新進気鋭のシェフが手がけるニッポンのフレンチの新しいかたち
魅力的なフランス料理店がオープンしました。
【élan】(仏語で“飛躍”の意)は、信太竜馬シェフが創り出す新たなガストロノミーの世界を堪能できるレストランです。
表参道のビルの4F、木の扉を開けると高い天井、大きな窓とたくさんの木々に囲まれた洗練された空間が出現します。
メニューに記されているのは料理に使われている食材名のみ。
お料理は1月のコースからのご紹介です。
誌面でご紹介したのはこちら「すっぽん 銀杏 春菊 コンソメ」。つくねにすることで、独特の臭みを和らげたすっぽんに、銀杏と春菊の苦みや強い香りを程よく加え、すっぽんから取った出し汁をすっぽんと鶏のミンチで澄ませたコンソメで仕上げた美しいひと皿です。
こちらは「カリフラワー タラバガニ 舞茸 晩白柚」。
クラシカルなカリフラワーのフランをベースにして、その上に燻製にかけたクリームの泡、焼いたタラバガニのほぐし身、舞茸、晩白柚、ヘーゼルナッツを散りばめたひと皿です。
「組み合わせ自体はとてもシンプル。香りが強く、個性のある食材をカリフラワーのフランがまとめている……そんなひと皿です」(信太シェフ)
そして「真魚鰹 根セロリ 蕾菜 そら豆」。
旨みをたっぷり含んだ繊細な身の真魚鰹と、焼いて香ばしさも加わった味わい豊かな野菜たち……菜の花、蕾菜、カブ、そら豆、アリッサムの花……レモンの果皮から採ったオイルをひとかけ、ピューレにした根セロリ、土佐ベルガモットのペーストも爽やかに野菜の美味しさを引き立てます。目に清々しく味わい深いこのひと皿の柱となっているのは真魚鰹に添えられたソース。野菜と白ワインを煮詰めたものを一晩寝かし、それを起こして生クリームとともにまた煮詰め、バターでつないで最後にベルガモット等々のお酒で香りをプラスしたというクラシカルなソース。ため息が出ます。
どれも詩的で美しいひと皿ですが、特に色遣いが印象的です。
「色に関してはどちらかというと淡い色、儚い色使うようにしつつ、コースの流れの中で強弱をつけながら繋いでいくようにしています。最後は肉の赤と黒で強く主張します」(信太シェフ)
驚きと楽しさに溢れるコースにはワインのペアリングがお勧めです。支配人の高橋大樹氏にそれぞれのお料理に合わせたいワインを伺いました。
右・「すっぽん」の皿には、アルザス地方の白ワイン「ジェラール・シュレール ピノ・グリ レゼルヴ2013」。「淡白なすっぽんと焼いて香ばしさを加えた銀杏をコンソメで仕上げる優しくて繊細な料理なので、ほのかに甘みがあり、酸味は強すぎず弱すぎずの中程度、それでいて全体を包み込むような優しいボディのワインを」。
中・「カリフラワー」の皿には、ブルゴーニュ地方の白ワイン「ドメーヌ・バロー プイイ・フュイッセ アリアンス 2009」。
「フランに少量使う乳製品、焼いた舞茸の香ばしさ、しっかりとした旨みの感じられるタラバガニには、旨みの強いブルゴーニュワインを。熟成感のある2009年を選びました。このワインに漂う樽香は焼いた舞茸と相性がいいと思います」。
左・「真魚鰹」の皿には、ボルドー地方の白ワイン「シャトー・ムートン・ロートシルト エール・ダルジャン 2013」。
「ソーヴィニヨン・ブランはグリルした緑の野菜ととても相性がいいんです。また、畑が大西洋に流れ出るジロンド川沿いにあるため、海の食材とも同調しやすいしやすいかなと、イメージを膨らませてみました。ステンレスタンクで造るのが一般的なソーヴィニヨン・ブランを、樽熟させた希少な白ワインでもあります」。
【ロオジエ】、【オテル・ド・クリヨン】という名店で、王道のフランス料理の技術や美学を学び、【ESqUISSE】のリオネル・べカ シェフのもとではそれまでと違う視点でフランス料理を捉え、感性を磨いてきた信太シェフならではのひと皿、そしてコース。
ひと皿、ひと皿の印象はあくまでもシンプルでさりげないけれど、それぞれの食材の味わいや香りとともにしっかりと記憶に残ります。
それぞれの食材を育んだ土地や空気、生産者の想い、毎日通る代々木公園の風や木々の香り、季節の移ろいなど、信太シェフの中にあるたくさんの記憶の引き出しと確かな技術で、忘れられないひと皿が生まれて繋がれます。
コースを食し終えたとき、いい映画を観たような……そんな心地よさに包まれるはずです。
【élan】
東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE 4F
☎03-6803-8670 18:00〜21:00(L.O.)
¥15,000、¥20,000(税・サ別)のコースのみ。ワインペアリングはプラス¥8,000~(5種類/税・サ別)elantokyo.com
*水曜休 2020年1月10日OPEN
撮影/牧田健太郎 取材・文/齊藤素子 構成/川原田朝雄