絵本作家tupera tuperaさんが語る「美術館で楽しむ親の後ろ姿を見せてほしい」
(撮影/吉次史成)
絵本『うんこしりとり』『パンダ銭湯』『かおノート』など、クスッと笑えるユーモラスな作品が大人にも子どもにも大人気のtupera tupera(ツペラ ツペラ)は、亀山達矢さんと中川敦子さんご夫婦の作家ユニット。今年オープンしたばかりのミュージアム「PLAY!(プレイ)」で企画展「tupera tuperaのかおてん.」を開催中です。そんなお二人に、親子での美術館の楽しい方を聞いてみると、「大人こそアートを堪能してほしい」との意外な返答が。お二人の「ラフに楽しむ」アートと子育て観は、親子のコミュニケーションのヒントになることばかりでした!
美術館では「大人が本気で楽しむ」のがいちばん
──立川に新しく出来た美術館で企画展「tupera tuperaのかおてん.」を開催中です。
中川敦子さん(以下中川):もともと美術館に行くのが好きだったという方も、子どもができると、他の人に迷惑をかけてしまいそうとか、途中で子どもが飽きてしまうかもと考えて足が遠のいてしまいがちではないでしょうか。でも、私たちの展覧会では「これで子どもが美術館デビューしました」とか、「今まではあまり美術館に馴染みがなかったけれど、子どもが好きな絵本の展覧会なので来ました」という感想もよくいただくんです。「PLAY!(プレイ)」は、子連れはもちろん、老若男女楽しめる場所なので年齢の垣根を超えてたくさんの方に見てもらえる場になったらうれしいです。アートを見るぞと意気込むのではなく、ふらっと気軽に来てもらったほうがその人たちなりの気づきがあると思います。
──お子さんの美術館デビューにもよさそうですね。
中川:とはいえここは美術館なので、何をしてもOKというわけではなく、お子さんも「ここはちょっと特別な空間なんだ」とある程度の緊張感をもって入るということもとっても大事なことです。意味での緊張感や作品へのリスペクトを持ちつつも、一般の美術館より自由な気持ちで見てもらって。別に順番通りに見なくてもいいし。親子で笑ったり会話しながら見てもいい。
亀山達矢さん(以下亀山):子どもそっちのけで親が楽しんでいたり、作品を見た感想をその場で話したり。そういう場面をぜひお子さんに見せてあげてほしいです。企画展で展示されている「絵本の原画」って、実は子どもはどうでもいいんですよ(笑)。子どもは完成した絵本を読むほうが好きだから、作品づくりのプロセスはどうでもいいことが多い。ただ、大人が好きな絵本の原画を見て感動している後ろ姿を子どもが見る。そういうのがすごくいいなと思っています。
中川:「子どもの情操教育のためにアートに触れさせよう」って意気込むのではなくて、「お母さん、なんか真剣に見てる。楽しそう」と感じたら、小さな子どもも興味を持つかもしれないし。子どものために、というよりも大人に楽しんでほしいんです。
亀山:アートは難しそうなんて思わないほうがいいですよね。僕なんてここだけの話ちょっと小馬鹿にしているというと語弊があるかな。現代美術とか心の中で「なんだこりゃ」とニヤニヤしながら見ています。それをもっともらしく説明している人にもニヤニヤ。所詮は人間が作った物ですから、それを高尚な芸術だとか言ってる時点でちょっと馬鹿馬鹿しいなぁと思うんですよね。子どもたちは、何にも考えずに楽しんでいるはず。有名作家の作品かどうかといった先入観がないから自分の沸点に合わせて面白さや魅力を発見している気がする。
この世に生まれた瞬間が「感度マックス」です
──「かおてん.」はどんな展覧会なのでしょうか?
中川:展覧会の入り口で顔に貼る「かおシール」シールが配られるんです。これを顔に貼って入場します。
亀山:お客さん自身も僕らの作品に変身させちゃおうって趣向です。
中川:それから作品を覗いたりする「かおルーペ」も配られます。前半は、顔をテーマにした絵本の原画の展示になっているので、それをじっくり見てもらいながら進んでいくと、ぐるぐるの渦巻きに吸い込まれるような作りになっていまして、そこから体験型の展示が始まります。このあとはぜひ行って体験してもらいたいですね。親子連れだけではなくて、高齢の方でも、高校生のカップルでも誰にでも来てほしいと思います。
亀山:「子どもより楽しんでやるぞ」という気持ちで来てくださいね。絵本ってどうしても子どものもの、親子のものと思われがちなんですけど、僕は、全然そう思ってなくて。誰だって昔は子どもだった訳で。なんでも面白がれる才能を持っていたはずなんですよね。
中川:言ってみれば、子どもは生まれた瞬間が感度マックスじゃないですか。ピカピカのままで産まれてきて、成長過程で磨かれていくこともあるけれど、知らず知らずのうちに感度が落ちていく部分もあると思うんですよ。子どもって未熟な存在だと思われているけれど、大人より、感覚的に優れていたりする部分がきっとある。素直に心も体も反応できる年齢です。
大人になってしまったけれど、子どものころの気持ちを思い出して共感することはできると思う。子ども心、むき出しで楽しんで欲しいですね。笑うと、免疫力が高まるらしい、なんて話もあったと思いますので。
中川:今はみんなマスクをして入ってくるので、マスクの上からもシールを貼ったりしてもらいます。マスクをしてる時としてない時で皆さん印象も違うので、顔ってやっぱり改めて面白いなぁと感じましたね。
亀山:あんまり見つめたら怪しがられますが、すれ違う人がどんな顔か想像してみるのも楽しい。こういう状況下だからこそ、残念とか大変だと思うだけではなくてイマジネーションを掻き立てられる機会でもあるというか。
芸術は「誰かとつながるために」あると思う
──お二人にとって「絵本」はどんな存在ですか
亀山:近年、絵本の展覧会が増えているのがうれしいです。絵本の原画というのは、一枚ずつだと未完成の絵なので、アート性は低いと評価される傾向はあると思います。でも、最近は絵本の原画展に足を運んでくれる人が増えているので、今後の日本のアートシーンでの絵本原画展の立ち位置がどう変わっていくのか興味深いですし、期待しています。絵本だけではなく絵画も音楽もアートはつまるところ「共感するため」にあると思うんです。僕らも絵本を作って、それに共感してくれる人に会ったら、すごく嬉しい。
中川:「パンダ銭湯が好き」なんて聞くと「いい趣味してるね」って(笑)。
亀山:すべての芸術が、自分と相手の好き嫌いを理解して、共感して、つながるためにあると思うんですよね。親子ならなおさら、絵本やアートなどそういったものを通じて共感していく経験が大事。
中川:あ、もちろん「これは嫌い」でもいいんですよ。「この展覧会いまいちだったね」、という感想があったってもいい。
亀山:「嫌い」も大事ですよね。同じ作品を見て親は好きだけれど、子どもは嫌いと思ったっていいと思うんです。僕たちは、親子だけれど違う人間だね、ということをいろんなものを楽しんで見ながら発見することも大事ですよね。
中川:「かおてん.」は、顔というものをこんな切り口でみたら面白いんじゃないかとか、こんな風に顔を作ってみたら、面白いよという提案の場みたいなもの。私たちだったら、顔でこんな風に遊ぶよという展覧会ですが、来てくださった人が会場を一歩出たら、街中のビルでも何でも顔に見えるみたいな。そんな現象が起きるかも。
亀山:点が三つあれば、顔に見立てられるから、人は、顔に注目しちゃうんですよね。家では洗濯物をたたむときに洋服で顔を作って名前をつけたりして子どもと遊んでいます。「これ、『あらいふくこ』ですよ」なんて名前を。
中川:街に出て、切り株でも石ころでも何でもいいんですけど。顔に見立てて名前をつけると面白い。
亀山:河原の石ころで「『石川岩五郎』です」、とか、そんなかんじで普段から遊んでいます。画材がなきゃ絵が描けないとか、公園に遊具がないと遊べないとかじゃなくて、そのへんに転がっている石ころだって楽しめるんですよね。外出自粛で家で何にもする事がなくて家事も山盛り。でも洗濯物をたたむ前に顔を作ってみようか、とどんなことでも遊べる柔軟性があったほうが毎日が楽しくなると思います。子どもは、こういうときなんぼでも遊ぶ事ができるんですよね。でも子どもなりに気を使って、親の顔色を伺って、「これをやったら怒られるかな、やめとこうかな」なんて思っちゃう。こんなとき、子ども以上に弾けるのが得意な大人が増えてきたら、いいですよね。そういう事を感じてもらえる展覧会になっています。
あの名画家だって、「絵を描くのが大好きなおじさん」だと思う
中川:私たちもクリエイターとしてものを作ってきて思うのは、有名画家とか大御所というのはあくまでも結果論だということ。人間国宝になったような人でも、作品を作るのが大好きでとにかく楽しくて、続けてきた結果、すごいって言われるような人になっただろうから。
亀山:美大に入ってから24年間、ずっと手を動かしてものづくりをしてきました。そのせいか、美術館に行くと作り手のシンパシーを感じるようになって、「これ作るの楽しかっただろうな」と共感できることが増えてきたんですよね。「これを描いたときは、きっと、こんな気持ちだったはず」とか。そういう発見ができることがうれしいです。没後何十年、何百年の巨匠レベルになると、名前だけで「おおっ」と思われるけれど。
中川:巨匠と言われても、本人は絵が大好きで仕方ないかわいいチャーミングなおじさん、という風にも感じます。作家本人の写真を見ていても、チャーミングな方が多いですよね。
亀山:愉快なおっさんが描いていたと思えば面白いと思うんです。作品の背景とか難解なことを知らないとアートを語れないと思っている人もいるけれど、人それぞれの楽しみ方でいいと思う。もっとラフな気持ちで見るから見えてくるものもあると思うんですよ。
tupera tupera(ツペラ ツペラ)
亀山達矢と中川敦子によるユニット。絵本やイラストレーションをはじめ、工作、ワークショップ、アートディレクションなど、さまざまな分野で幅広く活動している。絵本『かおノート』『やさいさん』『いろいろバス』『うんこしりとり』など、著書多数。海外でも多くの国で翻訳出版されている。NHK Eテレの工作番組『ノージーのひらめき工房』のアートディレクションも担当。絵本『しろくまのパンツ』(ブロンズ新社)で第18回日本絵本賞読者賞、Prix Du Livre Jeunesse Marseille 2014 (マルセイユ 子どもの本大賞 2014 )グランプリ、『パンダ銭湯』(絵本館)で第3回街の本屋が選んだ絵本大賞グランプリ、『わくせいキャベジ動物図鑑』(アリス館)で第23回日本絵本賞大賞を受賞。2019年に第1回やなせたかし文化賞大賞を受賞。京都造形芸術大学 こども芸術学科 客員教授。(撮影/RYUMON KAGIOKA)
〇美術館×遊び場の融合。大人子どもも楽しめる「PLAY!」?
2020年6月、東京・立川駅北口にオープンした新街区「GREEN SPRINGS」に、美術館と子どもの遊び場を中心とする複合文化施設「PLAY!」が誕生。絵とことばがテーマの美術館PLAY! MUSEUM(プレイミュージアム)と子どものための屋内広場PLAY! PARK(プレイパーク)のほか、ショップやカフェも充実。親子で一日たっぷり楽しめます。
企画展「tupera tuperaのかおてん.」
会期:2020年6月10日(水)-12月29日(火)
クリエイティブ・ユニットtupera tupera(ツペラ ツペラ)による「顔」をテーマにした展覧会。『かおノート』など人気絵本の原画をはじめ、平面・映像・立体とさまざまな表現の新作をたくさん展示します。