「ご清聴」「ご拝聴」どっちが正しい?語彙力クイズ5つ
日本語には似た表現が多くあります。
例えば、「なおざり」(=すべきことに取り組まない)と「おざなり」(=その場しのぎの対処をする)。どちらが合っているのか、悩んだ経験がある人は多いのではないでしょうか。
そこで今回は2択形式で、ふさわしい表現を選ぶ問題を用意しました。クイズで語彙力アップを目指しましょう!
(1)「卑下する」の使い方、どちらが正解?
A:「そんなに自分を卑下することはないよ。自信を持って堂々と!」
B:「他人を卑下するような態度を取る人は信用できない」
「卑下する」は、「謙遜する」「へりくだる」の類義語で自分を低く言うこと。
「私なんて……」「どうせ私は……」と言いがちな人に、「そんなに卑下しちゃダメだよ」と声をかけることがありますね。
「卑下する」の語義として、詳しい辞書には「他人を見下す、貶める」という意味も出てはいますが、その意味での「卑下する」は用例がごく限られており、一般的な使い方とは言えません。
正解:A(「卑下する」は、謙遜し、自分を低く言う使い方が一般的)
(2)「号泣する」の使い方、どちらが正解?
A:「映画館で号泣した」
B:「遺族の号泣する声が耳に残る」
「号泣する」の「号」の字は、「号令」「怒号」にも使われているように、大きな声を出すという意味です。
「号泣する」も大声を上げて泣くことを意味しますので、映画館で号泣するというのは考えにくい状況ですね。
正解:B(「号泣する」だと声を上げて泣くことになる)
(3)「ご清聴」「ご拝聴」、どちらが正解?
A:「長い間ご拝聴いただき、ありがとうございました」
B:「長い間ご清聴いただき、ありがとうございました」
「ご」が付いていても、「拝聴」は「拝」の字が入っており、「拝見する」同様の謙譲語にあたります。
謙譲語は自分たちの側に使う敬語ですので、相手が聞いてくれたことを言うのには不適切です。
「貴重なお話を拝聴でき、ありがたかったです」のように使います。
「ご清聴」は「ご」に加え、「清らか」という字を付けることで、相手を立てています。
なお、「ご静聴」という漢字変換はNG。大の大人相手に、「静かに聞いてくれてありがとう」というのは、かえって失礼な話です。
正解:B(「拝聴」は、「拝見する」同様の謙譲語なので、相手の動作に使わない)
(4)「存じ上げる」「存じる」この文脈ではどちらが正解?
A:「失礼ながら、その方法では上手くいかないように存じ上げます」
B:「失礼ながら、その方法では上手くいかないように存じます」
「存じ上げる」「存じる」はどちらも「知る」「思う」の謙譲語ですが、厳密には、
・存じ上げる・・・謙譲語Ⅰ
・存じる・・・ 謙譲語Ⅱ
という違いがあります。
謙譲語Ⅰの「存じ上げる」は目的語にあたる部分が、目上の人の時に使います。
「山田さまのことは前々から存じ上げておりました」
「御社のお名前は以前より存じ上げております」
のように使うわけです。今回の例文は「その方法では上手くいかない」という自分の意見がきているだけですので、「存じ上げる」にする必要はありません。
謙譲語Ⅱの「存じる」は、「思う」を一段階上品に感じさせる言葉です。より丁重な印象を与えたい時に使います。
正解:B(「存じ上げる」は、知っている対象が目上の人の時にだけ使う)
(5)「青田」関係の表現、どちらが正解?
A:「優秀な学生を青田買いする動きが広まっている」
B:「優秀な学生を青田刈りする動きが広まっている」
まだ稲の青いうちから取引を行う先物取引が「青田買い」です。
そこから転じ、優秀な学生を採用しようと、企業が早くから採用活動を行うことも「青田買い」と呼ばれるようになりました。
「青田刈り」という単語もあるにはありますが、こちらは、戦国時代に用いられた軍事作戦の一種で、敵の田んぼの稲が実る前に刈り取ってしまうこと。
敵陣営を食糧不足にしてしまうわけです。「優秀な学生を青田刈り」だと、優秀な学生を未熟なうちにつぶしてしまうという意味になり、おかしいです。
正解:A(稲が青いうちに目を付け、早めに取引に動くこと)
何個正解できましたか? 間違いやすい表現・言い回しはある程度、決まっているものです。
なぜこんな言い方をするのか、由来や根拠とともに覚えておけば、間違えにくくなりますよ!
文/吉田裕子
国語講師。塾やカルチャースクールなどで講師を務める他、『テストの花道 ニューベンゼミ』(NHK Eテレ)に国語の専門家として出演するなど、メディアでも活躍中。東京大学教養学部卒。
画像/PIXTA(ピクスタ)(Fast&Slow) 参考文献/吉田裕子著『たった一言で印象が変わる大人の日本語100』(ちくま新書)