「卵子凍結」アラサー女子の場合【メリット、デメリット、費用…】
「いつか子供が欲しいかも」と漠然と思っているけれど、「いつか」はまだわからない。そんな私にとって「卵子凍結保存」はひとつの選択肢なのかも?卵子の凍結保存の現状やメリット、経験者の話など、多角的に調べてみました。
「プリンセスバンク」代表・香川則子さんに聞いてみた
「本当に私たちのためのもの?」卵子のプロに質問
「プリンセスバンク」代表・香川則子さん
公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センター基礎研究部文理融合型先端医科学研究所研究員、元順天堂大学産婦人科協力研究員。女性の人生づくりを複合的にサポートするプリンセスバンク株式会社を設立。著書に『私、いつまで産めますか?~卵子のプロと考えるウミドキと凍結保存~』(WAVE出版)が。
相談者は32歳以上の女性2名
35歳以上の初産では「高齢出産」となる現実
香川さん:まだ自分の妊娠・出産をイメージできないクラッシィ世代でも、35歳以上になると妊娠しづらいという知識は広がってきていると思います。でもいざ自分が35歳を超えたときに「産めない可能性」を考えている人はすごく少ないのではないでしょうか。
Mさん:30歳を過ぎたら子供が欲しいという気持ちがありましたが、実際32歳になった今も「子供を産む」ということが私の中で現実味を帯びていなくてぼんやりとしています。
Sさん:34歳の時に、仕事を取るか子供を取るかで悩み、結局仕事を辞めて妊活しているのですが、今のところ上手くいっていません。
香川さん:医学的には女性が最も子供を産みやすい年齢は25歳から34歳と言われています。一方、日本人女性の平均初産年齢は2020年に31歳を超えました。対して、現在は6人に1人が不妊に悩んでいると言われている時代で、クリニックで不妊治療に取り組んでいる女性の平均年齢は約39歳。すでに卵子の老化が加速している年齢です。日本では毎年30万〜40万件ほどの体外受精が実施されていますが、出産数は約6万人弱。体外受精1回あたり、34歳までなら出産率は20%、39歳になると10%に低下します。患者の半数が40代で、42歳になると体外受精ではほとんど出産できないのが現状です。
Sさん:アラフォーでの出産はもっと多いかと思っていました。そう聞くとさらに焦ります。
香川さん:確かにアラフォーでの出産が増えていますが、35〜39歳までの妊娠率は全体の21%、40〜44歳では全体の3・6%です。多くの人がとても少ないと感じるのではないでしょうか。この数字を受け止め、自分自身が今持っている可能性を踏まえたうえで今後について考えることが、妊活のスタート地点です。
Mさん:今は相手もいないので、いずれ仕事が落ち着いたら欲しいかもと考えていましたが、私も少し焦ってきました。
香川さん:現在の日本の社会の構造上Sさんのように選択を迫られる女性も多いですし、働きながら産むタイミングが見えないうちにいわゆる妊娠適齢期を過ぎてしまっている例も多くあります。
卵子凍結で可能になること、懸念されること
卵子凍結が何のためのものかわかったら、現状考えられるプラス面とマイナス面の比較を。メリットとリスクを知ることは、自分の未来を守ることに繋がります。
卵子凍結のプラス面
卵子凍結のマイナス面
凍結までの道のりが知りたい
「独身の私が卵子凍結をするとしたら?」
では実際に採卵して凍結が完了するまでには何を、どのくらいの期間で行うの?健康な女性が卵子を凍結する場合の流れをまとめました。
3つの「私と卵子凍結」
「実際に産んだ」「凍結中」「卵子凍結をやめた」
産める可能性や卵子の老化と向き合いながら行う卵子凍結。実際に卵子凍結という選択をした3名の経験者に、それぞれのケースを教えてもらいました。
「卵子凍結で産みました」
仕事の自己実現と母の願いを叶えたいときに出合ったのが「卵子凍結保存」でした
Tさん(外資系金融会社勤務・42歳)
母の勧めで34歳で卵子凍結保存を決意。39歳で卵子凍結の卵子を使い出産。現在第2子を妊娠中。
「30歳を過ぎた辺りから仕事が本当に面白くなり、当時は男性に負けたくない、もっと上に行きたいという思いしかありませんでした。彼氏もいない、そんな仕事一筋な私を見て、母から提案されたのが卵子凍結。正直『何を面倒なことを言っているの?』と思っていましたが、母を安心させる(黙らせる)ためならと承諾し、34歳の時に3つの卵子を凍結しました。そんなことも忘れていた頃、6歳下の彼と恋に落ち、結婚。彼の子供が欲しいと思うようになりましたが、思春期から生理も重くて、子宮に問題があった私は妊娠しづらく、自然妊娠が難しいという現実が。そこで思い出したのが、凍結された卵子たち。よし、コレなら絶対妊娠できるよねと、36歳で体外受精をしましたが授かりませんでした。実際、胚移植までのバタバタなスケジュールや体の管理など、色々乗り越えた後に受精しなかったときの失望感はものすごいものでした。
でもこの時に『妊娠できて当たり前』という傲慢な思考が覆され、自分のため、彼のためにと、体と向き合えるようになりました。そして38歳で再び凍結保存の卵子を使い体外受精に挑戦、39歳で出産ができた時には奇跡が起きたと感じました。そして現在3つ目の卵子を使い、第2子を妊娠中。無事に産まれてくることを願っています」
「卵子を凍結中です」
未来の彼のために卵子凍結中。自分のタイミングで子供が欲しい
Kさん(会社経営・36歳)
「自己投資」と、32歳で卵子を凍結。結婚が全てではないけれど、卵子は守りたいと思っている。
「子供が好きで、自分の人生にとっては欠かせない存在だと思っています。ただ稼ぎが割とあるせいか、寄ってくるのはダメ男か計算高い男ばかり。なかなか結婚には踏み切れないのが現状です(笑)。そんな状況なので、自分の未来を託せる人はいません。そこで海外の友達に勧められていた卵子凍結保存を決行。もちろん産める可能性が100%じゃないことは理解していますが、今の私にとっての安心材料であり、保険にもなっています。それと同時に将来、産む機会が訪れない可能性も存在していますが、私にとってこの選択をしたという事実が、自分に向き合った結果だと思っています。
今は仕事が忙しくて恋人もいない状態ですが、いずれパートナーができたら、その彼との子供を産みたいと思っています。そのときに年齢や体調を理由にしたくないと思い、卵子凍結保存を選んだのかもしれません。まだキャリアを成長させたいですし、放棄もしたくない。でも最近、周りの友達に子供ができはじめて羨ましいのも事実です。正直なところ、授かり婚ができたら一番幸せなのかもと考えたりもしますが、そう上手くはいきません。
卵子凍結保存は私にとっての投資です。リスクもあるけれど、リターンもある。ライフプランの一つの選択として考えています」
「卵子凍結をやめました」
自分の人生を見つめ直したときに優先順位の変化に気がつきました
Iさん(会社経営・46歳)
32歳の時に卵子を凍結保存。3年間保管したが、その後、自分の会社を起こすタイミングで破棄。
「パートナーがいたわけではありませんが、『いつか子供が産めたら』という思いから、友人から勧められた卵子の凍結保存をやってみることに。当時は32歳でした。かれこれ10年以上前の話ですが、仕事柄周りには先進的な女性が多く、実際にこれで妊娠・出産した友人も知っています。凍結した卵子を使うことなく3年ほど経ち、自分の中の変化に気がついたのが35歳の時。それまで雇われ社長という立場だったのですが、自分で会社を起こして新たなスタートを切ることに。とにかく忙しく、目の回るような日々の中、今後の自分の将来設計を見つめ直してみたら、人生の優先順位において『子供を産む』という項目が、自分が思っていた以上に低くなっていることに気がつきました。少人数ながら社員の生活を預かっているという責任の重さも、この気づきの表面化に一役買っていたと思います。そうとわかってからは、即行動。もともと多趣味なこともあり、子供を育てていたら使っていた時間、かかっていたお金は自分にフルで投資(笑)。今は宮崎にセカンドハウスを建てようとしています。
子供を持たないという選択にはなりましたが、子供は好きですし、これから未来を背負う子たちにはより良い社会を残したい。『親として産んで育てる』以外の、私ができる形でサポートをしていけたらと思っています」
イラスト/今井久恵 取材/高橋沙織 再構成/Bravoworks.Inc