特別な空間と魚と野菜の組み合わせが楽しいイタリアン/ひと皿の向こう側

「モキチ」ことライター齊藤素子さんが、心躍るひと皿に込められたストーリーを紹介していくHERS本誌の人気連載。
WEBでは、さらに詳しくひと皿の「向こう側」にスポットをあてています。

モキチのブログ「ひと皿の向こう側」過去の記事はこちら

 

今回ご紹介するお店は、イタリア料理の店【S】。
イタリア語で“エッセ”と読みます。

恵比寿駅から徒歩5分ほどの距離、駅周辺の喧騒がフェイドアウトする辺り。白い壁に木の扉の一軒家。扉の横にほんのりと灯ったライトが照らす「S」の文字と小さな赤いポストが目印です。

店名の“S”にはどんな意味が? この“S”には清水明完シェフの想いがギュッと詰まっているのです。
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誌面でご紹介したのはこちらのひと皿、コースのメインとして供される「魚と野菜のオーブン焼き」です。旬の美味しさが溢れるとても美しいひと皿です。_EN_8079
魚はカマスとキンメダイ。7種類の野菜(ジャガイモ、タマネギ、アスパラ、ズッキーニ、万願寺トウガラシ、ナス、マッシュルーム)の上で蒸し焼きにした後、オーブンでふっくらと焼き上げます。そして、ローストしたパン粉とアーモンドの香ばしさや食感、トマトのコンソメとディルの花の爽やかな香りと味わいが、魚の旨味を引き立ててくれます。

お皿のふちに添えられているのは、ドライトマトのペーストにオリーブとケッパーを混ぜた旨味のかたまり。アクアパッツァやプッタネスカで馴染みのある味わいです。

「キンメダイは皮をパリッと焼いても美味しいし、煮付けにしても美味しいんですが、ふっくらと蒸し焼きにした方が魚そのものの味わいが伝わると思って」(清水シェフ)

そして、最初に供される突き出し「生ウニとお米のサラダ」は、一般的なサラダをイメージしていると「えっ??」となります。
材料はこちら。
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生ウニは2種類、バフンウニとムラサキウニ。
お米は栃木県産の減農薬で育てたコシヒカリ。茹でてシチリア産のレモン果汁と砂糖少々を混ぜ合わせたイタリア風酢飯です。
そして、海苔と辛味を抜いたタマネギのスライス。
それらを……。
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海苔の上に酢飯をのせ、タマネギのスライスと2種類の生ウニをのせます。そこに、シチリア産の粗めの塩をひと振り。

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このように、清水シェフから手渡されます。サラダというより手巻き寿司? でも、実はイタリアらしさが詰まっているのです。

「皆さん、驚かれます(笑)。イタリアではリゾットも食べますが、野菜や魚介と合わせて、お米をサラダ感覚で食べることも多いんです。

これは手巻き寿司風ですが、米は炊かずにイタリア式に茹で、酢の代わりにシチリア産のレモン果汁と少量の砂糖を使った酢飯にして、さらにタマネギを使うことでサラダ感を出しました。仕上げにはシチリア産の粗めの塩を少々。甘みがあってミネラル感も残っている塩です。

2種類のウニを使うことで旨味の複雑味が増して、より美味しくなると思います。こちらをお渡しする前に、2種類のウニを小さなスプーンにのせてお出しして、食べ比べをしていただくのですが、違いがよくわかると好評です」(清水シェフ)

そして、こちらは、冷たい前菜の定番のひと皿「カルパッチョ盛り合わせ」。
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この日の魚は、イワシ、ギンザケ、カマス、キンメダイ、シロイカ。それぞれに相性のいい野菜や果物、ハーブが組み合わせられています。

「イワシにはスモモの一品種で、酸味の強いソルダムを合わせました。イワシのほかにサバとも相性がいいんです」(清水シェフ)

できるだけ魚そのものの美味しさが伝わるように、シチリア産レモンの果汁とオリーブオイル、味付けは塩のみ。塩を振るタイミング、寝かせる時間など、魚によって細かく調整し、食べ頃のタイミングを逃さないという丁寧な仕事が感じられます。

そして、ワインのペアリングもお楽しみ。
清水シェフの料理を熟知しているマネージャーの瀬川健二さんがワインを選びます。

「料理とのペアリングを楽しみに毎月来てくださるお客様も多いので、前の月と同じものはなるべく選ばないように、また、単調にならなず楽しんでいただけるよう心がけています」(瀬川さん)
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右:「魚と野菜のオーブン焼き」と味わいたい奥野田ワイナリーの「ラ・フロレット ハナミズキ ブラン2108」 赤ワインのように果皮と種も一緒に仕込んで醸した黄金色の白ワイン。
「甲州種という日本独自のブドウを使用。甲州種の旨味がぎゅっと詰まった生産者の思いが伝わる、味わい深い白ワインです。清水の料理は和食に近いニュアンスがあるので、日本のワインとも相性がいいと思います」(瀬川さん)

中:「カルパッチョ盛り合わせ」に合わせるプンタ・クレーナ社「ヴェルメンティーノ 2017」(プンタ・クレーナ)は北イタリア、リグーリア州のワイン。ヴェルメンティーノ100%使用。
「定番のひと皿なので、毎月アイテムを変えるようにしていますが、基本はすっきり系の白ワイン。ミネラル感があってお料理の邪魔をしないクリアなものを選んでいます」(瀬川さん)

左:「生ウニとお米のサラダ」には、和田酒造「あら玉 Salute sae」。“洋食に合う和のお酒」をコンセプトに、和田酒造とかほくイタリア野菜研究会が共同開発したスパークリング酒。小さなグラスに注ぎ、突き出しとともにサービスで提供。

「とても繊細な泡が生ウニの繊細さ、お米の甘みに寄り添ってくれます」(瀬川さん)

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千駄ヶ谷の【マンジャペッシェ】で約8年間、料理長を務めるうちに、魚の魅力と奥深さにどんどん引き込まれていったという清水シェフ。コースには常時、約10種類の魚介が登場します。
店名の「S」は、清水シェフのさまざまな想いや願いをイタリア語で表現したところ、そのすべてが「S」で始まっていたことに由来するのだとか。

季節感=STAGIONE、おもてなし=SERVIZIO、特別=SPECIALE、空間=SPAZIO……。また、シェフとマネージャーの名字の頭文字も、ともに「S」。
そして、魚を愛する清水シェフのいちばんの願いは「魚って美味しい!」と思ってもらうこと。

なるほど。あ、SAKANAも加えたりして……。

どこよりも魚の種類が豊富で、一年中、美味しい魚が食べられる日本に暮らしている幸せを感じさせてくれる素敵なお店です。
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S(エッセ)
東京都渋谷区恵比寿南2-4-19
03-6412-7130
11:3014:3013:00L.O.)、18:00〜23:0021:00L.O.
定休日:日曜、水曜 201871OPEN
ディナーは2種類のコースのみ。¥8,000、¥10,000(ともに税別)

撮影/牧田健太郎 取材・文/齊藤素子 編集/川原田朝雄

 

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著者プロフィール:
「モキチ」ことライター齊藤素子。銀座・泰明小学校卒業。OLやギャラリー勤務を経て、1995年『VERY』創刊時にライター稼業を始める。食や旅のページを中心に雑誌やWEBで活躍中。その一方で、世界初の腰痛専門WEBマガジン『腰痛ラボ』では編集長を務める。