柴門ふみさん、子どもたちが巣立った今の家づくりの法則とは?
〝断捨離〟という旗印のもと、様々な生きた証しを処分したのも一昔前。
ものへの執着心と、ものとの付き合い方は人それぞれ。
使わなくても愛があれば必要!ということだってあるはずです。
ここでは、整理整頓上手も、好きなものに囲まれたい方も分け隔てなく、その暮らし方をご紹介します。
今回は、柴門ふみさんに結婚から子供たちが巣立った今の家づくりの変化についてお聞きした内容を、1月号本誌より一部抜粋してご紹介します。
〝整えなおす家〟には終わりがない
8年前、今の家に引っ越すまではおよそ25年間、同じ家に住んでいた。
結婚して子供が生まれた私たち夫婦は夫の両親と二世帯で住むために、住宅展示場にあった家族4名を想定したモデルハウスを改装し、最初の家を建てた。
しかし無理やり改装した家は、年月が経つにつれ改装部分に不具合が生じ始め、引っ越して間もなくリフォームを施した。
これがきっかけで、やれ子供が増えた、その子がアトピーだから床を全部フローリングにしよう、子供2人が個室を欲しがり出した、などの必要に迫られ、私は数年おきにリフォームを繰り返すことになったのだ。
最初の家を建てたとき私はまだ20代で、すべてが目新しく、インテリアデザイナーのアドバイスをすべて受け入れ、部屋ごとに壁紙を変え、トイレの便器の色で遊び、全フロアの絨毯の色を若草色に、などの冒険に打って出た。
しかし、今振り返るとこれらはすべて失敗であった。
壁紙、カーテン、トイレの便器の色は、すべて白にすべし。
今の私なら、こう断言できる。
試行錯誤を経て、人生最後の家づくりに挑んだのが、9年前である。
「キミの好きなようにしていいよ」という夫の寛大な言葉に甘え、本当に好き勝手につくった家である。
第一条件は、どの部屋にも光が届き、風が吹き抜けるということ。次に、自分の好きなものだけに囲まれて暮らしたいということ。
家族と暮らすと、自分の趣味ではない「家族の物」と暮らさなくてはいけない。
夫の趣味はデコラティブなヨーロピアン家具なのだが、私は好みのモダンでシンプルな家具を選んだ。
夫の趣味をことごとく否定する家づくりとなったのだが、それでも文句を言わない夫を見て、「この人は、基本、家のことに無関心なんだな」と気づいた。
そして結果として、これが私の今回の家づくりの成功となったのである。
ところが6年前に飼い始めた犬と、最近生まれた孫のために、色とりどりの玩具がリビングに持ち込まれ始め、私の法則は崩れ始めている。
それもまた、新たな幸せか。
PROFILE
さいもん・ふみ
1957年、徳島県生まれ。漫画家、エッセイスト。『東京ラブストーリー』『あすなろ白書』『同・級・生』は社会現象になるほど大ヒット。エッセイ集に『オトナのたしなみ』『老いては夫に従え』などがある。最新作は『恋する母たち』(小学館刊)1~5巻。