発達心理学の先生に聞く「遊びも読書も“熱中体験”で賢くなる」
発達心理学の第一人者であるお茶の水女子大学名誉教授・内田伸子先生は「10歳ごろまでは読み聞かせを続けて」と教えてくださいました。赤ちゃんの頃から読み聞かせをされている子は、大人になっても読書の習慣が残り、学力が高い傾向にあることがわかっています。
「強制型」ではなく「共有型」の読み方で“賢く”なる
文字を覚えさせたり、記憶力を高めたいと“下心”をもって読んではいけない、大切なのは親子でゆったり楽しむこと……そう前回の記事で教えてくださった内田先生。でも、読み聞かせで賢くなってほしいと思うのが親心。どんな本を、どんなふうに読んだらいいのでしょうか?
「それはもちろん、『子どもの好きな本』です。小さいうちはお母さんの好きな本で、大きくなったら子どもの好きな絵本がいいでしょう。好きなものじゃないと、子どもは頭も心も身体も働きません」
絵本も遊びも、好きなことに夢中になってこそ子どもは“賢く”なるのだそう。
「子どもにとっての遊びとは、自発的な活動で、頭(ブローカ野<ことばを組み立てる言語野>・海馬<記憶>や扁桃体<感情>)が生き生きと働いている状態を指します。そういった遊びを通してこそ、これからの時代に必要な『非認知スキル』(他者と付き合う力・感情を管理する能力・目的を達成する能力)が育つんですね。
『◎◎しなさい!』と子どもに考える余地を与えず、指示的・トップダウン介入的な強制型な声かけではなく、考える余地を与え、子どもに合わせて柔軟に調整し、3つのH(褒める・励ます・<視野を>広げる)の言葉かけが多い『共有型』しつけをしている家庭ほど、語彙力が向上することがわかっています。絵本も、お話を記憶しているかテストする強制型しつけのような読み聞かせ方は子どもを本嫌いにしてしまいます。
また5歳過ぎから、子どもはなぜ?とよく質問するようになります。その時に親は、子どもに回答や解説をしないで、『どうしてなんだろうね?』『なぜかしらね』と返しましょう。そうすれば、子どもが対案を出してきます。それに対して親が『よく考えたね』『そうだね』と共感的に受け止めて。そうすることで、論拠や根拠を挙げて説明する力が育ちます。
賢さにもいろいろありますが、こうした共有型のしつけをされた子はいわゆる偏差値が高くなる傾向もあります。
小学校就学前に取り組んだことを調べると、高偏差値の難関大学(偏差値68以上)を突破した子どもをもつ親は、子どもが幼児期には、『子どもを思い切り遊ばせた』『子どもといっしょに遊んだ』『子どもの趣味や好きなことに集中して取り組めるようにした』経験が有意に高いという結果が明らかになりました。また、『絵本の読み聞かせは赤ちゃんの頃から行った』との回答が多く、乳幼児期から親子での絵本を楽しんでいたことが明らかになりました」
子どもの楽しい!が自尊心も育てる
「扁桃体が『楽しい、面白い』と感じていると、情報処理の指令を出すワーキングメモリーに情報伝達物質がどんどん送られて、海馬を活性化します。その結果、情報をどんどん記憶貯蔵庫に蓄えられるようになるんです。叱られてやった勉強は身に付かないものですが、自分で好きなものに熱中しているときは、探究心や知的好奇心が湧いてきます。熱中しやり遂げたという実感が得られ、自尊心が育つんですね」
その積み重ねが、小学校以降の学びへとつながります。
「『好きこそものの上手なれ』を続けた結果、子どもの学力、将来の生きる力につながるような『創造力・想像力』(拡散的思考力)が育つのです。これがPISA調査や学力テストの文章題で力を発揮する学力の基礎となります」
絵本を読む時間は、子どもへの贈り物!
「幼児初期の絵本で語られる出来事は、自分の日常や現実とかけ離れた世界のものではありません。今の自分の経験を整理する枠組みを与えてくれるものです。それがやがて、聞き手の体験を超える橋渡しになり、未知の現実を想像したり、他人の気持ちを理解する糸口になっていきます。
何度でも同じ本を読んでいい、と前回言ったのは、たとえ同じ本であっても、そこから子どもが受け取る心の栄養は日々違ったものになるからです。昨日とは違った感触を味わいながら、子どもは毎日新しい発見をするものです。
読み聞かせをするときは、テレビを消して、お母さんお父さんの声に集中できるようにしましょう。絵本の読み聞かせは、親子が心を通わせるチャンスですから」
親と一緒に絵本を楽しんだ子どもは、大人になっても本が好き
「スマホやiPadが現れても、小さな頃から読み聞かせを親と楽しんだ大人は読書が好きなことは変わらないという調査があります。読み聞かせの中で安心してお母さんお父さんと一緒にいろんな世界を冒険した体験は、大人になっても残っていくのですね」
大人になっても本が好きなら、人生の楽しみがひとつ増えますよね。子どもに残してあげられる素敵な財産ではないでしょうか。
内田伸子先生
お茶の水女子大学名誉教授、IPU・環太平洋大学教授・福岡女学院大学大学院客員教授・十文字学園女子大学理事・特任教授。近著に『AIにまけない子育て ~ことばは子どもの未来を拓く~』(¥1,980/ジアース教育新社)がある。
『「頭がいい子」が育つ家庭の8つの習慣』(日経DUAL編 ¥1540税込/日経BP)発達心理学・保育学の専門家である内田伸子先生はじめ、著名人や専門家が「子どもの力を伸ばす方法」を指南。
取材・文/有馬美穂