【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす⑫昨日と明日
朝は必ずコ-ヒ-を飲む。
バタバタする朝もあれば時間が止まったような静かな朝もあるが、コ-ヒ-の匂いと咽に落ちる熱さは儀式のように毎日繰り返される。
今日もいつものようにその時間を過ごし犬と庭に出た。
明るい。思いがけないまぶしさに目を細めた。
瞼にその温かさを感じている隙に犬は太陽のひかりが溢れる庭に勢いよく飛び込んでいく。
顔にあたる日差しがあまりにもポカポカして身体の力が抜けていく。気持ちがいい、こんな心持ちになるのは久しぶりだ。世界で私が一番幸せだ、と思うくらいその秋の温かさはふんわりと心身に届いた。
黄色の海。
落ち葉がつもっている何時ものこの場所、海は昨日よりまた随分広がっていた。どこから来たのだろうか、突然ひかりの波が現れる。
それを眺めながら、この前パリに出かけた時に見かけた木々の紅葉や、ここに移住する前の生活のことを思い出した。
大きな森がある今よりもっとパリに近い郊外に住んでいた頃、
毎朝コ-ヒ-を飲み、電車に乗りパリに行きメトロに運ばれて仕事場の花のアトリエへ向かう私は、速足で、街路樹や公園の木々を横目で見ながら通り過ぎていた。
空を見上げる。
今日の天空は青くて沢山の薄雲が見える。
空は平等。
わざわざ探さなくても目に飛び込んでくるような空もあれば都会のように建物の間に見える空もあるが、どんな場所にいても目線を上に向けると必ず空はある。
あの頃、パリで空を見上げていただろうか。
立ち止まることが多くなった今の日々は、昨日と明日の間のスケッチブックのペ-ジを開きどんな絵を描くか、自分自身にじっくり尋ねる時間が増えたような気がする。そしてその繰り返しが遠くの空を見るようにずっと先の« 明日 » のぺ-ジに繋がるのかもしれない。
外出制限がまた始まった。
今回は軽めとはいえ、不安やままならないことが多い中、日々の暮らしで何が変わり何が変わららないのか、をまた見つめなおしてみる。私の日々の基音となるようなものは変わらない。そして, 人と人が遠くなり直接対面できないのは人間性をもぎ取られるようなものだが、誰かを想う心は変わらず残っているだろう。
農園のオ-ナ-がいつものように庭で仕事をしている。
晴れの日、今日は庭仕事の日。
窓辺の鉢にビオラを寄せ植えし紫陽花の植え替えやハ-ブをふやすために移植をすることにした。
家に帰ると、外出制限が出る前日に市役所用のウエデイングブ-ケを作った新婦の方から « 花がその日をより明るくしてくれた »とお礼の言葉が届いていた。よかった。
庭に、自然が残してくれた宝物を見つけ、乾燥した紫陽花と共に家に飾る。
夜が来た。
明日の天気はどうだろう、庭にまた出れるだろうか。
やりたいことはいっぱいある。
明日になればわかるだろう。
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文・西田啓子/ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/