「夫にもの申したくなるのは、日本社会のせいなのかも!?」SHELLYさん×宋美玄さん×田中俊之さん県談・後編
産後は、人生で最も精神的にも肉体的にもハードな時期。それなのに「ママになる幸せ」「母は強し」という前向きすぎるイメージをぼんやり抱いたまま、この一大事に丸腰で挑んでしまう場合の多いこと――。「こんなはずじゃなかった」と思うママが多い現状について3名の著名人に鼎談を依頼しました。すべての夫と妻への緊急メッセージ!後編は、男性の育児参加についての社会の理解は深まってきたのか?夫が子育てに積極的になるには?がテーマです。
>>前編「産後、妻が夫にモノ申したくなる理由」
子どもができたら、
「家族のためにもっと
仕事をがんばらなくては」と
思う夫とのすれ違い
田中 本の中で、ミルクに水道水を入れようとした夫がいましたよね。まだまだ育児に不慣れな男性が多いのも、今の日本のリアルというか……。男は結婚したり子どもができたりすると、より仕事をがんばろうという認識が芽生えるんです。日本の場合は男女の賃金格差もあり、男は家庭にいるよりも外で働いたほうがいいと思ってしまう。今、賃金格差は男性が100に対して女性は70なんです。
宋 私は男性にも育休を取ってほしい。妻が産後どんな生活になっていくのか2週間でもいいから24時間妻と同じ生活をすれば、よもや仕事に復帰しても、子どもと遊んでいるだけが育児とは思わなくなるんじゃないですかね。
SHELLY よく日本では、父親は子どもに愛情がわくのがゆっくりと言いますが、これって刷り込みなんじゃないかと。女の人ができて当たり前で、男の人は何もわからないっていうのもそう。男に対する期待値が低いなあと思います。
宋 よくパパは加点、ママは減点って言いますよね。ママは完璧な親じゃないとだめな親だけれど、パパはちょっとやっただけで偉いとなる(笑)。
SHELLY そう! 悔しいけれど、スーツ姿のパパが自転車の前後に子ども乗せてたりすると、すごいな送りに行くんだ〜と思ったりすることも。でもよく考えたら、すべてのお母さんやってるよ!って。
宋 昔はパパが保育園に送ったりすると恥ずかしい時期がありましたね。
田中 「平日昼間問題」ですね。定年前の男性が昼間うろうろしていると、働いていなくて怪しいと思われる。僕も、平日の昼間に公園に連れて行って、習い事の時間がきたからと嫌がる子どもを無理矢理自転車に乗せていたら、「誰か助けて」って叫ばれたんです。それだけで途端に誘拐感が出ますよね(笑)。
宋 (笑)。犬山紙子さんの旦那さんが誘拐犯と間違えられたのと一緒ですね。
宋 美玄(そん・みひょん)/産婦人科医、医学博士。丸の内の森レディースクリニック院長。産婦人科医としてメディアで発信するほか、セックスや性教育に関する著書も多数。
家事育児がまだ社会的に
評価されない風潮。
男は育休が怖い!?
田中 上司がどういうタイプかによりますが、単純に評価が下がる現実がある。いま企業でも男性に育休を取らせる場合が増えていますが、男性側が抵抗感を示す場合がかなり多いと聞きます。今後評価に響かないか、あと単純に日本の男性は就職したら定年まで有給もろくに取ったことがないので、単純に休むのが怖いんです。これは根深いことだと思います。中高一貫の進学校から一流大学に行き、一流企業に就職し大黒柱としての強度を増すというのが、良き夫で父であるという成功ルートしか示されたことがない。競争に勝てなくなるかもしれない事態は、全て恐怖で、その典型が育児休業。それは共感してもいいと思う。
宋 もちろん男子が背負わされてきたものもわかる。でも今こうやって社会の仕組みや価値観が多様化してきた中で、男性でも女性でも育児という経験や、休んだ時のコンプレックス感や不安は、かえって今後の仕事に絶対役に立つと思うんですよ。
SHELLY 経済学でも示されていますよね、育休は、人材教育として1カ月以上の価値があると。
田中 僕は子育てにコミットして、価値観が変わりました。それを評価するようなものがあるかどうかは、別問題ですが……。
宋 まだまだ会社のトップは年上の男性が多いですからね。もっと認められるようになるといいなと思います。
田中 男性の育休取得には良い動きがあって、社会保険料等の免除によりほぼ100%の給与を保障しようという話があります。産褥(さんじょく)期を支える意味は本当は8週間が良いですが、議論されているのは4週間。うちは第1子、2子も大学の長期休みとぶつかったのでずっと見ていたのですが、世の男性が育休を取らないということは、この大変な状態の人が家事をやって育児をやって家で待っているのかと思ったら本当にぞっとしました。日本社会は、女性の我慢を前提に社会や経済が回っているんだと実感したし、これは変えていかなければと。
田中俊之/社会学者、大正大学心理社会学部人間科学科准教授。1975年生まれ。男性学を専門とし、著書に『男性学の新展開』『男が働かない、いいじゃないか!』などがある。
波風を立てないことは不可能。
家族になるために、モノは申していい!
田中 波風を立てないことは不可能なんですよね。穏便に話し合い、事を済ませて分かり合いたいと願うけれど、価値観が違うから必ず諍いが起きる。そうやって家族や親になっていくものかなと。
宋 本を読むと、「ありがとう」の言葉すら得られていない場合があるのかと思ってしまいます。もう、夫婦はケンカしてこそ!っていうキャンペーンしたほうがいいと思う。子どもが一番大変な時に夫婦で分かり合いたいじゃないですか。60代くらいの女性がよく言うのが、「産後の一番大変な時に何も手伝ってくれなかったのに寝室で手だけ伸ばしてきた」とか。でも、夫は全然覚えていないんです。そういうしこりがずっと残ってしまい、時限爆弾みたいになっちゃうんじゃないでしょうか。
SHELLY 妊娠中に感情の起伏があるっていうのを女性自身もわかってなかったりしますよね。
宋 日本だと妊娠すると母になる喜びに包まれてキラキラしている時期って思われるけど、ホルモンも環境もジェットコースターみたいに変わるストレスフルな時期でもあるんです。例えばキャサリン妃も産んだ直後に赤ちゃんを抱っこしてヒール履いてマスコミの前に颯爽と出てきたけれど、産めば元に戻るという誤解を与えるからやめてと思いました。あれは、一瞬だけ頑張ってるだけであって……。
SHELLY 夫たちも、他のキラキラしているように見える妻たちと比べないでほしいな。
SHELLY/タレント。1984年生まれ。14歳でモデルデビュー以後、タレント、MCとして幅広く活躍。2019年11月に離婚し、4歳と2歳の娘と暮らす。
最終責任者になる経験を
パパにしてもらうべき
宋 結局は、自分が最終責任者の状態にならないとダメなんですよね。
SHELLY 女性がもしかしてクラッチになっちゃっているのかな。私が先にやったほうが早いってやっているから、男性の成長の機会を奪っている場合もあるのかも。
田中 夫が完全に子どもを一人で見る経験は必要ですね。子どもが1歳半くらいの時に、妻が旅行に行ったことがあって。丸一日一緒にいたらとっても大変でしたが、いい経験になりました。妻もリラックスできるし一泊二日ぐらい、夫に任せたらいいと思う。
宋 母乳で胸がカチカチの時じゃなければおすすめ。
SHELLY お母さんも過保護になっちゃうから、一度子どもから離れてみるのは精神的にもヘルシーなことなのかもしれませんよね。あと、母乳の人は搾乳したほうがいいと思う。1人目の時は、搾乳をして「今日は俺が見ているから、寝てていいよ」と寝かせてもらえることがあってすごく助かったんです。5時間寝るだけでも疲れが取れるんですよ。おっぱいがパンパンにはなるけど、翌日の体が楽になる。
宋 搾乳器はいろんなことを解決すると思います。出産直後のボロボロの体の時におっぱいを何回もすぐに吸わせないと母乳が出るようにならないというデータがあります。片方直母(ちょくぼ)であげながら、片方搾乳器をつけておくと哺乳量が増えます。おっぱいは、必ずしも直母である必要はないんです。
SHELLY お父さんもおっぱいをあげるのって楽しめることだと思う。だから、ママも自分が全部やらなきゃって思わなくていい。ミルクだってもちろんいいわけなんだし。
宋 そうそう。今は育児をしているパパやママが発言することが珍しくなくなってきましたよね。大変だけど本当に楽しい時間だってあるし、知らなかった幸せもある。大変だけどやって良かったって言う人が増えていくしかないのかな。
SHELLY そうですね。幸せな時を味わいつつも、これから大変なことがくるぞって、心の準備をしておいてほしいし、例えばこういう本を読んで夫と共有したほうが絶対にいいと思う。話し合うことや伝えていくことってすごく大切ですよね。
ママたちの生の声を集めた書籍!
『友達の夫に贈る100の言葉』発売中!
友だちが妊娠した時にアドバイスしたいのは友だち自身ではなく、
むしろその隣にいる『友だちの夫』――。
この本は2019年10月号の本誌に掲載された
『出産前の友だちよりも心配な「友だちの夫」に贈る100の言葉』
という企画に加筆・修正し再編集したものです。
「どうか、これだけは覚えておいてほしい」という先輩ママの血が通った
言葉たちを、せっかくなら〝これからパパになる夫たち〟に届けたいと考え、
男女問わず手に取りやすい書籍という形に生まれ変わらせました。
「妊娠中のふわふわハッピーから一転、産後の子育て&
夫婦関係がこんなに大変になるなんて。誰も教えてくれなかった」
そんな、SHELLYさんの言葉も発売の後押しになっています!
『出産前の友だちよりも心配な友だちの夫に贈る100の言葉』
VERY編集部編 ¥1,200+税 光文社
撮影/福本和洋 スタイリング/松本ま生 ヘア・メーク/盛田菜生(SHELLYさん・宋さん) 取材・文/有馬美穂 編集/羽城麻子
※VERY2020年8月号「SHELLYさん×宋美玄さん×田中俊之さん鼎談『どうして私たちは産後、夫にモノ申したくなるのか』」より