中学受験の母の悩みを解決 「来年から小4。塾選びはどうしたらいいですか」 [受験進路相談室]
Sさんの場合
【家族構成】
夫、長男(小3)、長女(年長)
【今回相談する子どもの状況】
小3男子 中学受験塾はなし。公文は年少(4歳)から通っていて、年長終了時までは国語のみで4学年先まで進んだタイミングで終了。小1~3までは算数のみで、4学年先まで学習が進んだところで、コロナ禍の休室のタイミングで退塾。
今年まで受験はしなくてもいいかと思っていたのですが、漫画『二月の勝者』を読んでやっぱり受験させようと思いました。なぜか本人もやる気です。公文はずっとやらせていましたが、親が中学受験をしていないので、やりすぎ?もうちょっとやってもいいの?の基準がよくわかりません。一般例に沿うならば来年2月からの通塾になりますが、コロナの影響はまだまだ続きそう。やはりこれからの中学受験も小3の2月スタートという波に乗るべきでしょうか? その際の塾選びのポイントを教えてもらいたいです。また、志望校についてもおおたさんのおすすめを教えてほしいです。
S:3年生の男の子で長いこと公文をやっていて、G教材(中1相当)までは終わったのですが、メリットと弊害を感じました。いまは公文を辞めてZ会を始めたんですけど、なかなか終わりません。私も夫もずっと公立で中学受験に対するノウハウがなくて、3年生くらいってどう過ごせばいいかを知りたいです。
おおた:公文で家庭での学習習慣ができているのはすごいメリットだし、公文の正しい使い方。しかも3年生でG教材まで進んでいるのは、中学受験をする上で圧倒的に有利。そこで思い切って公文を辞めてZ会にしたというのも、中学受験を意識した時にいい選択だと思います。東大理Ⅲに行っちゃうんじゃないかっていうくらい、王道です(笑)。
S:公文は最後のほうは泣きながらやっていて、合わないことをさせていたかなとは思って。
おおた:しんどさがありながらもそれをクリアできたのは、お母さんの付き合い方が上手だったんだと思う。そこでZ会に切り替えたとなると、頭の使い方が変わるので、今までのテンポでは進まなくなるのは仕方がないですよね。でも予定の時間が長引いちゃってる時にどうするかっていうのは難しい判断です。時間がかかっても子どもが一生懸命頑張ってるならやらせたらいいと思うし、嫌々になってるなら、どこかで区切りを付けようって介入するのも必要だと思う。このままやらせたら勉強嫌いになるなとか、心が傷つくなとか、そういうのは親の目で見るしかないんですよね。でも、お母さんはすごくいい目を持っていると思うから、自分の目を信じて、今日は頑張れそうだなとか、駄目そうだなとか、押したり引いたりしながらやってみる。公文もこれだけできた親子だから、Z会も続けられると思います。中学受験勉強を開始する前段階としては言うことないのでは?
S:あと、公文の時の癖で、とにかく早く埋めて出すっていうのが身についちゃってて、見直しをやりたがりません。まだ3年だからほっといていいのか。見直ししなさいよって言ったらいいのか。
おおた:たしかに「公文出身の子は見直ししない!」って愚痴を塾の先生からよく聞きます(笑)。理想を言えば、見直しは一緒にやってあげてもいいかもしれない。コツや要領がわかるようになるまで少し伴走してあげたらすぐできるようになる気がします。口で説明するんじゃなく、一緒にやってあげる。ただし、そこで100%を求めない。
S:今は楽しくやろうって思ってるんで、あまりうるさく言わないようにしているんですが、気が散っていたり、字が汚かったりというのもほっといていいんですか?
おおた:それは注意して直るものでもないし、注意がやる気をそいでしまうこともあるので、言わないでいられるなら言わないでいいんじゃないかなって。塾の先生もそんなこと言わないですよ。
いいクラスに入れてくれるところに入ればいいんじゃないかなって思います。
S:では、塾はどうやって選べばいいですかね? 両親とも、中学受験のことをまったく知らないものですから。
おおた:Z会にある程度慣れた状態で入塾テストをいくつか受けてみれば、多分それなりの点数を取れるんじゃないかと思います。しかも、公文で小学校の範囲は終わってるわけだから、最初からいいクラスに入れるんじゃないかという気もします。お住まいの地域からしても塾は選び放題だと思うから、とりあえずいくつか入塾テストを受けて、一番良かったところに入ればいいと思う。
S:成績で選んでいいですか? 塾のタイプとかっていうのは考えなくても。
おおた:塾のタイプはたしかに色々あって、世の中的に言われている違いはその通りだとは思うんだけど、じゃあその子がどこに合っているかって、いくら考えても僕はわからないと思うんですよ、やってみないと。
S:体育会系の子だと、早稲アカがいいとか言われますけど……。
おおた:性格が体育会系でも、あれだけの宿題の量をこなすだけの計算力と処理能力や忍耐力があるかは、また別だから。スポーツができる子が早稲アカに入ればいいかっていうとわからない。それなら、入塾テストを受けてみて、一番いいクラスに入れるところを選べばいいと思う。
S:入塾テストで良い成績が取りやすいっていうのは、その塾で伸びるっていう要素もありますか?
おおた:すごく単純に言えば、一つの指針にはなると思う。だから、いいクラスに入れてくれるところに入ればいいんじゃないかなって思います。でも多分、僕の予想ではサピックスに入ると思うけど(笑)。外れたらごめんなさいね。
S:サピックスって層が厚いと聞いたので、一番上に入らないとついていけないのかなとか、うちとは違うんじゃないかなって勝手に思ってたんですけど。
おおた:入塾テストは受けてみたらいいと思いますよ。それでアルファに入れたら入っちゃえばいいと思う。
S:今はまだコロナという特殊な時期で、オンラインをやっているところがいいよとか、ママ友からいろいろ情報をもらいます。つい人に勧められたほうに流れてしまいがちなのですが、流されず、いつまでも迷っていないで、3年生の2月に入塾したほうがいいっていうことなんですかね?
おおた:小3の2月に入塾するのが、子どもにとって一番ストレスが少ないと思う。2月に新しい子たちが来るっていうのを前提で、先生たちもやるから。後から入っていくと温度差を感じるし、先生も後から入ってきた子に手当てをする余裕がない。あえてズラす必要はないと思います。あとは、コロナだからっていうので塾選びがどうなるかは僕にもわからないですね。
(学校を)選んでやろうと意気込むのではなくて、自然体で構えている時に出会いってあるもの
S:SNSだと、サピックスはコロナへの対応がイマイチで、早稲アカはオンラインがすごかったっていう評判を見たのですが。
おおた:SNSの情報に振り回されてしまうのは避けたいですよね。参考にはなるけど、悲劇も山のように起きていると思うから。僕はSNSってあんまり見ないけど、企画で必要で見た時に本当にロクでもない事しか書いてなくてびっくりしました。8割9割はクズ情報だから、あれを真に受けたら8割9割の確率で痛い目に遭うってことですよね。
S:いまコロナ禍で学校に足を運べる機会も減ってしまったから、学校選びでは、SNSの生の声が貴重だなとも思っていて。
おおた:コロナ禍でなくても永遠のテーマですよね。すべての学校を視野に入れてその中から絞り込むってできないので。でもそこは、結婚相手を選ぶ時に、すべての男性に会って選んだわけじゃないですよねって。ご縁がある中から選んだんだよねって。学校選びもそうならざるを得なくて、選んでやろうと意気込むのではなくて、自然体で構えている時に出会いってあるもの。実は今、母校の麻布の本を書いているんですが、卒業して30年以上経って初めてわかる価値もある。それが現役生にわかるわけがないんですよ。元気に学校に通っている子どもたちは基本的に自分の学校を悪くは言わないので、彼らの話を生で聞けばモチベーションを高める効果は大きいと思いますけど、その学校のリアルがわかるかと言ったら、そんなことはないです。幸いなことに今はホームページが充実していますよね。そこで受ける印象はすごく参考になると思います。ホームページから受ける印象は、わりと学校の雰囲気をそのまま反映しているなと思うことが多いです。
S:ある程度都心で共学でのびのびってなると、結構選択肢がなくて。
おおた:共学でのびのびというのなら、大学付属校はありだと思う。
S:農大一中はキャンパスの環境がいいし、誰に聞いても評判が良くて。周りでも流行っていて(笑)。渋渋は単に立地がすごくいいのと、先生があまりうるさくない校風だっていうのがあって。その感覚で都市大と言ったら、「あそこはまたちょっと雰囲気が違うよ」って言われたり。男子校だと麻布って言われるんですけど。男子校ならではの良さってありますか?
おおた:思春期って自分の人格をつくる時期じゃないですか。男子校で良かったのは、その時期に異性を意識しなくていいこと。共学に行くと異性のクラスメイトからどう見られるかっていうのが、自分づくりにどうしても影響を与えてしまうから。そこでもしクラスの中が、北欧のようにジェンダーギャップの小さい社会の縮図として成り立っているなら、そこは理想的なジェンダー教育の場になりますよね。でも逆に、今のジェンダーギャップが大きい日本の社会の縮図になっているならば、女の子が料理をするべきだとか、リーダーは男子じゃなきゃとか、そういう価値観が再生産されちゃう可能性がある。
S:共学に行けば、自然にジェンダー意識が身につくわけじゃないんですね。
おおた:男子校に行こうが共学に行こうが、どっちにも良さはあるので、選択の意味を理解しておくこと。男子校に行ったからこうなっちゃうとか、どっちがいいとかは言えないと思う。
S:どっちでも入ったら大丈夫っていうことなんですかね?
おおた:別学が向いてるとしたらすごいオタクか、すごいやんちゃな子ども。ボリュームゾーンから外れる子は、別学の方が居場所が見つけやすいかもしれないけど、そこまで極端じゃなければどっちでもいい。
S:どっちかっていうと、凝ったら凝るタイプなので、男子校も悪くないのかもしれないですね。
おおた:子どもはどんな環境に行ってもその環境で学ぶべきことを学びます。逆に、その環境で学べないことは、親が意識して埋め合わせてあげるのが理想だと思います。夏休みの間にサマーキャンプに行って、世界中の男女と一緒になれば、国籍も性別も垣根なくっていういい機会になるだろうし。そういう手当ては工夫次第でいくらでもできるはずなので、こっちじゃなきゃと思う必要はないと思う。
S:なるほど。
おおた:お話をしていて、お母さんはすごく親としてのセンスがいいと思いました。今はまだわからないことだらけだと思いますけど、やっていくうちにだんだん情報を精査する眼も鍛えられていくと思う。とらわれてないから、ものを見る時に。
S:よかった!ありがとうございます。
教育熱心でありながら、お子さんを見る目がおおらかで、冷静に状況を見極めようとしている姿勢が印象的なお母さんでした。ものごとをフラットに評価することができて、中学受験の伴走役としてはバッチリなセンスをお持ちのように感じました。誰だって中学受験は手探り。ネットの情報などに振り回されず、ご家族の教育方針に従って一つ一つクリアしていけば、笑顔で中学受験を終えられるはずです。
Profile
おおたとしまさ
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。
著書は『中学受験生に伝えたい 勉強よりも大切な100の言葉』(小学館)など60冊以上。
http://toshimasaota.jp/
イラスト/Jody Asano コーディネート/宇野安紀子 編集/羽城麻子
VERY NAVY 12月号『おおたとしまささんの悩めるママのための、受験進路相談』から
詳しくは2020年11/7発売VERY NAVY 12月号に掲載しています。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。
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