全米最優秀女子高生の母・ボーク重子さん「子育て後“何もない私”にならないために」
30代で夫以外知り合いのいないワシントンDCで結婚・出産。専業主婦を経てオープンさせたアートギャラリーが40代で大成功を収め、一人娘のスカイさんは「全米最優秀女子高生」コンクールで優勝……と、公私共に非の打ち所のないキャリアを築いてきたライフコーチのボーク重子さん。
しかし長らく、母の「いい娘」であらねばと悩み、専業主婦時代は「いい妻」「いいママ」の呪縛に囚われていたと話します。子育て後も続く長い人生を自分らしくイキイキと過ごすため、今私たちができること、手放してはいけないものとは何なのでしょうか。
※掲載中の内容はVERY2021年4月号掲載時のものです。
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ボーク重子 Shigeko Bork
Shigeko Bork BYBS Coaching LLC 代表。ICF(国際コーチ連盟)会員ライフコーチ。
1965年生まれ、福島県出身。29歳で渡英し、現地の大学院で現代美術の修士号を取得。その後、専業主婦、パートタイマーを経て2004年にアジア現代アートの専門ギャラリーをオープン。その2年後にはバラク・オバマ元大統領らと共に「ワシントンの美しい25人」として選出されるなど、大成功を収める。ʼ15年からはライフコーチとして活躍し、自身の子育てで培った「非認知能力」に関する講演や書籍を出版する。現在は、20歳上の夫とワシントンDCで2人暮らし。インスタグラム:@shigekobork
ボークさんが「何もない私」に危機感を抱いた瞬間はいつですか。
今でも暮らすワシントンDCで専業主婦をしていた時、近所のママたちが当番制で子どもたちの面倒を見るプレイグループという集まりがあり、その場の自己紹介で、周りとの差に驚愕しました。「2歳のスカイちゃんのママ、重子で〜す。夫はティムです♪」と5秒で自己紹介が終わったのは私だけ。他のお母さんたちは皆、「今は育休中だけど、夢は学校を作ることなの。それで今ボランティアをしてるんだけど、一緒にやりたい人いない?」「エンジニアとしてのキャリアアップのために講座も受けたいの。詳しい人いたら教えてね」みたいに、「○○ちゃんのママ」というより、自分が何者で、どんなことをしたいかということを話していました。その時はじめて、「私って〝娘のママ〟で〝夫の妻〟ってこと以外、自分を語れるものが何もない」と気がついたんです。
ただ、「いい妻」や「いいママ」をしていれば、夫や周りからは感謝されますよね。そうすると「私には何もない」と思えないような気もしますが……。
子どものお菓子は全部手作りで、夜遅く帰ってきた夫にはご飯を温め直して出す。両親の介護も買って出る……。そんな風に世間から求められる「女らしさ」を完璧にやっていれば、確かに褒められるかもしれません。でもそこで認められている部分は全部、「娘」「母」「妻」「嫁」という「役割」の部分であって、「自分」ではないですよね。私たちは「誰か」のお世話をするために生まれてきたんじゃありません。
国策として「女性活躍」が掲げられているように、現在は「いい妻」「いいママ」でいることが良しとされた時代とはまったく状況が異なります。でもお母さんたちはまだその呪縛から逃れられず、自分のためにキャリアを積みたい、自分のための時間がほしいと思った時、「勝手なお母さんでごめんね」と、〝マミーギルト〟を抱えてしまう。私自身、ママ友付き合いも苦手で料理も裁縫も苦手だったので、「娘のスカイはこんなお母さんでかわいそう」とずっと思っていました。
ママが自分の人生を生きることが
子どもの自立にも繫がる
でも、人生は100年時代に突入しました。子育てが終わっても残りの人生が何十年とあります。その時、「ママ」や「妻」だけで生きていたら子どもが自立した後、何が残るでしょう。「孫の世話をしたい」なんて言う人もいますね。でもそんな無邪気な願いが、子どもにとっては「結婚して子どもを作ってお母さんを喜ばせなきゃ」というプレッシャーになります。お母さんが自分の人生を生きていないと、子ども自身が自分で人生をデザインしていく機会を奪ってしまうかもしれません。
そんな私も、たくさんやらかしてきました。在宅で仕事をしていた時は時間が余っていたので、娘が一生懸命やっていたバレエを応援したいと、オーディションの情報や学校のことを調べまくって熱っぽくプレゼンしたことがありました。その時の娘の反応は「……」。ママがこんなに一生懸命調べたのになんで感謝してくれないの?と頭の中は不満で一杯です。でもよくよく考えたら私がやったことは余計なお世話で、スカイが全部自分でできることだったんですよね。私は彼女を自立した学習者として、自分のことを自分で解決できる子どもになってほしいと育ててきました。だから本当はスカイを信頼して待つだけで良かったんです。
ママが自分の人生を生きていれば、子どもにも夫にも執着せず、互いに1人の人間として尊重し合うことができる。子育て中も働き続けることや、勉強を諦めないことは、社会と繫がり続けることであり、決して罪悪感を感じることではありません。それはお母さん自身だけでなく、家族にとっても非常に大切なことですが、そのロールモデルがいない。前例なき時代を生きている私たちは、自分自身で「正解」を作っていくことが求められているんです。
お母さんが自分の人生を生きる第一歩として、マミーギルトを克服するにはどうすればいいでしょうか。
自分なりの物差し、「自分軸」を持つことから始めましょう。私たちは100点満点を目指せという教育で育ってきているから、課題を与えられるとすぐに「正解」を探しちゃうんです。でもその時の正解は「人から見ての正解」であって、「いい妻」「いいママ」「いい女性社員」としてどう行動すべきかというような、「他人の物差し」での答えなんですよね。これからは正解を探すのではなく、自分軸で「これだ!」と決めたことを「正解にする力」を伸ばしていきましょう。
じゃあ自分にとっての正解は何かといえば……幸せになることですよね。あなたが満たされることなら、それはなんでも正解! 私たちが悲しい時は悲しいし、嬉しい時は嬉しい。いつだってあなたの気持ちは全部正しくて、間違いなんてことは絶対にない。
だからまずは、自分の気持ちをまるごと認めてあげてください。「今日はもう疲れて何もできない」と思ったら、その瞬間にウーバーイーツ決定です。ヘトヘトの体にムチ打って家族のために一汁三菜なんて作らなくていいんです。体力と時間を温存した自分を褒めてあげましょう。だってそれは、あなたの人生を前進させるために必要なデリバリーだったんですから。
それと、「○○ちゃんのママ」といったような、子どもを介した繫がりだけのママ友は、互いに比較の対象になりがちです。「あの子はもうトイトレが完璧なのに」とか「私は何もしてあげていないダメな母親だ」といったように、ママ友と比較して意味のない自分いじめをしてしまう。でもそれって、あなた自身にも子どもにも失礼です! そういった意味でも、「自分軸」があればキラキラママを見ても比べず、揺らがなくなるはずですよ。
洋梨ひとつ自由に買えない
自分にうんざりした
自分の人生を生きるには、仕事は必須ですか?
経済的に自立していないと、自分に決定権が何もありません。専業主婦だった時、スーパーで800円くらいする立派な洋梨が食べたくて買おうとしたことがありました。でも夫から「それセール品じゃないよね」と言われた瞬間、「ごめんなさい」と言ってすぐ売場に洋梨を戻したんです。彼は悪気なく言ったんですが、私は稼いでいない負い目から、反射的に謝ってしまった。それまでの私は、「娘を1人にするのはかわいそうだから仕事ができないのは仕方ない」と、自分に働かない言い訳をしていました。でも、「洋梨事件」で目が覚めました。
経済的に自立していないと洋梨ひとつ、自分の意思で買うことができない。とても惨めで、自己肯定感も上がりません。それに頼みの綱の夫がいつまで元気でお金を稼いでくれるかなんてわからないし、離婚する可能性だってゼロじゃないですよね。
年功序列も終身雇用も崩壊し、夫婦だって一生を添い遂げるカップルはどんどん少なくなっていくでしょう。国や会社が敷いたレールを走っていけば安泰に暮らせた時代は終わり、これからの時代は「個人」の力が物を言うのです。
専業主婦とフルタイム正社員の
生涯年収差は2億円以上
英国オックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授は以前から、2030年頃には約50%の仕事がAIに取って代わるという試算を発表しています。また、専業主婦の女性と、大学を卒業してから正社員で働き続けた女性との生涯年収の差は2億円以上とされています(「ユースフル労働統計2019」より)。正確な情報に触れると、「いい妻」「いいママ」だけで50代まで過ごしたまま、老後は孫の面倒を見て暮らすことが現実的なチョイスかどうか、疑問が湧いてくるのではないでしょうか。
とはいえ、これまで働いた経験がなく、好きなこともなくて何から始めればいいかわからないという方もいるでしょう。ここでひとつ断言します。あなたは必ず、経済的に自立できます。私のもとに相談にやってきた方の中には、「自活できる自信がない」とおっしゃる方もいます。でも母親は子どもを食べさせるためならいくらでも強くなれるし、日本女性の優秀さは尋常じゃありません! だから、経済的に自立すること自体はたいして難しくありません。問題は、できることならやりたいことで、自分の好きなことでお金を稼ぐ方法ですよね。
そんな方は、「自分の好きなもの、得意なことを見つけるために10の行動をする」ことをゴールにしましょう。たとえばよくアニメを見る方は、原作ラノベも読んでみる。ついでにコミカライズ版も読んでみる。これでもう2つ、行動したことになります。これならできそうじゃないですか?
夢は小さく、
ささやかな成功を積み重ねて
子どもが小さい時に「税理士になる!」みたいな大きな目標を立ててしまうと挫折しやすいうえ、できなかった時には自分を責めてしまうので、自己肯定感が上がりにくい。今の時代、「目標のハードルを高くして自分を引き上げろ!」みたいなスポ根的精神は時代遅れ。ハードルが高すぎるとくじけやすいし、目標を達成する前に世の中がどんどん変化してしまって、ライフステージにもフィットしなくなり、ゴールがますます遠のきます。
好きなことを仕事にする秘訣は、小さく夢を持ち、ささやかな成功を見逃さないことです。私たちは減点法で育ってきているから、できない部分ばかりにフォーカスを当ててしまって、自分の良いところを見つけるのがとっても下手くそ。でも小さな成功を積み重ねると、どんどん自分が大好きになる。そうして自分が本当に大切な存在だと思えた時、胸の奥からバーンッとパッションが湧き出てきます。その〝情熱の芽〟を大切に育てて、ぜひ子育て後の人生の柱にしてほしいですね。
子育て後の50代は最高よ〜。時間もエネルギーも全部自分のために使えて、これまで見送っていたことに全部チャレンジできる。私は今が人生で一番楽しいんです!
Shigeko Bork’s history
▲仕事も子育ても完璧にこなしている(ように見える)キラキラママと比べ、「なんて自分はダメなママなんだろう」と自己嫌悪に陥っていた専業主婦時代。
▲一人娘のスカイさんが取り組んでいたバレエをボークさんも全面的にバックアップしたが、ほろ苦い経験も。
▲「全米最優秀女子高生」コンクールの授賞式に家族で参加。
▲現在スカイさんは家を出てNYにあるコロンビア大学に在学中。「18歳になって大学に送り出すまでが私の仕事だと思っていたので、もう子育ては終わりですね。自立した子どもに育てておけば、トラブルにも自分で対処します。電話がかかってくるのは本当に困った時だけなので、夫と毎日、『今日もスカイから電話がなくて良かった!』と話しています(笑)」
『子育て後に「何もない私」にならない30のルール』
著:ボーク重子/出版社:文藝春秋/定価:1,400円+税
「全米最優秀女子高生」コンクールでグランプリを獲得した娘を育て上げたスーパーマザー、ボーク重子さんはかつて、「何もない自分」に悩んでいた……。人生100年時代、子育て後に空の巣症候群にならないために必要なことは何か? ボークさんの体験談と共に紡がれるアドバイスは、「これから」を生きるすべての女性必読です。
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*VERY2021年4月号「子育て後「何もない私」にならないために今できること」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。