは(笑)。この現場、巻きましたからね。
古田 巻いて終わって苦しむ人はいないからね。
松坂 いないですよ。みんな平和に終わりますからね。
古田 「すいません、もう一回やらせてください」って言う俳優、苦手なんです。「もう一回!」って、もっといいものが出てくるのを待つっていう監督さんもいますけど、出ないですよ。一番最初にやった芝居が一番いいんです。全力でやってますから。早く帰りたいですし(笑)。一発目から本気でいかないと、もう二度とそのテンションは帰ってこないですから。
松坂 そうですね。フルスロットルですね。
古田 今回は、しのぶちゃんにしても(片岡)礼子ちゃんにしても一発目から全力でやる人たちだから。できない人もいなかったんで(笑)。
松坂 誰に向かって言ってるんですか~(笑)。
――古田さん演じる添田が、特に怖かったところは?
松坂 たたずんでるのが一番怖い。あと、撮影をした地方都市にいかにもいそうっていう感じが……。僕がロケ地に入った時には、古田さんがすでにその場所の空気をまとっているような感じがしたので、何の違和感を感じることなく。たたずまれてるのは恐ろしいですよ。しかもちょっと遠めな場所からずっと見られてる。
古田 オイラは何もしない。何もしない人、ずっーと見てる人が一番怖い。そこでちょっと眉間にしわ寄せるなんてことしたらダメでね。無表情でずっと見てる人のほうが怖いって、オイラは思う。
松坂 怖いですね。
――娘を亡くした添田の気持ちも少しはわかるところはありましたか?
古田 オイラは娘に優しいし、奥さんと別れないようにするための努力をする人だから。コミュニケーションもスキンシップも取る人だから、添田に似たところはまったくないですね。自分の中にまったくないパーソナリティの人間を演じるのは楽しいです。だから桃李に空き缶ぶつけたりするのはすごく楽しい(笑)。で、桃李は嫌そうにおびえる。「どっか行って、この人」みたいに。そうするとこっちも拍車がかかる(笑)
松坂 本当にないですか? 添田のパーソナリティは(笑)
古田 ない!(笑)
「カメラがストップしたら〝気のいいおじさん〟です」(古田さん)
――対立する役柄の場合、現場ではオフカメラでもあえてコミュニケーションをとらないという俳優さんもいらっしゃいますが、現場での二人はどうでしたか?
古田 娘の葬式に青柳が来て「この野郎!」っていうシーンでさえ、オイラはエキストラさんのことしか考えてなかったです。エキストラさんがいかに楽しんでくれて、撮影が面白かったってことを持って帰って、映画を宣伝していただけるかって(笑)。青柳を追いつめる時は恐怖を感じるような人間を演じなければいけないけれど、カメラがストップしたら“気のいいおじさん”です。
松坂 すごく“気のいいおじさん”でした(笑)
――青柳が弱りきって添田に土下座をするシーンの後でも、カメラがストップしたら“気のいいおじさん”でしたか?
古田 はい。なかなか役が抜けないって人もいるじゃないですか。じゃあ二重人格の役や多重人格の役が来たらどうするんだよって話です。
松坂 大変ですよね(笑)
――追いつめられる側の松坂さんはいかがでしたか?
松坂 ピリッとした緊張感のある作品なので、古田さんとコミュニケーションをとることで緊張が緩和されるようなことがありましたね。監督も明るい方ですし。
古田 吉田(恵輔)さんはね、あんな作品ばかり撮っているくせに(笑)、オンオフの切り替えがすごい方で。
松坂 ハッキリしてますよね。
古田 助かります。カットがかかれば、軽口でね。
松坂 あれは助かりましたね。古田さんともカメラが止まれば全然ピリピリした感じもなく、いろんな話をしてました。
――意外にも実写映画は今作が初共演。古田さんにはどんな印象を持っていましたか?
松坂 独自のポジション、独自のものを築き上げている人。古田さんとかぶる人っていないと思うんですよね。唯一無二な感じがしています。舞台も何度か見させていただいたし。古田さんを初めて知った作品はドラマの『木更津キャッツアイ』。まだこの仕事をする前の学生の頃でしたけど、強烈に印象に残っています。“オジー”って役だったですよね、確か。毎回、強烈なインパクトを残して、そのたびに笑っていた。この仕事をするようになってから、すごい方なんだっていうのを少しずつ知っていったというか。
古田 “オジー”と、ちょっとしか出てないのに『池袋ウエストゲートパーク』の“ヘビーE” のことはいまだに言われる。“オジー”にいたっては、途中から舞台が入ってたから、宮藤(官九郎)に「ごめん、殺して」って(笑)。「オイラと阿部(サダヲ)は舞台入るから、どうにかしていなくして」って言って、“オジー”は死んで“猫田”(阿部サダヲ)は捕まるっていう(笑)。いまだに覚えてると言われるのはありがたいし嬉しいけど、そんな作品です。
――松坂さんに対しては、どんな印象でしたか?
古田 オイラは戦隊もの(『侍戦隊シンケンジャー』)に出てた時から知ってるから。
松坂 ありがとうございます。
古田 『パディントン』の時もすごく楽しかったです。最初は「松坂桃李がクマやるの? 無駄遣いじゃない?」って思ったけど。
松坂 いやいやいや、とんでもないです。
古田 たぶんフラットな人なんだろうなと思ってました。戦隊ものや仮面ライダーで出てきた俳優って、面倒な人もいるんだけど。
松坂 だから誰のことなんですか、本当に~(苦笑)。
古田 でも桃李はフラットな状態で来るんだろうなと思ってて、一緒にやったらやっぱりそうだった。助かったと思いました。
役柄とは違って、とても仲の良い二人。次回はお互いの好きなところをお聞きします。
古田新太
‘65年12月3日生まれ 兵庫県出身 血液型O型●劇団☆新感線の看板役者。劇団での活動と並行して、多くの映画やドラマ、バラエティ番組などで活躍。最近の主な出演作は映画『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』、ドラマ『小吉の女房』『半沢直樹』『エール』、舞台Yellow 新感線『月影花之丞大逆転』、ミュージカル『衛生』〜リズム&バキューム〜など。声の出演も多く『パディントン』シリーズでは、パディントン役の松坂桃李と共演。『 関ジャム~完全燃SHOW~』(テレビ朝日系)にレギュラー出演中。
松坂桃李
‘88年10月17日生まれ 神奈川県出身 血液型A型●’09年『侍戦隊シンケンジャー』で俳優デビュー。以降、映画、ドラマ、舞台に活躍。様々なジャンルの話題作に出演し、’18年の映画『孤狼の血』で第42回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を始め、数々の映画賞を受賞。‘19年の映画『新聞記者』で第43回日本アカデミー賞最優秀男優賞を受賞。最近の主な出演作は映画『あの頃。』、ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』『あのときキスしておけば』、映画『いのちの停車場』など。主演映画『孤狼の血 LEVEL2』が公開中。映画『流浪の月』(’22年)『耳をすませば』が公開待機中。
『空白』
スーパーで店長に万引を疑われ、追いかけられた女子中学生が逃走中に車にひかれて死んでしまう。少女の父親はせめて娘の無実を証明しようと店長を激しく追及するうちに、その姿も言動もモンスターと化し、関係する人全員を追いつめていく。父親・添田を古田新太、スーパーの店長・青柳を松坂桃李が演じる。他の出演/田畑智子 藤原季節 趣里 伊東蒼 片岡礼子 寺島しのぶ 監督・脚本/𠮷田恵輔 ●9月23日(木・祝)全国公開
撮影/平井敬治 ヘアメーク/田中菜月(古田さん) AZUMA(松坂さん) スタイリング/ 渡邉圭祐(古田さん) カワサキタカフミ(松坂さん) 取材・文/駿河良美 構成/中畑有理(CLASSY.編集室)
<古田さん着用分>シャツ¥27,500(サンサーフ/東洋エンタープライズ ☎03-3632-2321)パンツ¥27,500(サイト/ヨウジヤマモト プレスルーム ☎03-5463-1500)キャップ、Tシャツ/スタイリスト私物