「カップルで観ると、結婚が遅くなってしまう映画」4選
映画ソムリエの東紗友美です。おうち映画デートの割合が、ますます増えていると聞きました。今回も【大人女子のための映画塾】では、「結婚に乗り気ではない懸念がある彼とは観ないことをおすすめする映画」を4本紹介します。どれもハッキリいってすべて名作として名前を聞いたことがある作品ばかり。誤って鑑賞してしまう可能性が高いので、どうか気をつけて。
1.『あと1センチの恋』
男性は恋を上書き保存できない!カレが初恋の相手を鮮明に思い出してしまうかも
大好物の映画ですが、社会人以降に出会った恋人と観るのはおそらく適さないであろう、名作恋愛映画です。幼なじみのロージーとアレックスが主人公。この2人はお互い想いあっていた高校生の頃からなんと12年、くっついては離れを繰り返します。結婚、進学、就職、出産…。「好き」というたった一言が言えないせいで、人生の重大トピックをまるごとパーフェクトにすれ違いを繰り返し、現実だったら地獄といっても過言ではない状態に陥り、長すぎる冬を過ごします。
さて、長期間にフォーカスしたすれ違いモノを楽しめるのは、基本的には女性です。なぜなら女性は、忘れることで前に進める生き物。新しい恋愛対象を基本的には1番好きな人と思うことができるからです。忘却という強い本能が携わっているわけですね。その点、男性は昔の彼女を個体個体で「名前をつけて保存」する生き物。なので、おのずと長期の恋愛相手や初恋の相手をどっぷり思いだしがちな作品なんです、この映画。筆者の友人の映画ライターも「初恋の佐藤さん(仮名)に会いたい」と試写会のあと、ぼやいていました。この映画は“初恋の魅力”が溢れすぎて尊いレベルです。
体内の胸キュンをすべて絞り取られるレベルなので、女性が観ることで恋愛脳を確実に刺激してくれるので1人の夜に是非とも。そして『あと1センチの恋』このタイトルも秀逸で、恋愛に必要なのって物理的な距離では改めてないんですよね…。ロージー役は、今や世界の人気者『エミリー、パリへ行く』のリリー・コリンズです。整った顔にチャーミングさが同居したラブリーさはこの頃から、光っています。
2.『テイク・ディス・ワルツ』
カレが女性不信になりかねない!観賞後の感想に困る映画
結婚5年目の夫婦、妻は旅先で出会った魅惑の青年に心惹かれてしまいます。しかし帰宅後、彼が自宅の向かいに住んでいると知り、禁断の関係へと踏み出してしまいまいます。いわゆる不倫ものですが、軸となっているのは夫婦の倦怠といったところでしょう。奥さんの方が青年と火遊びするという構図で、結婚生活における倦怠感にメスを入れています。
カップルでの鑑賞後、映画の感想を言い合うのが一般的だと思いますが。しかしこの作品の場合「女ってみんなこうなの?」「君だったらどうなの?」と、聞かれてしまう可能性が高く、結婚への道が遠のくことが予想されます。
この映画といえば…なセリフで「人生なんてずっと物足りないもの」というフレーズがあるのですが、作品の世界観全体がこの味つけをされているため、なんとなく自分の現実すらも物足りなく思えてしまいます…。なので、楽しいデートには向きません
恋愛感情は必ずいつの日か、家族愛に変化するもの。それを受け止められず、いつも恋愛の初期の旨味しか求めないのならば、誰と一緒にいても幸せにはなれないと痛感させられる学び深き1本。ちなみに、以前も紹介した夫婦の最後の1日を描いた『ブルー・バレンタイン』のミシェル・ウィリアムズ主演作です。
3.『それでも恋するバルセロナ』
恋愛の面倒さが凝縮&人間関係が複雑すぎて男性は置いてけぼり!?
仕事、趣味、男友達…。男性にとって、恋愛が1番重要なコンテンツではないかもしれません。単純にマルチタスクではないので、1つのことにしか集中できない傾向が多いのが男性脳。そんなときに、恋愛の面倒くささで出汁をとって煮詰めたような映画を観てしまったら、恋愛自体に胃もたれする可能性があるでしょう。
恋愛体質な自由美女、婚約中の慎重派女子というアメリカ女子2人がスペインに旅行へ、そこでラテン系の魅力溢れる男性が登場しますが、そこに気性の激しすぎる元妻まであらわれます。こんな4人がバルセロナで、恋のひと悶着。三角関係でもややこしいのに、なんと四角関係です。男1人VS美女3人。一見、ハーレムのような映画で彼が喜びそうですが、全員アクが強い。ひと夏とは思えないほど濃密でバルセロナに吹く風というのは、恋愛脳を刺激する薬物でも混じってるのではないか…?と心配になるほどです。
しかし、恋愛って不思議。当事者たちの状況が混乱すればするほど、観ている女性は面白くなってくるんですよね。でも男性は、ちょっと引いてしまいそう。本作の監督は、恋のいざこざ、ドタバタ、こじらせぶりを描いたらおしゃれで天下一品の巨匠ウディ・アレン。映画ソムリエ的に言うと、救いなのはウディ・アレン特有のナレーション。ドロドロなお話もナレーション説明ですっきり(笑)、96分で楽しめます。そして、74歳でこの作品を世に送り出したウディ・アレン監督にもあっぱれです。地獄のように暑い夏が待ち受けていますが、情緒あふれるバルセロナの風景は彼らの恋模様を癒やすようで、旅行の前に観るとモチベーションをあげてくれる予感も♪
4.『her/世界でひとつの彼女』
もはや結婚しなくて、AIでもよいのではと思われそう
近未来のLAを舞台に実態のない存在である最新の人工知能型OSに恋をしてしまう男を描いた物語。寂しい夜に何かと「Hey!Siri!」と話しかけがちな方はより作品に没入できる予感です。大問題なのは、この人工知能OSちゃんのボイスをスカーレット・ヨハンソンが担当しているところ。セクシーなハスキーボイスが全世界で称賛を浴びているあの“スカヨハ”、彼女です。OSだと忘れてしまうほど完璧な受け答えの進化したコミュニケーションなうえに、スカヨハボイスで「もはや結婚しなくてよいのでは?」と思うくらい、男性を翻弄します。ブレスや間の取り方、囁きと、聞き上手ぶりに圧倒されます。正直、実態がなかろうが惚れても仕方ないレベルです。
同棲していない限り、なかなか恋人と会えなくなる可能性のあるこの時代。カレとの電話シチュエーションには大変勉強になりそうなので、「声のお作法映画」として、教材映画とすることを個人的にはおすすめします。真剣に見れば見るほど奥深い作品で、「なぜ私たちは、苦労しながらも他人を求めるのか」「どうして、人間は他者が必要なのか」という答えの難しい問いを考えるきっかけになります。自分が誰かと過ごす意義のようなものと対峙できる名作ですので、クレバーな彼と鑑賞すれば、逆にお互いを求め合う結果になる予感も。
以上の今回紹介した映画たちは、ぜひ1人の夜にどうぞお楽しみください。カップルで一緒に観ないほうがいい映画、いかがでしたしょうか?おうち映画デートの際は、参考にしてもらえたら嬉しいです。
この記事を執筆したのは
東 紗友美(ひがし さゆみ)
’86年、東京都生まれ。映画ソムリエ。元広告代理店勤務。日経新聞電子版他連載多数。映画コラムの執筆他、テレビやラジオに出演。また不定期でTSUTAYAのコーナー展開。映画関連イベントにゲスト登壇するなど多岐に活躍。
http://higashisayumi.net/
Instagram:@higashisayumi